表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/32

02 女神がくれたスキル

 目覚めたら木の枝に引っかかっていた。空から落ちてきて、すんでのところで墜落をまぬがれたようだ。


「痛ってぇ……。あの自己中女神め」


 なにが祭壇で目覚めるだ。ぜんぜん違うじゃねーかよ。蹴っ飛ばしたせいで転送する座標がズレたとか、そういうとこだろう。まわりは森のようだ。葉の隙間から陽光が差し込んでいる。


「ま、好都合か」

 下手に祭壇から登場なんてしたら、あの女神の目論見どおり群集から神の使いとか勇者とか祭り上げられていただろう。そうしたら、無理やり戦場に立たされていたかもしれない。

 過酷な戦いなんか願い下げだ。


 とはいえ、ここからどうしたものか。地上まで4メートルはあるし、枝をつたって降りるほどの自信はない。

 このまま骨になるまで樹上生活するのもごめんだが……。


 ーーステータスを開きなさい。


「ん……?」

 何か聞こえた気がする。ステータス? 幻聴か? まあいい。一人きりだし、とりあえず言ってみるか。

「ステータス、オープン!」

 ピピ……。

「おおっ」

 出た。どこかで見たとおりだ。俺の目の前、空中に半透明の黒いモニターみたいなものが現れた。指で操作もできる。枝を揺らさないよう静かに画面を動かす。


「なになに……」

 俺自身のレベルは1。能力値も二桁が多く、いわゆるチート級の数値は見られない。HPも防御力もインフレ値ではないので、地面に直撃して無傷というわけにはいかなそうだ。

 スキルは、っと……。


【スキル一覧】

《光魔法》:聖なる光を操り、攻撃・回復・結界・移動等に活用するもの。女神セレスの権能を授与された者のみが使用できるユニークスキルであり、同時代における所持者は1名のみとされる。


《勇者の資質》:仲間とともに世界を救うことを義務づけられた者に与えられる複合スキル。《アイテムボックス》、《鑑定(パーティの能力)》、《鑑定(敵対者の脅威)》など、冒険を有利に進めるスキルを複数使用できる。


 うわ、あの女神め、マジで微妙なスキルをよこしやがって。まず、両方のスキルとも自力でなんとかしなきゃ始まらないスキルじゃないかよ。俺のリクエストを無視するにしたってさ、モンスターテイマーとか、召喚とか、ゴーレム製造とか、俺が何もしなくてもなんとかなるスキルを寄越すのが転生時の礼儀じゃないでしょうかね。スキルの使い方もわからないし。

 さて、何を試すべきか。


 ーー《光魔法》双光翼エンジェリックウィングを発動しなさい。


「……え?」

 また聞こえた。なんだ? ここは地上4メートルの樹の上だから、俺に話しかけられるやつはいないはずだ。俺のスキルによるものなんだろうか。命令口調なのが気に障るけれど。


 他にできることもないので、とりあえず従うことにする。

 ステータス画面の《光魔法》の項目に触れると、新たな画面が表示された。そこには、


 光線(レイ)Lv1

 再生の光(ヒールライト)Lv1

 双光翼エンジェリックウィングLv1


 と記されていた。迷わず最下段の項目に触れる。すると、

『コマンド認識。双光翼エンジェリックウィングを手動実行します』

 と頭の中で声が響いた。


「お……!」

 瞬間、俺の背中から光の粒子が噴出された。粒子の輝きが左右の肩甲骨(けんこうこつ)から広がり、まるで翼のように見える。俺の体は枝からゆっくりと離れて宙に浮かび、やがて直立姿勢で安定した。


「これは……」

 念じる。すると、突風が俺に吹きつけた。ーーいや、違う。俺が移動したんだ。イメージに従い、空中を翔けることができる。粒子を散らしながら太陽に向けて昇る。下を見ると、俺がいた森を俯瞰(ふかん)することができた。


 これが《光魔法》の力か。かなりの速度が出せる。天使というより、アニメで見た機動戦士(メカ)のイメージに近い。ブースターを使って加速するかのような飛翔。


「なかなか楽しいな」

 やがて背中の粒子の密度が減り、推進力の減衰を感じた俺は、静かに地面へ降り立った。足が地につくと、背中の粒子は放出をやめた。


「これでLv1か。あの女神もひとつくらいは使えるスキルをくれたみたいだな」

 これは間違いなく逃げるためのスキルだ。飛べる敵がどれだけいるのかはわからないけれど、この速度についてこられるやつは少ないだろう。


「ーー《光魔法》の使い方はわかりましたか?」

「うおっ」

 いきなり耳元で声がしたので、反射的に身をよじる。するとそこには、二頭身のマスコットと化した女神が浮かんでいた。


双光翼エンジェリックウィングは仲間の危機に駆けつけたり、強敵と対峙するための能力です。ですが、気をつけてください。光子量の回復速度はLvに従い変化します。低Lvのうちは再び使用できるようになるまでかなりの時間がかかります」


