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22 花火魔法の完成と、さらなる強化

 村の外に出ると、まずは森の方に向かった。フィーナは楽しそうに剣をにぎりしめながら、歩いていく。


「その剣がスケルトンが持ってた剣か」

 サヤがさびている。中身も似たようなものなんだろう。

「はい。ですが、できるだけ状態のいいものを見つけて、すこし()いだので、しばらくは問題ないかと思います」

「そうだといいがな……」

 フィーナの打ち込みのつよさを知っている身としては、不安だ。


「村に予備の剣とかないのか?」

「鉄などの素材じたい、村では貴重品なんです。戦闘スキルを持つものがほとんどいませんので、つよい魔物のいる洞窟には採掘に行けないのです。ですから、シュウ様が鉱石を村にくださったことはとてもありがたいことなんですよ」

「知らなかった……」

 あのデカミミズから鉱石がざくざく出てきてたら、また騒ぎになりそうだ。


「さて、シュウ様。そろそろ森です。私はまず魔物と戦いたいです! 薬草は後でとりたいです!」

「よし、フィーナの希望どおりいくか」

「はい!」


 俺も花火魔法の練習をしたい。敵寄せができるかもしれないし、まずは一発打ち上げるか。


「まず俺の練習をさせてくれ。敵が寄ってきたら倒していいぞ」

「練習……ですか?」

「ああ」


 腕を上げて、空を指さす。

 花火をイメージして、発動準備をする。


 射程:最大

 速度:−90%、ただし、拡散後周辺部だけ−85%

 威力:拡散後、5秒後に0

 色彩:白から無色、拡散後は赤


「光魔法――打上花火(ファイアワークス)発動」


 俺の指からは光の線が放たれ、いっしゅん消えたのち、ちいさな無数の光の粒となって、空におおきな赤い花を咲かせた。


 ――ほぼ無音だが、それは間違いなく花火だった。


「なかなかいいじゃないか」

 もとの世界で、長年、花火が出てくるアニメを見まくった成果だろう。ほぼイメージどおりの花火だ。

 あとは若干速さをかえたり、色を赤から青に変化させたりしたいな。


 色の指定=無色ができたことだけが幸運だった。おそらく、紫外線とか見えない光になっているのだろう。


「シュ、シュウ様……」

「ん?」

 横を見ると、フィーナが涙ぐんだ目で俺を見上げていた。


「すごすぎます……。本当に150メートルは火花が散っています。神話級の術士のおちからです……。フィーナはこんな奇跡を目にできただけでも幸せでございます……」

「大げさだ」

「これでもまだ魔法は完成ではないのですね」

「まだまだだな。もっとうまくやれるはずだ」

「さすがです……。大好きです……」

「あ、ありがとな」


 こんなかわいいフィーナに崇拝されるのも嬉しいな。願わくば、ならんで花火を見たいな。こんな下からの花火じゃなくて。


「もう一発いくか」

「まだ魔力が残っているんですか?」

「当たり前だろ。ほら」


 ふたたび、光魔法・打上花火(ファイアワークス)を発動する。

 今度は途中で赤から青に色を変えた。だいぶ慣れてきたぞ。軌道を変化させるオプションをつけられたら、俺が一番好きな花火、光が地面に垂れていく、いわゆる「しだれ柳」もできるかもしれない。


「……って、なにか来たぞ」

「え……」

 光にさそわれたのか、森の中から、大きなクマが出てきた。


「フォレストベアです。私に任せてください」

「あ、ああ……」

 けっこうデカいな。


 しかし、フィーナはおそれることなく、俺の前に立った。

 剣をさやに納めたまま、体の前で横に持っている。


「――明鏡止水(めいきょうしすい)

