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21 フィーナの剣と、再度の称賛

 朝食を食べ終わると、フィーナが食器を片づけてくれた。洗い終わった食器を拭きながらフィーナは言った。


「シュウ様は村のみなさまにお顔を見せてあげてください。皆さん心配されていますから」

「フィーナはどうするんだ?」

「私もシュウ様と一緒にみんなのところへ……そわそわ……」

「…………」


 先ほどスキルポイントを割り振った「剣聖」の習得に向けて鍛錬(たんれん)にはげみたいのだろう。新しいおもちゃをもらった子供のようにおちつきがない。


「……フィーナは村の外で魔物と戦ってきたらどうだ? 俺のことは気にしなくていい」

「でも……」

 うれしそうな、困ったような顔をしている。美人の困り顔というのもよいものだ。

「フィーナが剣聖スキルを習得できれば、村のみんなも安心だろうしな」

「……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 そのとき、玄関のドアがノックされた。

「シュウ君? 入るよー?」

「今行く」


 ドアを開けると、マナカが立っていた。赤い髪を両サイドでお団子にまとめている。


「シュウ君、気がついたのね。あら、フィーナもおはよう」

「おはようございます、マナカ」

「今日はちゃんと起きられたんだな」

「シュウ君? あたしだって、いつも寝坊しているわけじゃないんだからね?」

「たまに、だよね?」

「フィーナぁ?」

 フィーナは楽しそうにうふふと笑う。


「体調は大丈夫? 昨日はあたしのつきそいで鉱石探しもお願いしちゃったから、悪かったなと思って」

「体は問題なさそうだ。マナカの言ったとおり魔力切れみたいだ」


「村のみんなの傷も治してくれたからね。大神官シュウ様はすっかり人気者になってるわよ」

「人気者かぁ……」

「でも、シュウ様を最初に好きになったのは私ですから。ほこらしい気持ちです!」

「………そんなこと言ったら、あたしだってシュウ君とは事業パートナーだし……だっこしてもらったし……」

「お、おう……」

 元の世界では、あまり人に好かれてこなかったから気恥ずかしいな。だが、素直に嬉しい。


「ま、フィーナも言ったのかもしれないけど、村のみんなにも顔を見せてやりなよ。みんな待ってるよ」

「そうだな」

 急にみんなの前で倒れたんだもんな。心配もするか。

「で、さ。その前にちょっと相談なんだけど、昨日倒した魔物、シュウ君が保管してるんでしょ? あの大きなミミズみたいなやつ」

「ああ、いつでも出せるようになっている」

「……シュウ様とマナカでそんな魔物と戦っていたのですか……?」

「ああ、花火打ち上げ装置を作るためにな」

「そうですか……」

 あのデカミミズは体の中に宝石を溜め込んでいた。ぜいたくな魔物だ。


「あの魔物を解体したいのよ。で、宝石はぜんぶシュウ君に渡すからさ、武器の材料になる鉱石があったら村に売ってくれないかな」

「武器の材料?」

「ええ、とりあえず質の良い剣を作る必要があるから」

「なるほどな」

 正直、《光魔法》があれば俺は武器はいらないからな。近接戦闘はするつもりはないし。


「ま、解体してくれるなら、手間賃(てまちん)代わりに鉱石くらいやるよ。いつも世話になってるしな」

「ほ、本当!?」

「デカミミズの中に鉱石が入ってなかったら悪いがな」

「あたしの読みでは相当入っていると思うわよ? ディア結晶と同じ採掘地点だもの」

「まあ、いいさ。どうせ俺には石ころと見分けはつかないし」


「シュウ君は大物ね。さすが勇者様だわ。村の真ん中で魔物を解体したら、またみんなから歓声を浴びると思うわよ」

「……でも、マナカ。新しく作るという剣は誰が使うの? 戦いなら私が――」

「――フィーナ、あなたの剣よ」

「え……」


「あなた、昨日の戦いで剣折れちゃったから、まともな剣持ってないでしょう」

「あ、スケルトンが持ってた剣とサブで使ってた短剣が……」

「ほら、スケルトンの剣なんて、ずっと雨ざらしだったんだからちゃんとした戦いに耐えられるわけないでしょ! 短剣だってナイフみたいなものじゃない! そんなので戦わせるわけにはいかないわ!」