「くく……そんなことより、なんだその姿は?」

 クレーンゲームの中に横たわっているのがお似合いだ。

「女神は基本的に下界に直接関わることはできません。現身(うつしみ)の構築もこれが限界でした」


「俺についてきて、無理矢理にでも戦わせるつもりか?」

「できれば同行したいのですが、わたくしにはもうこの姿を維持することすらできません。ですから、ここからは貴方の自由意志にゆだねるしかないのです。貴方だけが頼りなのです」

「ほうほう」


「ここで改めて確認します、シラミズ・シュウよ。貴方は《光魔法》の力の一端に触れました。しかし、真価はこんなものではありません。修練を積み、Lvを上げていけば、必ずやその刃は魔王にも届くでしょう。貴方はこの世界の救世主になれるのです。どうか、どうか、お力添えを」

「うーむ……」

 こういうときに言ってみたいセリフがあったんだ。もう言っちゃおうかな。


「シラミズ様、どうか」

「ほ、本当にぼくが世界を救えるんだな……。少し前までなんの力もなかった、このぼくが……」

「そのとおりです! さあ、行きましょう! 貴方の力を必要とする者がこの近くにも……」


「ーーだが断る」


「……は?」

「この白水修が最も尊いと思う事のひとつは花火大会デートだ! その夢が叶うまでは女神とて命令することは許さない!」

 おお、実際に「だが断る」というとすごく気持ちいいな。


「花火大会デートの夢が叶ってから、魔王討伐は検討してやるよ」

 検討は、ね。


 二頭身女神マスコットはなぜかぷるぷる揺れている。自分で揺らしているのかな。


「……シラミズ・シュウ。わたくしには貴方の言うことがほとんど理解できませんでした。しかし、ひとつだけ共感できることがありました」

「ふうん……ちなみに何だ?」

「それは、貴方が話してくれた花火というものの美しさです。空に咲く輝きの花。わたくしも実際に見てみたくなりました」

「俺の夢に協力してくれるのか?」

「ーーええ。この現身(からだ)に残された力はわずかですが、少しばかりはお手伝いいたします。そして、貴方に最初で最後のチュートリアル・タスクを課しますね」

「え……?」


「ーー生き延びて、レベルを上げてください」


 二頭身女神マスコットはにっこりと微笑んだ。すぐにその体は光の球に変わり、激しい光を放ちながら空へ昇っていく。そして、


 ーーぱぁん、ぱら、ぱら、ぱら、ぱら……。


 激しい音とともに、強い光が木々の隙間から地表に降り注いだ。白い光に包まれ、反射的に目を閉じる。目を開けると、羽根の形状をした白色の光が無数に、あたり一面に、ゆっくりと舞い落ちてきているところだった。実態がないのか木の葉や枝を透過しているようだ。手で触れようとすると、まるで砂のような粒子になり、消えた。


 二頭身マスコットめ、風情(ふぜい)の理解が中途半端だな。森の中、それに日中に花火をやるやつがあるか。

 これじゃまるで()()()だ。

 ま、最後の羽の乱舞はなかなかだったな。前の世界じゃ見られなかった。何も知らないやつが見たら、天使が降臨したように思うかもしれない。


 うるさいやつだったが、二頭身マスコットにも少しは殊勝な心がけがあったんだな。最後の頑張りは認めてやろう。


 さてと、自由になったことだし、これからどうするかな。双光翼エンジェリックウィングはまだリチャージできていない感覚がある。少し待って、再使用可能になったら街でも探すかな。まだ花火大会の夢を捨てるのは早いのかもしれない。このあたりの文化レベルを見てから、今後の方策を考えよう。


「……ん?」

 森の奥から地響きが聞こえる気がする。いや、聞こえる。めきめき、どしんという木々が倒れる音もする。しかも、だんだん近づいて来ている。隠れていた鳥たちが慌てて空に逃げた。


「ま、まずい」

 あのクソマスコットのせいで、何か良からぬことが起きている。それだけはわかった。この場から急いで離れないと! そう思った瞬間、


「ーー光の勇者様!」


 木々の間から、銀髪の少女が転がり出てきた。

「ああーー伝承のとおりなのですね。光の御柱(みはしら)を通り、天から勇者が現れると。お助けください、私だけでは、もう……」

 俺の手を握り、うるんだ瑠璃色の瞳で懇願する。近くで見ると、かなりかわいい。走ってきたせいか手のひらが熱く、体温が強く伝わってくる。


 ーーいや、そうじゃなくて。

 きっと、これはよくないことになる。


 俺は少女の手を振りほどき、木々の中に身を隠そうとした。その瞬間、ばきばき、と大きな音を立てて、目の前の木が倒れた。


 その後ろには、高さ3メートルはある、三ツ首の魔犬がいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