 フィーナは静かにつぶやいた。


 フォレストベアは爪を振り上げ、フィーナに襲いかかってくる。フィーナは動かず、剣を持ったまま止まっている。


「お、おい!」


 クマの爪がフィーナの頭に向け振りおろされたとき、カチン!という金属の音がした。

 クマの動きも止まる。


「――剣聖・真空一閃」


 すると、クマのみならず、背後10メートルほどの木々までもが、横に両断され、ばたばたと倒れていった。


「すごい……」

 なんちゅう威力だ。


 だが、フィーナは、

「あ、あ、あ〜〜」

 と情けない声を出した。見ると、スケルトンからうばった剣がぽろぽろと崩れていっているところだった。


 俺の目の前にはメッセージウィンドウが表示される。

『フィーナは剣聖の習得に失敗。振り抜き時に剣の乱れあり。真の力が出せていません』


「おお……」

 まだ強くなるというのか。


「シュ、シュウ様〜……」

 フィーナが俺の手を握り、上目遣いで見る。

「剣が折れてしまいました……。今日の戦いは終わりなのでしょうか……?」

「ま、約束だからな」

「そんな……。フィーナにはまだこの短剣があります」

 そう言って、フィーナは腰から下げていた短剣をとった。ナイフより少し長いくらいのものだ。


「それまで折れたらシャレにならないから、いざというとき以外使わないほうがいいだろ」

「うう……もう少しで剣聖になれたのに……」

 フィーナは泣きそうな顔で言った。


「さて、マナカの依頼でもこなすか」

「うう〜……」

 薬草と食料を集めるんだったな。このクマは食えるのかもな。あとは薬草か。魔物はまだ居るのかな。


「げ……」

 いま、とんでもないことに気づいてしまった。花火魔法に寄ってくる魔物がいるということは、花火大会を開くと魔物が集まるということじゃないか。

 どうしよう……。


「シュウ様?」

「う〜む……」


 ――あ、そうだ。元の世界でテレビで見たことがある。たしか、サルの被害で悩まされている田舎が、ロケット花火を使ってサルに恐怖をたたきこみ、人間世界への侵入をとめようとしていた。

 その原理でいえば、花火魔法で魔物をビビらせればいい。


「《勇者の資質》、行けるか?」

『はい、マイナーチェンジのため、スキルポイント50で、打上花火(ファイアワークス)タイプ追跡(ホーミング)が開発可能です。スキルポイントを使いますか?』


 俺の前に「はい/いいえ」のメッセージウィンドウが出る。俺は「はい」を選択した。


「シュウ様、どうされましたか……?」

「ま、見とけ」


 こんな風に花火を扱うのは不本意だが、仕方ない。それに、使い方によっては「しだれ柳」花火の作成にも役立ちそうだ。


「光魔法――打上花火(ファイアワークス)タイプ追跡(ホーミング)発動」


 すると、俺の指先から空に向かって無音の花火が放たれた。空に開いた白い光の花は、そのひとつひとつの粒を流星に変化させ、森の中へ落ちていった。


「え、え……!?」


 ドコドコ!と爆発音があちこちから聞こえる。

 気づけば、俺の体が淡く輝いていた。


「レベルアップか……」

『シュウの打上花火(ファイアワークス)タイプ追跡(ホーミング)により、32体の敵に合計873ヒット、平均9424ダメージ! 範囲内の敵を倒した!』


「シュウ様、今のは……?」

「俺の光魔法だ。この辺の敵はだいたい片付けたはずだ。見た魔物がビビってくれることを祈る」

「すごすぎます……」

 フィーナはその場にひれ伏しそうな様子で言った。


「念のためもう一発やっとくか」

「え……」


 もういちど、打上花火(ファイアワークス)タイプ追跡(ホーミング)を打ち上げる。追跡弾がほぼ1箇所に集まって落ちていく。


『シュウの打上花火(ファイアワークス)タイプ追跡(ホーミング)により、1体の敵に合計882ヒット、267663ダメージ! スライムを倒した!』


 おお、スライム1体か。かわいそうなことをしたな。だが、こんだけやれば恐怖を受け付けられただろう。


「シュウ様は本当にまだ強くなれるのですね……」

「ああ、たぶんな」

 スキルもたいして開発してないし、戦う気ならまだまだ強化できるだろう。


「さて、気を取り直して、あつめるべきものをあつめるか」

「は、はい!」


 俺とフィーナは、森を探索しながら、クマやイノシシなどの食べられそうな魔物や、薬草を集めていった。


 生きた魔物には1匹も出会わなかった。


「ブラックケルベロスみたいな強い敵はいないんだな」

「はい、シュウ様。ブラックケルベロスのような魔物は今この森にはいないはずです」

「なぜそう思うんだ?」


「シュウ様の神話級の魔法でやっつけただろうということもありますが……。マナカが言うには、ブラックケルベロスは大魔族ローゼスが作り出した魔物だからです。魔石にも細工のあとがあったと聞いています。ふだんこの森には高レベルの魔物はでません」

「へえ……」

 大魔族はあんな大きな犬ころを作れるんだな。


「もしかして、大魔族なんとかは魔王なのか?」

「そのとおりです、と断言もできますが……正しくは候補のひとり、というところです。このあたりでは、魔王としてふるまっています」

「調子に乗ってるということだな」

 フィーナのお父さんくらいしか強い部下もいないくせに。


「シュウ様に言わせれば、魔王もただの魔物なんですね」

「ま、どんなやつかはよく知らないがな」

「頼もしいです、ふふ」


 しばらくして、俺のアイテムボックスには、大量の薬草や食料が格納された。

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