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第一話 曖昧弁当  作者: 湊ようこう
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曖昧弁当

「・きて。」


 誰かの声が聞こえる。


「起きて。」


 誰かがおこそうとしてくる。

 しかし、起きたくない。

 俺はまだ寝てたいと言う気持ちを表すように、声の聞こえる方向と反対の方向に寝返りを打つ。


「いいかげんに、起きろ!」


 声の主に頭を叩かれて起こされる。


「おはようございます!」


「やっと起きたか。」


 声の主は幼馴染の彩芽だった。

 佐藤彩芽、長い白髪(はくはつ)と真紅の瞳が特徴で俺が通う高校のバスケ部で一年生ながらエースと呼ばれている。

 男子から結構人気があるらしい。


「おはよう彩芽。」


「挨拶するのは偉いけど、さっさと準備しないと遅刻するぞ。」


 時計を見ると時刻は、7時45分を指していて登校時間の15分前だった。


「彩芽もっと早く起こしてよ!」


「はぁ!?私は何回も起こしました!」


「じゃあ最初から全力で起こしてくれよ!」


「そうしたらそうしたで、あんた不機嫌になるでしょ!」


 ぐぅの音もでない反論をされてしまった。


「二人とも、痴話喧嘩してないで早く行きなさい!」


 一階のリビングからおふくろの怒鳴り声が鳴り響いた。

 

「ほら、おばさんも怒ってるしさっさと支度していくよ。」


「はーい。」


 彩芽は先に玄関まで行き、俺は早々に制服に着替える。

 着替え終わり、階段を早歩きで降りる。


「おふくろ、弁当ありがとな。じゃ、行ってきます。」


「おばさん、行ってきます。」


「いってらっしゃい。二人とも気をつけてね。」


 リビングの机にあった弁当を取り、彩芽と一緒に家を出る。

 何日かに一回ある日常だ。


「そういえば、今日は朝練ないのか?」


「あったら起こしに行ってないよ。」


「それもそっか。あれ、そういや美咲は?休みか?」


「いや、なんか遅刻してでもやることがあるらしい。」


 今会話に出てきたのは、俺のもう1人の幼馴染の清水美咲。

 外見はこれと言って特徴がない。

 あるとすれば胸がでかいところだ。

 外見以外で特徴を挙げるとすれば、コミュ症陰キャなところである。

 それにしてもやることとは?頭上にクエスチョンマークを浮かべるも、答えが一向に思い浮かばないから考えるのを諦める。


「ていうか、テスト近いけど朔は大丈夫なのか?」


「ん?大丈夫、大丈夫。彩芽がいるから安心安心。」


「勉強教えるなんて言ってないんだけど。」


「教えてくださいお願いします。」


「全く、しょうがないな。」


 しょうがないと言いつつも、少しだけ嬉しそうにする彩芽。

 なんで嬉しそうなのかはさっぱりわからないけど。


「ていうか、昔は自分で起きてただろ。なんで起きれなくなったんだ?」


「あれ、彩芽に言ってなかったっけ。俺、小説書いてるんだよ。」


「あぁ、前言ってた気がする。でも、本気だったんだな。」


「当たり前だろ。俺は、やる時はやる男になりたいんだ。」


「へー。で、どんな小説書いてるんだ?」


「え、そ、それはー。できてからのお楽しみってことで!」


「じゃ、楽しみに待っとくな!」


 言えない、幼馴染二人を題材にした百合小説を書いててモデルは彩芽と美咲です。なんて、言えない。

 あ、今言った

 できたら、まず謝ろう。コンクリの上で頭を擦り付けながら土下座しよう。

 そんなこんなで、会話をしていたら学校に到着。

 下駄箱で靴を履き替える。


「じゃあ私、教室あっちだから。」


「うん。じゃあまた後で。」


 俺と彩芽は、教室が反対方向にあるため下駄箱で一旦別れることになる。

 小中と一緒だった分少しだけ寂しいと思う。

 まぁ、本人の前で言ったら変な反応をされそうなので言わないようにしてる。

 教室につき、自席に座る。

 

