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才の無い貴族と悪魔王  作者: そんたく
新しい旅立ち
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もう一つの陰謀【閑話】

 リセッシュを出発して2日目のことだ。

 アセリアから話を聞いたと思われるウィロットは、次の日別人のように落ち込んではいたが、今日はすっかりいつも通りの様子を取り戻していた。

 もちろんいつも通りなんてことはないだろう。彼女なりに気を使い、明るく振る舞っているのだ。


 そして日が天頂を過ぎ、街道脇で野営を取り昼食を終えた後のことだった。


「あれ?おかしいなぁ?」


 ウィロットの間の抜けた声が聞こえてくる。

 彼女の方を見ると、荷馬車の中に頭を突っ込んで何かを探しているようだった。


「ウィロット、どうしたんだい?」

「あ、その、ぜんぜんたいしたことではないんですけど……」


 そう言いながらも彼女は探し物の手を止める気配がない。


「なんだよ、気になるだろ?」

「あ、ごめんなさい、ユケイ様。あの、『あやとり』がないんです」

「あやとり?あやとりの紐がないってこと?」

「はい。確かに荷馬車にしまっておいたはずなんですけど……」

「そうなんだ。リセッシュに入る前、休憩した時に使ってただろ?」

「はい。その時ちゃんとしまったはずなんです」

「どこかに落としたんじゃないか?」

「そう……かも知れませんね」


 ウィロットは一瞬だけ名残惜しそうな表情を見せたが、すぐにそのことは忘れたかのように出発の準備を始めた。


「……ほんとに落としたのかな?」


 何かが引っかかる。

 あの時あの場所で休憩したことが、リセッシュでの騒動の発端となったのだ。


 ウィロットが使っていたあやとりの紐、それは動物の(けん)で作ったと言っていた。


「もしそれが落としたんじゃなかったら、火打金と一緒に盗まれたってことかな?他に無くなっている物ってなかったよな……」

「あの、ユケイ様……」


 俺とウィロットのやり取りを聞いていたのか、アセリアがそっと傍にやってくる。


「もう一つ無くなったものがあります。正確に無くなったかどうかは分かりませんが、荷馬車の板バネが半分無くなっています」

「ああ、そういえばそんなこと言っていたね」


 そうだ。確かにアセリアからその報告は受けていた。

 板バネとあやとり……。

 言い方を変えれば、固く弾力のある木材と、動物の腱だ。

 その2つを組み合わせて作れる物を、俺は知っている。それは……


「弓だ……」


 俺たちはこの時、……正確には昨日の夜、リセッシュである事件が起きていたことを知ることはなかった。

 

ブクマ、評価、感想、誤字報告ありがとうございます。

ウィロットやアセリアの過去の活躍が気になった方は、ぜひこちらもどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n7183ib/

才の無い貴族と毒見少女の憂鬱(完結済み)

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