双子の実と猫の呪い Ⅳ
「これって……、どういうことなんだろう……」
俺はイリュストラ達が出て行った扉を眺め、思わず言葉が漏れる。
呪いなんて非科学的な……と言いたくもなるが、魔法や妖魔が蔓延るこの世界において、非科学的なものを無視することのほうが非科学的である。
昨日と今日のイリュストラの違い、ウィロットもそれには疑問を抱いたようだ。
「昨日のお姫様とだいぶ感じが違いましたね。これが神様のお力なんでしょうか?」
「うん……、ティナード殿の話だとそうなるけど……。どう思う?」
俺はウィロットとカイン、そしてマリーに意見を求める。
ウィロットとカインから出た意見は俺が感じた印象と大きく変わるものはなかったが、マリーは少し気になった点があるという。
「イリュストラ姫殿下とは、昨日は大変沢山目が合いました。けど、今日はほとんど合うことはありませんでした」
「目が合う?それはどういう意味だ?」
「どういうと言われても……。そのままの意味です」
思い返せば、確かに昨日イリュストラはウィロットやマリーをよく気にしていた印象がある。
それと比べて今日はどうだっただろうか?
確かに今日のイリュストラは終始ウィロットの話に夢中で、その視線は常に彼女に向いていた。
となればマリーへ視線を向ける回数は少なくなるのは当然だが、それでも昨日は二人の何が気になっていたのだろうか。
「ウィロットとカインは、マリーがいうことに関してどう思う?」
「わたしはそもそも、昨日も今日もイリュストラ姫と目が合ったことは一度もありません」
そう答えるカインは、心なしか面白くなさそうだ。
「まあ、なんだかんだ同性が気になるもんだよ。カインもそういうことを気にするんだな」
「私は何も気にしていません」
俺の言葉に、カインは少しムッとする。
「カイン様、ユケイ様にそんな態度をしてはいけません。不敬ですよ?」
「お前が言うな」
ウィロットは普段不敬だ不敬だと言われている仕返しなのか、言ってやったと言わんばかりの表情を浮かべてふふんと鼻をならした。
「あと、この花について何か心当たりはないか?」
俺はイリュストラが残した花を指差す。
ウィロットたちはそれを見てしばらく考えるが、一様に首を横に振った。
「それって何か関係あるんですか?」
「いや、わからないけど。けど、一つの木に二種類の実を付けるって、すごく珍しいことなんだ。同じ実が色違いになる植物は稀にあるんだけどね」
「ベリーに時々ありますね。色が違えば味も違うと聞いたことがあります」
「うん、マリーの言う通り、実の中の成分によって色が変わるんだ。けど、それは木によって色が違うということであって、イリュストラ姫が言うように一つの木に違う実をつける訳ではないんだよ。なんとなくあの時の姫の表情が気になって……」
あの時の彼女の表情、とても愛おしげに花を見つめていたような気がする。
何かこの花に特別な思い入れがあるのだろうか。
「そういえばお姫様の双子のご兄弟って、どんな方なんですか?」
「ああ、えっと、プリオス王子とおっしゃったと思う。俺も話に聞いただけなんだけど、とても聡明な方らしいが、少し体が弱いという話だよ」
イリュストラも年齢を考えれば十分に聡明と言えるが。
話によるとプリオスは生まれつき体が弱く、ほとんどその姿を人前に見せることはないという。
まったく丈夫に産まれなければならず、魔法も使えなければならず、王家は王家で大変だ。
もっとも、明日の命もわからない人も多くいるのだ。それに比べればいかに恵まれているかは言うまでもないが。
「色々と調べたいことがあるな……。花の正体も何か関係しているかもしれない。少なくともイリュストラ姫はそれの実を食べたと言っていたからね。あとは、猫が集まる中庭も見てみたいな」
「そういえばアルナーグのお城でも、冬の間日当たりがいい場所に猫が集まったりしてましたね」
ウィロットが言う通り、前世でもそういった光景を見たことがある。
それより何より、呪いに関してだ。
俺は自分の魔力の目を持たないという境遇を打開するため、魔法に関する書物を多く読み漁った。しかし、今回の件が本当に呪いであるとすれば、それに関する知識が全く足りていない。
「もし本当にイリュストラ姫の症状が呪いと関係しているんだったら、当然その呪いをかけた人がいるっていうことだよね。呪いって誰がかけれるのかな?魔女とか陰陽師とかかな?」
「おんみょうじと言うのは聞いたことはありませんが、魔女は独自の奇妙な術を使うそうです。呪いとは少し違うと思いますが……」
俺の疑問にカインが答える。
そうか。そもそもイリュストラの噂は「猫に憑かれている」ということだった。
「呪いに関しても調べないとな……。図書室でも使わせてくれればいいんだが」
「それではティナード様に、事件解決のためだと言って申し出てみてはいかがですか?」
「えっ……?」
「……どうされましたか?」
「いや、カインは俺が部屋から出るのに反対すると思っていたから」
「もちろん警護のことを考えれば部屋にいて頂いた方がよろしいですが、いつまでもこのままというわけにはいきません」
「……アゼルだったら絶対に反対するだろうけどね」
「それはそうでしょうね」
俺とカインはクスリと小さく笑い合う。
「まあ、それが許されるならアゼルの顔を見に行きたいよ。ウィロット、アゼルの様子を少し見てきてくれないか?あと、マリーはダメ元で図書室を使わせてくれないか、ティナードに手紙を書いてくれ」
「だめもととはどういう意味でしょうか?」
「あ、ああ。『駄目かも知れないのを分かった上で』っていう意味だよ」
「そうですか。ユケイ王子は変わった言葉を使われますね」
「……その話はもういいだろ?手紙を書いてくれよ」
そしてマリーはあっという間に手紙を書き上げ、その結果、次の日ティナードの代わりに現れたのは一人の女性文官だった。
「ユケイ・アルナーグ王子殿下、お初にお目にかかります。わたしはミコリーナと申します……」
彼女は緊張した表情を浮かべ、俺に深々と頭を下げた。




