15 頭脳派少女とレア鉱石
「行け、ネコちゃんゴーレムズ!」
マナカが手を前に降ると、石でできた3体の猫が大グモに飛びかかった。
猫は引っ掻いたり噛みついたりしながら、あっという間にクモを倒し、クモの体の中から何かを持ち帰ってきた。
「よしよし、魔石回収おっけー。よくやったわ」
マナカは小石程度の魔石をつまみ上げて、腰につけているポシェットにしまった。
「なかなか様になってきたな」
「おかげさまで、ね」
俺とマナカは、村の南にある洞窟にきていた。洞窟の奥で採れるセレスト鉱石とやらが、花火魔法打ち上げ装置の筒部分と、魔法を魔石に注入する際の媒介として必要になるらしい。
前情報どおり、特に強い魔物に出会うこともなく洞窟の中まで来れた。
道中、お化けキノコやら先ほどの大グモだといった魔物には遭遇したが、すべてマナカのゴーレムが倒してくれた。
俺の出番はまだない。
「意外とさくさく来れたわね」
「……フィーナに声をかけてこなくてよかったのか?」
「いいのよ、あたしだってできるんだってところ、見せてやるんだから」
マナカは魔石で作った魔力灯をかかげながら、前へ歩いていく。
「あ、シュウ君。7メートル先、前に大グモがいる。そろそろシュウ君の魔法も見せてよ」
「え……?」
大丈夫かな、こんな洞窟の中で。光線がLv9になってから、一度も使ってないから具合がわからない。
「見せてもらえないと、火花の魔法の具合もわからないから。楽勝でしょ、シュウ君なら」
「うーん……」
「ほら、シュウ君! クモ来るよ!」
まあ、いいか。距離もあるし。
「行くぞ……光線!」
俺の指先から放たれた光線は、大グモを貫き、洞窟の壁にあたって爆発した。轟音とともに地面が揺れる。
「きゃっ!」
マナカは俺の腕にしがみつく。粉塵が収まると、洞窟の壁には黒い穴が空いていた。
「……あー」
やっぱり。
マナカは俺のすぐ横でつぶやいた。
「なんて強さ……。フィーナがシュウ君のことを伝説級の術士というのもわかるわ……」
マナカの手が、俺の二の腕をぐっと掴む。あたたかい吐息が俺の腕にかかる。
「マ、マナカ……」
急に、さっきからマナカが俺の腕にしがみついていることを意識してしまった。身体が柔らかい……。
「あ……ご、ごめん!」
マナカは慌てて俺から離れた。体温がまだ残っている気がして、俺はそわそわしてしまう。
「……い、いや。俺こそ……」
「だ、だいぶ派手にやったね。あはは……」
気まずい時間が流れた。
「……それにしても、これがシュウ君のスキルなのね。この威力があれば、耐火性能とか関係なくブラックケルベロスを吹き飛ばせるのも納得だわ。この洞窟の壁だって、そう簡単に壊れるものではないでしょうに……」
マナカは魔力灯を俺が開けた横穴に向けて照らす。すると、奥から何かがキラリと光った気がした。
「ん……?」
マナカはトーチをかざしながら前へ進んでいく。
「シュウ君、ごめん。ちょっとついてきて。もしかしたら……」
「なんだ?」
言われるがまま、後ろを追う。
がらがらと音を立てながら、俺が崩した壁の奥に入っていく。どうやら空洞になっていたらしい。爆発の規模より、遥かに広い空間が広がっている。
マナカがトーチを掲げると、あたりは青緑に輝く鉱石で満たされていた。反射光だけではなく、かすかに自ら発光している。
「なんだこれ……」
「――セレスト輝石だわ」
「探していたものか?」
「もっといいものよ……!」
マナカは興奮した様子であちこちにトーチを向ける。
「セレスト鉱石は魔力の伝導効率がいいの。防具には向かないけど、魔道具の生成には欠かせないわ。そんなセレスト鉱石の中でも、自然状態から何度も魔力を吸い込み、魔力の伝達効率が著しく高まっているものがあるの。それがここにある、セレスト輝石よ。いや、すごいわよ、これ」
早口だな。だいぶテンションが上がっている。
「レアなのはわかったから、ちょっと落ち着けよ」
「落ち着けないわ! 宝の山よ! 金貨の山みたいなものよ」
マナカはどんどん前に進んでいく。
「お、おい」
マナカを呼び止めようとしたとき、自動的にメッセージウィンドウが表示された。
鉱山喰らい
レベル42
「マナカっ!」
「え………」
マナカは隆起した地面に足をかけたところだった。すると、突然地面はうねり、マナカを振り落とした。
「きゃっ!」
