17 花火魔法の開発(ひとまずの成功)と、異変
――前回、俺は花火魔法の開発に失敗した。
光魔法の色彩変化などがクソ女神の制限対象になっていて、半自動の魔法開発ができなかったからだ。
制限を踏まえて手動で魔法を開発するのは、非常に困難だった。
加えて、魔物の邪魔まで入った。
だが、今回は違う。
クソ女神のロックを突破し、出力調整は自由自在となった。
「今なら……できる」
花火魔法の開発段階では、細かいことは考えなくていい。
俺がすべきこと、それはカスタマイズ元の魔法である光線の力強さを残したまま、花火の形状をとることだ。それなら半自動で創れる。
色変えなどの調整は後でできる。
イメージする。
――指先から射出する光線。
――闇を切り裂き、空高く上昇。
――空中で拡散し、無数の小さな光が球体を形成。
それは、白色の花火だ。
『指定のとおり、魔法のカスタマイズ可能です。スキルポイント700が必要です。類似魔法がないため、命名権をシュウに付与します』
スキル《勇者の資質》から開発許可が下りる。
かなりポイントを使うが、このために溜め込んできたんだ。惜しくはない。
ウィンドウを操作し、ポイントを割り振る。
「……シュウ君? どうしたの、黙り込んじゃって……」
マナカが心配そうに覗き込んでくる。
「いや……」
せっかくだ、見せてあげよう。俺は脳内でイメージし、魔法の変数を調整した。
威力:最弱
射程:最小
速度:最低、ただし、拡散後1段階加速
色彩:オレンジ
魔法名は心に決めている。俺は発動時に命名した。
「光魔法――打上花火発動」
すると、俺の指先から、オレンジ色の光が宙に放たれ、20センチメートルほど浮かび、拡散、テニスボール程度の大きさまで花開いた。
「――花火魔法が完成した。今は手加減したが、本気で放てば、150メートルは火花がちらせる。後は美しく見せるための調整だけだ」
こうして、俺は花火魔法を正式に習得した。
☆
「後はあたしが打ち上げ装置を作るだけ、か。プレッシャーかかるなあ」
「いや、俺の魔法コントールもまだまだだ。少し練習させてくれ」
俺の花火魔法は、光の粒の統制が取れすぎてて、機械的だ。ドローンによる花火の再現みたいな雰囲気がある。
光の粒に速度差をつけたりして、本物に近づけていきたい。
あ、そうだ。本物といえば……。
「言い忘れていたが、俺の魔法は無音だ。本当の花火に近づけるためには、発動中に風切り音と爆発音を重ねる必要がある。できるか?」
「……簡単に言ってくれるわね。まあ、やりようはいくらでもあるけど」
「さすがマナカだな」
「ま、ね。シュウ君にスキルを強化してもらったおかげだけど」
「そういえば、あのデカミミズを倒したとき、マナカもレベルが上がってたな。さらにスキルを強化できるかもしれないぞ」
「そう? 可能ならゴーレム生成を強化したいかな。まだまだ強敵相手には通用しないってわかったし。ね、勇者様?」
「勇者様はやめてくれ……」
俺はマナカのスキルポイントをゴーレム生成に割り振った。技能Lvは6になった。
「さて、と」
服も乾いた。火ももうすぐ消えそうだ。
「そろそろ帰るか」
「……そうね。もう少しシュウ君と過ごしたい気持ちもあるけれど」
マナカはそう言って、くすくす笑う。
「からかうのはやめてくれ。行くぞ」
俺たちが入った洞窟は、村の南約3キロメートル、山のふもとにある。
ちょっとした森を抜けると、一気に視界が開け、草原が広がった。
日は傾き、オレンジ色の光が世界を染め尽くしていた。
「花火魔法も開発できたし、女神のパスコードも外してやった。いい1日だ。実に気持ちがいいな」
「あたしもレアなセレスト輝石をたくさん拾えたし、すごく幸せな気分。ちょっと怖いこともあったけどね」
しばらく歩くと、村の塀が見えてきた。夕食時だからか、村からは細い煙が立ち昇っている。
「……ん?」
最初に異変に気づいたのは、マナカだった。
「シュウ君……村の外にたくさん人が出ていない?」
「確かに……」
何やら人だかりのようなものができている。あの村にあんなに人がいたか?
