第一話 おとーさんとよあけ
仙道アリマサ様主催『仙道企画その3』参加作品です。
今回もまた素晴らしい曲を聞かせていただき、広がったイメージに乗せて、以前書いた拙作の続きを書かせていただきました。
お楽しみいただけましたらありがたいです。
地平線が紫色に染まり、徐々に明るさを増していきます。
空の雲が白く輝き、太陽が地平から顔を覗かせました。
遮るもののない草原では、夜が朝へと変わる姿を余さず見る事ができます。
じきに眩い光が、地表の全てのものを照らし始めました。
「……ふゅ……」
「む、起きたか」
「……ん、まぶし……」
「よく眠れたか」
「……うん、おはよう、おとーさん」
「おはようべルース」
べルースはシムスに寄りかかっていた身体を起こし、大きく伸びをします。
「今日も良い天気だ」
「うん! かぜがきもちいい!」
「まずは顔を洗おうか。そうしたら朝食だ」
「うん!」
べルースはシムスの用意した水で顔を洗い、背嚢から取り出したパンにかぶりつきます。
固く歯応えのあるパンに苦戦し、時々水で喉を潤しながら、べルースはパンを食べ終えました。
「ごちそうさま!」
「美味しかったか?」
「あじはいまいち!」
「そ、そうか。町に行ったら何か美味しいものを買おう」
「うん!」
べルースと話しながら、シムスは敷き布や掛け布団を背嚢にしまいます。
「では行くか」
「うん!」
元気よく答えたべルースは、シムスの背中によじ登りました。
まだ十に満たないべルースには、とてもとても大きな背中です。
立ち上がったシムスが、べルースを落とさないように気遣いながら地面を蹴りました。
「おっ父、ありゃ何だ……?」
草原で羊に草を与えていた少年が、ぽかんと口を開けて空を見上げました。
「あぁ!? こんな草っ原に珍しいもんなんか何もねぇ! とっとと羊に草食わせたら、戻って、朝、めしを……?」
隣にいた父親が息子を叱りつけようとして固まります。
その視線の先にはべルースを背に乗せたシムスの姿がありました。
「あ、あれは……! ど、ドラゴンじゃ……!」
「でっけぇ……! あ! 人が乗ってる! おーい!」
「ば、馬鹿! 見つかったら食われるぞ!」
「でもおっ父。オレくらいの小さい子が乗ってるぞ?」
「う……、うるせぇ! とっとと羊達に草食わせて戻るぞ!」
「……はーい」
少年はもう一度だけシムスの姿を見ます。
人を背に乗せ太陽に向かって飛ぶその姿は、少年には父親が言うような恐ろしげなものではなく、暖かく優しいものに見えていました。
読了ありがとうございます。
曲を聴いた瞬間、朝日の昇る草原と、遊牧の民のシルエットが浮かびました。
何とも壮大で美しい光景が思い浮かび、その空を何か飛ばせてみたいと思ったら、「やっぱりドラゴンだろう」と相成り、こんな話になりました。
今後もお楽しみいただけましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。