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12 行列のできるスキル相談所①

 翌日。

 よく晴れた、透き通るような青い空。


 俺の仮宿の入り口には、村人の列ができていた。

 列の周りでは、フィーナが金属製のメガホンで案内をしていた。


「え〜、皆様、整理札を配布しています。整理札をもらっていない方はお申し出ください。持っている方はお並びいただく必要はございませんので、一度ご自宅などにお戻りいただいても問題ありません」


 むかし通っていたラーメン屋のシステムにならって、そのように案内しているにも関わらず、村人全員が律儀に並び続けていた。神職に対する礼儀なのかもしれない。本当は神職ではないので罪悪感があるが。


 ――結局。

 俺はフィーナのお願いを聞き入れ、村人をスキルポイント割り振りで強化することにした。

 俺の身分は「記憶喪失の神職」と偽装した。


 協力したことにも訳がある。

 フィーナにタダ飯を食わせてもらっている負い目もあるが、それ以上に、戦える村人が増えれば俺がちょっとくらい魔法を使っても勇者だ神だと騒ぎ立てられることもなくなるかと思ったからだ。


「はーい、次の人」


 ドアを開けると、初日に会った老人が立っていた。たしか……。


「村長のパウルじゃ。シュウ殿が記憶を失った高位の神官とは知らず、一昨日は失礼した。実はわしも神職での。前の街に住んでいたころから、皆のスキルはわしが鑑定しておった」


「げっ……」


 俺のスキルを見られたら、《光魔法》と《勇者の資質》というクソ女神由来の能力がバレてしまう。その可能性を失念していた。


「シュウ殿はフィーナの力を目覚めさせてくれたと聞いておる。いったいどんなスキルを使われているのかな?」

「それは……」


 昨日の夜、一生懸命考えた。フィーナにも聞いてもらったが、大丈夫そうだった。

「《能力開花》だ。その人の積み重ねた経験値をスキルに活かすことができる」


 本当は《勇者の資質》で、スキルポイントの割り振りができるだけだが。この爺さんにはバレる前にとっとと帰ってもらおう。


「ほうほう、なるほど」

 村長は感心した様子で(うなず)いた。


「……わしらはセレス様の象徴たる太陽の輪に祈りを捧げ、スキルの信託を受ける。じゃが、その後スキルをどう使ってきたかを問われることはなかった」

「……うむ」


 ……話の中身はよくわからないが、神職のように重々しく相槌をうっておく。前の世界にいたときから、わかってるふりは得意だからな。


「シュウ殿のスキルは、ひとびとが信仰をどのように活かし、セレス様の恩寵(おんちょう)であるこの世界をよくしてきたのかを問うために、セレス様が授けたものかもしれないの」

「クソめが……ごふん! きっとセレス様もそのようにお考えなんだろう」


 危ない。冒涜の言葉を聞かれるところだった。

 クソ女神には、そんな深遠(しんえん)な考えなんてないぞ。


「さて、わしのスキルは申し出たほうがいいのかな?」

「いや……」


 ステータスウィンドウを表示させ、確認する。

 すると、


 パウル レベル16

【所持スキル】

 《スキル神託》スキル強化不可

 《解呪》 スキルポイント残:462


 と表示された。


「……《解呪》ができるんだな」

「ほう……!」


 村長は驚いた顔で言った。


「本当に、セレス様への祈りを介さず、スキルがわかるのじゃな。若いにも関わらず、記憶を失われる前は相当高位の神官だったと見受けられる」

「…………」


 なんか神託には細かい設定があるようだが、ボロがでないよう余計な口は挟まないことにした。

 その代わり、今後の方向性を問いかけることにした。


「……それで何を望むんだ? 解呪の力は強くできそうだが」

「ああ、わしは《解呪》で魔物由来の毒や呪いを治すことができた。この力を魔物との戦いに活かす方法はないか考えているんじゃが……」


「うーむ……」

 ウィンドウを見る。すると、


 呪い解除 → ★魔石砕き


 というルートが表示された。説明を見ると、どうやら魔物限定の即死魔法らしい。


「……強化は可能だ。だが、村長ももう歳なんだから、戦いは若い奴にやらせた方がいいんじゃないか」


 正直、フィーナがいれば大体なんとかなるんじゃないかと思うし。

 だが、村長は首をふり、


「そうはいかん。シュウ殿もお気づきだろう。この村には戦闘系スキルを使えるものがほとんどおらん。いるとしても、フィーナのような、つい最近まで子どもだったものばかりだ」

「……それは」


 確かに、今まで相談を受けた中で、戦いに直結するスキルを持っているものは少なかった。

 《農業》や《採集》、《採掘》などの生産系のスキルが多く、たまに戦闘系がいても、《合気》や《騎乗》など単体では活かしにくい能力ばかりだった。


 それにも関わらず、多くの村人は戦う能力を欲していた。


「……わしらが住んでいた街が魔物に奪われたのは、なんとなく聞いておろう。戦えるものは、みなそのときに死んでしまった」

「…………」


「わしらは隠し通路から逃してもらったんじゃ。次の世代に希望をつなぐため。そのときの無念を覚えているものは、守る力を何より欲しておる。何より、次への備えという意味もある」

「……わかった」


 俺は村長のスキルポイントをつぎ込めるだけ即死魔法「魔石砕き」の強化にあてた。


「これでいい。おそらく実際に魔物に使わないと習得は完了できないが、魔石砕きという技が使えるようになっている。射程は10メートルほどらしい」

「なるほど……魔物の心臓部である魔石を解呪するというわけじゃな」

 村長は、椅子から立ち上がり、


「シュウ殿、本当に感謝する。村人みんなの相談が終わったら、村をあげて感謝の場を設けさせていただく」

「気にしないでくれ。俺だって村に世話になってるんだからな」


 そして、俺はスキル相談を続けた。


 《農業》スキルから「刈取り」を。

 《調合》スキルから「火炎薬生成」を。

 《気配探知》スキルから「暗殺」を。


 それぞれ生み出した。


 ただ、人によっては戦闘に使えそうなスキルは生み出せなかったので、そういう場合は「調理技術」などの既存能力を強化することになった。


「ありがとう、シュウさん。わたしはこれからもみんなを後ろから支援するわ。シュウさんにも今度夕飯作ってあげるわ」

「どうも。待ってるよ」


 こうやってまとまった人数を強化して、わかってきたことがある。


 まず、同じスキルでも、人によってスキル強化の効率に個人差がある――一言でいえば才能差があることだ。


 ある人は5ポイントかかるところ、ある人は30ポイントかかるといった具合だ。

 また、実現できるスキルにも個人差がありそうだ。多くの村人は既存技能を強化できるばかりで、非現実的とまで言えるような技を使えるものは、ほとんどいなかった。


 そういう意味では、フィーナの才能は群を抜いていた。

 術技の強化効率に加え、遠距離斬撃という特殊技能。

 天才といって差し支えないレベルだ。


 ほかの村人は、一切戦えないという段階から、なんとか戦えるという段階になれた程度だった。


 村の生産能力はだいぶ上がったと思うが、戦闘能力はほどほどの上昇に留まっている。


 そんなことを考えながら、ドアを開ける。


「はーい、次の人」


 すると、そこに立っていたのは、赤髪お団子の少女、マナカだった。


「シュウ君、あたしも来ちゃった。よろしくね」


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