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決意

 今、ジュリアの目の前には俯く女がいる。

 数年前のジュリアのように俯いて泣いて、縋る物を追い求める女だ。


「誰かに責任を預けてるんじゃないわよ」


 その冷たい声は自然と唇から零れて落ちた。

 急に頼れる両親を失った時、不安にさいなまれてわかりやすく差し出された手にすがりついてジュリアはしくじった。

 当時の惨めな記憶がジュリアの頭には今でも色鮮やかに思い出される。


「叱られる? 何を言っているのよ、貴方が選んでいるのよ! そいつらに従うってことをね!」


 ジュリアの喉からほとばしった罵声に、アレッタは動きを止めて呆然とこちらを見る。その一体何を言われているのかわからないという表情にも苛立ちが募った。


「相手の言うことを鵜呑みにして、大人しくしたがってんじゃないわよ! 手放してるんじゃないわよ! 委ねてるんじゃないわよ! 貴方の人生の話でしょう!?」


 ジュリアは堂々と胸を張る。青い瞳は日の光を宿して輝き、けれど槍のようにその視線は険を含んで鋭かった。


「私の人生はね、全部私のものよ! 失敗しても成功しても、どっちも私の意思で、私がやったことなの! 誰かに取られるなんて、冗談じゃないわ!!」


 例え失敗したとしても、自らの納得した道を進んだゆえの結果ならばジュリアに悔いはなかった。けれどそうではなく納得の出来ないままやらされたことはいつまでも胸に禍根を残す。それは心に深く根を張り、無理矢理引きはがすことも出来ずにいつまでもじくじくと心を責めさいなんだ。


「貴方も人に任せたままなんて止めて、ちゃんと自分で自分の人生に責任を持ちなさいよ」


 アレッタのことを見つめて静かに告げる。

 その言葉に驚いた表情はそのままに、アレッタははらはらと涙を流した。


「責任、持ちたいです、わたし」


 その美しい滴は白い頬をつたって、地面へと落ちる。


「すべての責任を、私が持って、生きていきたい」

「だったらそうなさい」


 ジュリアはそう言い捨てる。


「貴方の人生は、貴方の物よ」


 嗚咽を漏らしながら、けれどアレッタは確かにしっかりと頷いた。

 




「ところで貴方、なんでそんなにびしょ濡れなの?」


 やっと泣き止んだアレッタの鼻水をハンカチで拭ってやりながらジュリアは訊ねた。すると彼女は川に落ちて流されたのだと言う。それで疑問が氷解した。

 どうしてアレッタのようなお嬢様がこの封鎖されている森に入れたのか。封鎖されていない上流の川からそのまま水面下を流されてきて、意図せず侵入を果たしてしまったのだ。その事実にジュリアは内心で舌打ちをして他に抜け道がないか封鎖状況のチェックをするべきだと脳内にメモした。


「とりあえず、貴方、しばらくうちで暮らしなさい」

「えっ? でも……」

「貴方みたいな世間知らずのお嬢様がいきなり放り出されて生きていけるわけないでしょ。あっという間にのたれ死ぬわよ。私もそそのかした手前あっさり死なれちゃ目覚めが悪いわ。うちでしばらく好きなように過ごしなさい。その間にやりたいことを決めて、学んで、自分で稼いで生活するの」


 ふん、と軽く鼻を鳴らす。


「もちろん、嫌なら出てって良いわよ。これはただの提案なんだから」


 ぽかんとしてこちらを見上げるアレッタに若干の不安は覚えるが、乗りかかった船だ、と腹をくくる。


「貴方が自分で決めなさい、自分の責任でね。失敗したって恨むんじゃないわよ」

「はい」


 そこで初めてアレッタは笑顔を見せた。

 小さく綻ぶように咲いたその笑顔は、これからに対する不安と期待、そして手に入れた覚悟を背負って凜として、とても美しかった。

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