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2.ミネルバの特技

「東翼はとにかく広いです。探し物を見つけるには、やっぱりそれなりの時間がかかってしまいます。私の場合は探すというより『引き寄せられる』とか『導かれる』という感じなのですが……ぐずぐずしてはいられないですね、何かで試してみましょう」


 ミネルバは小さく息を吐いた。

 バートネット公爵家とモートメイン侯爵家の顔合わせが行われた日、ミネルバは唐突に消えたジェフリーの姿を探していた。婚約する運びとなっても、いまひとつ打ち解けられなかった青年の姿を。

 「どこにいるの」と心の中で呼びかけると、自分を引き寄せる力を感じた。その力に導かれるように、ミネルバは秘密の通路に迷い込んだ。そして、ジェフリーとリリィのとんでもない計画を聞いたのだ。

 

(私に『千里眼』の能力があるとは思えないんだけど……だって、遠く離れた場所にある物体の行方が見抜けるわけではないし。せいぜい、家族が屋敷の中で無くした物を探し出せるくらい)


 しかしロアンの目は輝いている。きっと、ミネルバの能力に大きな期待を寄せているのだ。


(プレッシャーを感じる……でも、いま私は東翼の中にいるのだから、探そうと思えばいつもの『勘』が働くはず)


 ミネルバは隅に置かれたチェスボードテーブルに目を向けた。次に、壁一面にしつらえられている飾り棚を見る。


「ロアン君、あそこにあるチェスの駒をいくつか隠してもらえる? 私はうしろを向いているから」


「おまかせくださいっ!」


 ロアンが元気よく立ち上がった。そして弾むような足取りでチェス盤に近づいていく。

 ミネルバも立ち上がってうしろを向き、ぎゅっと目をつむった。ルーファスが立ち上がる音が聞こえた。耳からの情報でズルをしたと思われないように両手で耳を押さえる。


(小さなころ、兄様たちと何度もこういう遊びをしたなあ。私が隠された品物のありかをずばりと言い当てるから、強運だとか勘がいいとかびっくりされたっけ……)


 頭ごなしに否定せず、気持ち悪がることもなく、ミネルバの特技を認めたうえで「家族以外の前ではやらないほうがいい」と言ったのはジャスティンだったかコリンだったか。

 ミネルバはそのことに感謝していた。たしかにフィルバートの前でやったら、トリックだのマジックだのいかさまだのと、散々な言われ方をしたに違いない。


(でもセリカが王宮に来てからは、この特技に救われたなあ。あの子、私を断罪したくて必死だったというか……何度も何度も、私に持ち物を隠されたって言いがかりをつけようとしてたし)


 ルーファスの視線が注がれているのを全身で感じる。彼のまなざしは温かいから、陽光を浴びているような気分になる。


「いいですよぉっ!!」


 威勢のいい声がしたのと同時に、ぽんぽんと肩を叩かれた。

 ロアンの声が大きかったので指の隙間から聞こえていたが、ミネルバは合図をくれたルーファスを見て微笑んだ。それから振り返って、飾り棚にずらりと並べられた装飾品に目を走らせた。「どこにある?」と自分の心に問いかけながら。

 数か所から自分を引き寄せる力を感じた。その力に従いながら、ミネルバは口を開いた。

 

「飾り棚には……七宝花瓶の裏と、銀製の小物入れの中、象牙の写真立ての裏ですね。あっちにある籠の中にもあります。それからこの……金メッキを施した砂糖入れの中」


 ミネルバは屈みこんで、テーブルの上の砂糖入れの取っ手をつまんだ。蓋を開けると、果たして黒のキングがそこにあった。下に紙が敷いてあるあたり、ロアンは繊細な気遣いができるらしい。


「全部正解です、すごいっ! 透視したんですか? チェスの駒の場所が見えたんですか?」


 ロアンが目を丸くしている。ミネルバは小さく首を振った。


「ううん、目で見たわけではないの。心の中で呼びかけると、なんとなく自分を引き寄せる力を感じるだけで。説明がすごく難しいの……わかるものはわかるって感じだから。ただ単に勘が鋭いだけだと思う」


 ミネルバを見つめるロアンの口元がほころんだ。


「でも僕、新しい特殊能力の持ち主を見つけたときと同じ興奮を感じてます。ね、ルーファス殿下! ミネルバ様は確実に不思議な力を持ってますよね!?」


「ああ。ミネルバのそれは一種の才能だ。ロアンに浄化ができたり、私が結界を作れるのと同じものだ。ミネルバには『千里眼』の素養がある。訓練を積めば、すばらしい才能が開花するに違いない」


 ルーファスもじっとミネルバを見つめている。

 ミネルバは興奮が湧き上がるのを感じた。ルーファスが結界を張るのを見たとき、彼が自分のような凡人には想像もできない世界に住んでいることを知って、ちょっとだけ寂しかった。


(でも訓練を積めば、ルーファス様の活動を助けられるかもしれない? 一緒に世界中を回ることだってできるかも……っ!)


 そんな日がくることを想像すると楽しみになってくる。そのためにも、まずはセリカが隠した『何か』を見つけなくては。ミネルバは勢い込んで言った。


「じゃ、じゃあ私、セリカが隠した物を探してみま──」


「ちょおおっと待ってください、その前に触媒を用意しないと! 触媒は力を強めるだけじゃなくて、盾にもなってくれるんです。なんといってもセリカの力は邪悪だし……この世界の自然から生まれた物は、僕たちの有利に働いてくれますからね。幸い東翼には、王妃様の宝石がいっぱいあるだろうし。ルーファス殿下、何がいいかわかりますか?」


 ロアンに尋ねられたルーファスが「ああ」と答え、考えるような顔つきで宙を見た。

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― 新着の感想 ―
[一言] 秘められた才能を好きな人に認められるのって嬉しいですよね…!よかったねぇ…
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