 すると、フィーナは気まずそうな顔をして、

「……剣を作ってもらえるのは嬉しいけど……。今日も鍛錬(たんれん)には行きたいかな〜って。弱い魔物なら大丈夫そうだし……」

「あんたねぇ……」


 スキルを強化した責任もある。俺は横から口を出した。

「剣はどのくらいでできあがるんだ?」

 マナカは少し考え、

「前の剣と同じぐらいの強度のものを作るなら、1週間は必要ね」

「だいぶかかるな」


「これはばかりは、ね。ナマクラつくってもしょうがないし」

「マナカが道具生成(クラフト)するのか?」

「いえ、メインの作業は《鍛冶》スキルを持ってるジルおばさんよ。あたしはシュウ君の打ち上げ装置を作るわ。あ、そうだ、剣用の鉱石と一緒にセレスト輝石(きせき)もちょうだいね」

「オーケーだ。てか、ありがとな」


「シュウ様ぁ……1週間もおあずけされるのは辛いです……」

 フィーナは泣きそうになりながら言った。

「早く私を剣聖にしてください……」


「うーむ……」

 新しいスキルを試して覚えたいというフィーナの気持ちもわかるな。しかも、「剣聖」だもんな。

 ――よし、決めた。


「俺とフィーナで外に出てもいいか? 敵が来たらすぐ村に戻れる範囲までしかいかないし、フィーナの剣が折れたりしたら村に連れ帰ってくるから」

「シュウ様……」


「まったく……」

 マナカはため息をつくと、

「フィーナはシュウ君に甘えてばかりなんだから。ま、いいわ。ちょうどいいのかもね」

「ちょうどいいって……?」

 フィーナは俺の服の(すそ)をつかみながら、マナカに問いかけた。


「昨日の戦いで村の回復薬がなくなったの。フィーナは薬草を採れるだけ採ってきて。運搬はシュウ君にお願いするわ」

「シュウ様にお荷物を持たせるわけには……」

「ふふ、大丈夫よね、シュウ君?」

「……まあな」

 アイテムボックスを使えば、いくらでも運べる。


「むー……。シュウ様とマナカだけの秘密があるんですか……? ずるいです……」

「何のことかなあ? えへへ」

 マナカはフィーナをからかっているようだ。

「……フィーナにもすぐ教えてやるよ」

 どうせデカミミズを取り出すんだしな。


「ま、冗談はともかくとして、ね。フィーナは薬草採取をお願い。あと、村長が言ってたんだけど、1週間後に昨日の勝利を祝う(うたげ)を開くってさ。できたら食材も集めてきてね」

「マナカはどうするの?」

「あたしは薬を作ったり、村の備蓄を製作(クラフト)するわ。あと、1週間後の宴会までに、シュウ君の魔法打ち上げ装置を完成させる」

「おお……」

 ついに、か。


「シュウ君も花火魔法とやらの調整をよろしくね。間に合えば、(うたげ)の最後に披露(ひろう)と行きましょう!」

「よし、絶対間に合わせるぞ」

 俺もフィーナと一緒に特訓だ!


 ⭐︎


 村の広場に移り、アイテムボックスから倒した鉱山喰い(マインイーター)を取り出すと、村はちょっとした騒ぎになった。

「シュウ様……これはどういう魔法なんですか?」

「なんど見ても原理はわからないわね」

「おはよう、大神官様。もう大丈夫なんだね、ってなんだこれ!? 討伐後の……魔物?」

「見、見ろよ! 中に宝石が入ってるぞ!」

「大神官様が倒したのですか? でも、どうやってここまで運んで……?」

「奇跡、奇跡だわ!」

「俺たちの治療(ちりょう)の前にこんな敵と戦ってくれていたの……?」

「私たちは大神官様になんてご無理を……」


 収拾がつかなくなってきたころ、マナカが手を叩いてあたりをしずめた。

「はいはい、誰か解体班を呼んできて! 中に宝石と鉱石が入っているはずだから! 素材の権利はシュウ君にあるから、宝石はシュウ君に渡してね! でも、鉱石についてはシュウ君が村に寄附(きふ)してくれるそうよ! 大事に使いましょうね!」

「うおおおお!」

「これで新しい道具が作れる!」

「大神官様、ありがとう!!」

「最高おお!」


 ……余計に騒がしくなった。村人はかわるがわる俺に握手を求めてきたり、お礼の言葉をかけてきた。もともとは俺が花火打ち上げ装置を作るための副産物だったのにな。ここまで感謝されるとは。


「そうだ」

 俺はアイテムボックスを確認する。


【持ち物一覧】

 ・セレスト輝石✕99

 ・水筒×1


「マナカ、セレスト輝石(きせき)は何個必要なんだ?」

「まあ、5個くらいは、かな」

「家の前に置いておくから、花火打ち上げ装置の製作(クラフト)をお願いしていいか? 俺はフィーナと特訓にいきたい」

「了解だわ。フィーナに無理はさせないでね」

「任せとけ」


 俺とフィーナは村の外へ向かった。フィーナは「るんるん」と喜びながら歩いていた。


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