それに、ときどき叫び声や金属音も聞こえてくる。
まさか……。
「魔物に襲われているのか……!」
「え……」
村に駆け寄ると、少しずつ状況が見えてきた。村の門の前で戦いが行われているらしい。
村の人間に対し、白い人型の何かが群れをなして襲いかかっている。あれは……。
「骸骨の戦士か……?」
「スケルトン――、死霊使いグレンダルよ!」
「死霊使い……?」
あの骨を操っているやつがいるということか。
「シュウ君、あの光の翼で飛んでいけないの?」
「あの魔法は使用制限がある。もう少し時間が経たないと使えないんだ」
「あたしが洞窟で不注意だったせいで……」
マナカは泣きそうな声で言った。
「グレンダルはジェイダークと同等の魔力を持っていると言われているわ。大魔族ローゼスには劣るけれど、たいへんな脅威よ」
ジェイダークと同じくらい……?
ジェイダークの名前は聞き覚えがある。たしか、前回俺の花火魔法の開発を邪魔した魔物だ。
意味もなくこそこそやってきては、俺を驚かした。つい追跡光弾でボコボコにしてしまった。
――何だ、あの程度か。
それなら怖くない。
「……走るか」
村人を死なせるのも気分が悪い。手伝えるなら手伝うか。
「……そうね。あたしたちにできることをしましょう」
俺はすぐに走り出そうとするマナカを制した。
「まだ行くな。ちょっと待ってくれ」
「え……?」
俺はマナカに手をかざした。
「――身体強化魔法」
マナカの身体が淡い光に包まれる。
「これって……?」
「身体強化魔法だ。しばらく早く走れるし、力も上がっている。効果持続時間はよく知らないから、気をつけてくれ」
俺自身にも同じ魔法をかける。
「さあ、いくか」
「は、はい、勇者様!」
俺とマナカは村に向けて駆け出した。マナカが俺のことを勇者呼びし始めたが、今は気にするときではない。
「はっ……はっ……」
俺とマナカは風のようなスピードで走っていく。元の世界でこんな速さで走ったことはなかった。こんなときに不謹慎だが、少し気持ちがいい。
村に近づくにつれて、だんだん状況が見えてきた。
スケルトンはおそらく200体以上いる。あまり統制がとれている様子もなく、ひたすら村の門に群がっている。
それぞれの手には、剣や盾が握られているようだ。だが、剣技を使っているという様子でもなく。ただ振り回しているといったほうがいい。
まさに、亡者の群れが数で押し切ろうとしているといった様相だ。
だが、村人側もやられっぱなしではなかった。
木材を振り回しているのは大工のオヤジさんだろうか。ガシャンという音とともに、白い骨が宙に舞っている。
あれは俺が強化した《大工》のスキル、剛力だろう。
また、ロープを使ってスケルトンを振り回しているものもいる。
あっちは《動物飼育》のスキル、ロープワークだ。
加えて、村の塀の隙間からは、火炎瓶が投げられたり、投石が放たれたりとサポートが入っている。
意外にも応戦できている。
スキルポイント割り振りさまさまといったところか。
てか……フィーナはどこにいるんだ? 最強剣士たるフィーナなら、あんな骨ども、さらには死霊使いのなんとかまで、一瞬で片付けられるのではないか。
「シュウ君、あっち! 見て!」
「ん……?」
マナカは門より右側、スケルトンの群れの奥を指差した。目を向けると、ふたつの人影が激しいスピードでぶつかり合うところだった。
「あれは……?」
片方はわかる。銀の髪に、よく着ている青い服。フィーナだ。
じゃあ、もう一方は? 黒い布を巻きつけて顔を隠している。体も黒いマントに包まれているが、手足は緑色のようだ。剣を握り、フィーナと打ち合っている。継続的に大きな金属音が響く。
「あのフィーナと戦えるやつがいるのか……?」
スキルポイント1300をつぎ込み、剣術の鬼となったフィーナだぞ……。
「……あれが死霊使いなのか?」
「いえ、違うわ。肌の色が違うし、剣も使わなかった。あたしの知らない、別の魔物よ……」
「そうか……」
フィーナひとりではまずいのかもしれない。
村の近くまで来たとき、マナカは言った。
「シュウ君、あたしは村の門へ行くわ。シュウ君はフィーナのサポートをお願い」
「……ああ」
正直、あの高レベルな戦いには関わりたくはない。だが、フィーナに補助魔法をかけることくらいはできるだろう。
――しょうがない。
「無理するなよ」
俺はマナカに左手の拳を突き出した。
「ええ、シュウ君も!」
マナカは右手を握り、俺の拳と合わせた。
俺はフィーナに向けて、駆けていく。