 キーンコーンカーンコーン


 朝のチャイムが鳴る。


「はい、出席をとります。えーと、清水は今日休みか?連絡が来てないけど。石田、何か知ってるか?」


「諸事情により遅刻するそうです。」


「わかった。」


 その後、ホームルームを終えると、クラスの友達が話しかけに来る。


「なぁなぁ、なんで清水さんの事情知ってるんだよ?やっぱり、付き合ってたりして!」


「そんなんじゃねぇって。俺とあいつは、ただの幼馴染だ。」


「ふーん。ま、そう言うことにしといてやるよ。それにしても、清水さんって可愛いよなぁ。学校でもトップクラスの美少女だよなぁ。お前は、毎日一緒に帰れて幸せもんだな、朔。」


 ダル絡みをしてくるこいつは、鈴村幸也(すずむらゆきや)こと、ゆっきーである。


「でもあいつ、コミュ障だぞ?」


「じゃあ、なんでお前は普通に話せてるんだよ。」


「幼馴染だから、だろ。」


「そういうもんかねぇ。」


「そういうもんだ。」


 ゆっきーとの会話を終えた時、教室のドアが開いた。

 美咲がやっと到着した。

 

「お、愛しの嫁さんが登場したぞ。」


「そんなんじゃねえって。」


「はいはい。じゃ、また後でなー。」


 たく、ほんとにただの幼馴染だっつーの。


「朔、おはよう。」


「おはよう、美咲。なんで遅れたんだ?」


「急に聞いてくるね。まぁ、待ってくれたまえ。時が来れば全てわかる。」


「その時が早くくることを祈ってるよ。」


「うん!」


 俺に対してはこのように、素で話せるのだが、クラスメイトに話しかけられると


「美咲ちゃんおはよう!」


「あ、お、おはょぅ。」


 このようにコミュ障になってしまう。そのせいで、普通に話せる俺は男子達に嫉妬の目で見られることになる。

 ま、美少女幼馴染が俺とだけ話せるって言うのはオタクの俺にとって悪いことでもない。

 気づけば一時間目が始まる時間になっていた。

 それから四時間目まで頑張った。


「っ、つかれたぁ。」


 疲れながらもあっという間に四時間目が終わり、お昼の時間だ。


「朔、早く屋上いこ!」


「あぁ。」


 俺と美咲は、昼になると彩芽と一緒に屋上でご飯を食べる。

 屋上に着くと、彩芽がすでに待っていた。


「二人とも遅いよー。」


「ごめんね〜彩芽。」


「別にいいけど、なんで今日は遅れてきたんだ?」


「まぁまぁ、みてくれたまえ。」


 美咲が自信満々に見せてきたものは、


「「弁当?」」


 まさかの弁当が出てきて彩芽とハモる。


「そう!私から彩芽への愛妻弁当!召し上がれ〜。」


「え、私弁当持ってきてるんだけど。」


「大丈夫!残したら朔が食べてくれる!」


 俺、結構少食なんだけど。

 まぁ、彩芽なら断ってくれるか。


「それなら、いただこうかな。美咲の愛妻弁当。」


 俺のことも考えて!?

 食べ切れる保証とかないから!

 ツッコミたい感情を抑える。

 ここで弱音を吐いたら、男が廃る。


「いただきます。」


 彩芽が食べる様子を俺と美咲で見つめる。

 願わくば美咲があーんして、彩芽がそれを食べると言う百合が見たかった。


「どう?どう?」


 少しだけ食べた彩芽に感想を聞く美咲。


「んー、なんか、よくわからん。」


「え!?ど、どういうこと?」


「しょっぱいような、甘いような、辛いような味がするんだ。」


 何を言ってるんだと思いながら、一口拝借する。


「あー、確かに。なんて言うか、味がはっきりしない感じ。」


「「愛妻弁当って言うより、曖昧弁当だな。」」


 また、彩芽とハモる。


「二人揃って酷いよー!」


「ま、料理は経験が物を言うと思うから今後も頑張ればいいんじゃないか?」


「朔、料理できたよね?」


「え、まーうん。ある程度は。」


「教えてください!」


 学校でもトップクラスの美少女が、美味しくもない弁当を作り、オタク男子に料理の教えを乞う姿は、実に滑稽だった。


お読みくださり、ありがとうございます。

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