それは地面ではなかった。
「なんだ、あれ……!?」
それは、全長10メートルはあろうかというミミズのような生き物だった。
「――っ!」
ジィィィ!と鳴きながら、デカミミズは体の半分をムチのように地面に叩きつけた。地面はぴしぴしと音を立てながら、ひび割れていった。
「マナカっ!」
俺はとっさに身体強化魔法をかけて、マナカに駆け寄った。
「シュウ君っ!」
マナカの手をとった瞬間、地面が割れ、俺たちは地の底に落下していった。
「きゃあああああああっ!」
マナカを抱えたまま、ザバン!と地下水の中に落ちる。
地下水はそれほど深くなく、俺の腰の上あたりまでの水位だったが、衝撃はある程度吸収してくれたようだ。
「ぷはっ! 冷たっ!!」
「シュウ君っ! 前!」
「――っ!」
顔を上げると、さっきのデカミミズが洞窟の壁穴から出てくるところだった。ここはミミズの寝床なのかもしれない。
「ネ、ネコちゃんゴーレムズ!」
マナカは辺りに魔石を投げ、猫型のゴーレムを3体生成した。ネコは水の上を走ってミミズに突っ込んでいったが、頭の一振りですべてが塵と化した。
「あ……あ…………」
マナカは万策尽きたと言う顔でミミズを見ている。
――だが、それでは俺が困る。
「シュ、シュウ君……こんな大きな魔物……どうしたら……」
「ちょうどいい的が来たな」
「え…………?」
デカミミズは体をすべて横穴から出し、俺たちの前で蛇のように鎌首をもたげている。
「マナカ……。俺は一度花火魔法の開発をしようとしたんだが、邪魔が入って、変な魔法を創ってしまった」
「え、え…………?」
「とはいえ、たぶんこの失敗魔法に含まれる『拡散』の要素は、真の完成形でも使うと思うんだ」
「シュウ君……、いったい何を……」
「俺の魔法を見てくれ。そして気づいたことを教えてくれ」
デカミミズは、ジィィィ!と唸りながら俺たちに向けて迫ってくる。
俺は右手を前にかざし、念じた。
「――追跡光弾!」
「っ!」
俺の手からは多数の白い光弾が放射線状に散らばり、洞窟の壁を明るく照らした。
光弾はすべてミミズの頭部に向けて進み、直撃、無数の小爆発を起こした。
『マインイーターに30ヒット、合計11526のダメージ! マインイーターを倒した!』
デカミミズは大きなしぶきを上げて地下水に倒れ込み、そのまま動かなくなった。
「た、倒した、の……?」
「まあな」
すると、マナカは俺に抱きつき、
「や、やったあ! あたしたち、勝ったのね!」
「ああ」
そのとき、俺とマナカの体が淡く輝いた。レベルアップだ。
俺はレベル27、マナカも17まで上がっている。
「怖かったけど、生き残れた。シュウ君がいてくれて、本当に助かった……。ん……?」
マナカは俺から離れ、水面に浮かんでいた魔力灯を拾い、デカミミズの方に進んでいく。
「どうした?」
俺も後ろからついていく。
「あの魔物の頭のところ……シュウ君が光魔法で爆破したところに何かあるわ」
「え……?」
鉱山喰いの体内には、透明な結晶が入っていた。まるで巨大なダイヤモンドだ。
「これって、宝石か……?」
「ええ、かなり大きい。おそらくディア結晶よ。初めて見るわ」
「なんで体内に鉱石が……」
「……おそらく、この魔物の主食か鉱石なんだわ。食べた鉱石の一部を体内に溜め込んでいる。セレスト鉱石ところじゃない、大発見よ。でも、ぜんぶは持ち帰れないわね」
「確かに……」
この大きさ、何人いれば持ち上がるのだろうか?
そのとき、俺の頭の中に声が響いた。
『再度お知らせします』
俺のスキル《勇者の資質》による解説だ。あれ、勝手にメッセージウィンドウが開いた。
【スキル詳細】
《勇者の資質》:仲間とともに世界を救うことを義務づけられた者に与えられる複合スキル。《アイテムボックス》、《鑑定(パーティの能力)》、《鑑定(敵対者の脅威)》など、冒険を有利に進めるスキルを複数使用できる。
『シュウのスキル《勇者の資質》により、アイテムボックスが使用可能です。マインイーターの素材もまるごと持ち帰れます。使用しますか?』
空中に「はい」「いいえ」のメッセージウィンドウが現れた。指先で「はい」を押すと、デカミミズの体自体、透き通ってフェードアウトした。
デカミミズの姿が消えると、ウィンドウが表示された。
【持ち物一覧】
・マインイーター(素材回収前)✕1




