敢えて言わせて貰えば【ホットドッグ】しか認めんのだ!
食のエッセイでは有りますが、ホットドッグの事以外書いていません。ホットドッグが好きな稲村某が一心不乱で書き上げたホットドッグテロの作品です。
お久し振りですね、稲村某で御座います。
タイトルのまんまの内容です。パニーニがいいとか、ハンバーガーはどうだとか、ナンカレードッグを忘れるなと言った意見はスルーします。そんな意見をお持ちの方も、この先を読んだら稲村某と同じホットドッグ至上主義者、略してホ至者(今考えた)になるでしょうから関係無いのです。ホ至者万歳。
ホットドッグである。
昨今、地方の町起こしの起爆剤としてご当地ホットドッグなるモノも登場し、群雄割拠の様相を呈していますが、そんなモノは関係無く稲村某はホットドッグなのである。
ホットドッグを知らぬ?
いや、ご冗談を……ホットドッグを知らない、という御仁は、生まれてから一度もソーセージをパンに挟まないで生きてきた訳になる。そんな事は鍵穴に鍵を入れた事が無い、とかコーヒーにミルクを入れた事が無い、というレベルの希薄な生活をしてきた方だけだと思う。執事が全てしてくれる想像上のお嬢様&御坊っちゃまな、レア過ぎる方しか居なかろう。そんな訳でホットドッグの詳細な歴史や来歴をこの場で書き記す事はしない。
ホットドッグである。
実にシンプルな料理である。茹でた後、軽く焼いて芳ばしさを付けたソーセージを、縦に割ったパンに挟んでケチャップとマスタードを掛けて食するだけ。基本はこれだけである。
だがしかし、ホットドッグなのだ。
ソーセージの太さは直径2センチ。これより細いと物足りず、かといって太過ぎても、パンに勝り過分でしかない。要は丁度良い塩梅は2センチに保って欲しい。中身は出来れば粗挽きが好ましいが、黒豚だの三元豚だのといった銘柄は関係無い。脂肪と肉質のバランスさえ整っていれば構わない。但し、ケーシング(外側の皮)は腸詰めで無ければ虚しい。ホットドッグには赤いウインナーは邪道である。
トッピングは刻んだタマネギがお勧めだ。少し水に晒しても構わないが、水気はしっかりと切って欲しい。パンが濡れてしまうと折角の組み合わせが台無しになる。辛味は大切なので、塩揉みして辛味を殺す事は避けて欲しい。
ピクルスは太めのモノを輪切りにしてほしい。ザクザクと粗みじんに刻んでも良いが、歯触りは大事なので最小限に留めて欲しい。銘柄やブランドは指定しない。多ければ多い程有り難いが、ピクルスだらけは味が狂う。適量が大切である。
レタス……は、有っても無くても良い。いや、寧ろ無くて構わない。レタスはパンに余分なケチャップが染み込まない代わりに、ソーセージの皮が持つ歯応えを損なってしまう。どうしても入れたい御仁は、千切りにして下に挟む程度をお勧めしたい。
ケチャップは出来ればデルモンテ。いや国産の瑞々しいトマトの風味が、と仰有る方も多かろうが、国内メーカー製のケチャップは、ケチャップ本来の魚醤の代わりを成す独特の風味が希薄なのだ。ホットドッグに不可欠なドロッとした濃厚な味は、デルモンテに軍配が挙がる。国内メーカー(味の素・キューピー・キッコーマン等)は各々に味わいはあるが、ドロリとした粘度が希薄でトマト本来の旨味も物足りない気がする。トンカツソース等をブレンドすればと言った意見は黙殺させて頂く。
マスタードは、これは……粒マスタードが良い。良いが……たまに真っ黄色な辛いだけのマスタードも悪くない。ソーセージ自体が強い味わいの物だった時、辛い辛いマスタードで全体を引き締めるのも必要な選択である。その際はこの世の終わりとばかりブッ掛けて貰いたい。
パンは軽く表面が焼けていれば良い。種類はポピュラーなドッグパンが好ましいが、フランスパン生地も捨て難い。あのザクッとした焼き上がりと表面のサクッとした歯応えは悪くないが、余り固くても折角のソーセージの食感が損なわれてしまう。ソフトフランスパンなら適材に思われる。
さて、さて。早速ホットドッグを愉しもうじゃないか。
スッ、と刃を入れたパンズを軽くトーストしながら、傍らで茹で上がったソーセージをフライパンに入れる。じくじくと温まり始めたら小匙半分の油を差し、ジュワッと弾ける熱気で表面に軽く焦げ目を付ける。飾り包丁で斜めに切れ目を入れるのは、皮が必要以上に裂けるのを避ける為である。
やがてパンズとソーセージが温まったら、パンの内側に僅かな量のマーガリンを塗る。味付けより表面保護の為に近いが、ソフトフランス生地はバターを使っていないので味の補完的意味合いも有る。
おお、忘れないうちにタマネギを入れよう。後から載せるのも悪くないが、それは「盛れるだけ盛ってもトッピング無料」を視覚的に満足させるだけ。食べ易さは敷いた方が絶対に良い。この時にピクルスを入れるべきだが、オリーブも入れて構わない。但し、オリーブは控えめが好ましいが。
ここまで来れば、残り僅か。ケチャップをソーセージの上に載せよう。湯気の立つソーセージにケチャップのコーティングだと味がくどい? いやいやホットドッグはケチャップの味次第なのだ、遠慮したら味気無くて堪らん。マスタードも、うねうねと容赦なく掛けて貰いたい。辛さなんて気にするな。
ああ、ようやくだ。ホットドッグを味わおう。
……はしゅっ、とソーセージの皮が弾ける感触が前歯から伝わり、物語が今まさに幕を開ける。
まず、充分に加熱された腸詰めから迸る肉汁と油滴が口内に溢れ、熱さに耐えながら一噛み。ああ、これだと思わず唸りたくなるような肉の旨味そして皮の噛み応えが口一杯に広がる。
直ぐに舌へとケチャップの重厚な酸味そしてトマトの滋味が到来し、脳に直接響き渡る打撃を与える。肉とトマトの組み合わせは、もしかすると悪魔が人を堕落させる為に遣わしたアイデアかもしれないが、悦んで享受しよう。
いやいや、旨いからと次の一口を求める余り、慌てて飲み込むのは早計だ。まだ奥に潜む様々な伏兵達を迎え撃つべきである。
粒マスタードのプチプチとした小気味良い調べは、馴染みの店の軽快な挨拶のよう。しつこ過ぎない接し方ながら、無いと断然物足りない。ベタベタとくっつかない軽妙な風味が実に心地好い。
タマネギよ、お前は実に潔い。シャキシャキとした歯触りと共に、ツンと斬り込むような辛さを秘めながら、幾度か噛み締めればフイと消えていく。まるで我が身に代えて何かを守ろうと必死に耐える、囚われの女騎士のようだ。どんな状況なのかと問われたら……いや、止めておこう。
しかし、ピクルスも侮り難い。決して主張の強い歯応えでは無いが、奥底に秘めた酸味と控え目な食感は、まるで黒髪の侍女のよう。無言で従いながら、その気配りは老練の熟女のように行き届く。若さを全面に押し出すタマネギとは好対照である。いや、ピクルスって古漬けって訳じゃないけれど。
(オリーブは好き好きである。稲村某は否定はしないが、無くても構わない。ただ、入っていても出したりはしない)
一口、また一口。
パンの芳ばしさ、ソーセージの滋味、ケチャップの塩味と旨味、タマネギの爽快さと辛さ、粒マスタードのアクセントと酸味、ピクルスの奥ゆかしさと酷味。どれも大切だが、一つだけ突出しない事に真の調和がある。
たかがホットドッグ、されどホットドッグ。
今日も何処かで、ホットドッグが食される。軽く焼いたり、レンジで温めたり、そのままだったり。
諸兄諸氏の皆様、稲村某は全コンビニのホットドッグや有名なコーヒーショップ系は大体試しましたし、米軍基地のホットドッグ等も食べた事はあります。しかし何処が一番とは言いません。但し、絶対にこれだけは言っておきます。
【冷たいソーセージはホットドッグを殺す】
絶対に温かいホットドッグを食べて欲しい。いやせめてソーセージだけは温かいモノを……それだけは、必ず守って欲しい。
……ご精読有り難う御座いました。ではまた。
エクセルシオール、ドトール、珈琲館、全ハンバーガー店、主要コンビニ、福生米軍基地等でホットドッグを食べてきました。まだまだ世界にはホットドッグが御座います。有り難い事です。野球場等も未体験なのですが、楽しみは後に取っておきましょう。




