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3.王太子妃セリカ

 王太子妃セリカからお茶会の誘いがあったのは、ジェフリーとリリィの一件から二週間後のことだった。

 ミネルバが参加しても得をすることはほとんどないし、むしろ傷つけられるだけだとわかっている。

 それでもミネルバは公爵家の娘として、どこまでも誇り高くあらねばならない。兄たちも招かれていたのでエスコート役を頼むことにして、ミネルバは完璧に身支度を整えた。

 侍女の手で銀色の巻き毛を結い上げて貰い、パステルグリーンのドレスに袖を通す。

 少し釣り目気味のキツイ顔立ちなので、本当は濃い色合いの方が似合うのだが、アシュラン王国では未婚の女性は淡い色を着用するのがマナーだ。


「綺麗だよミネルバ。まるで花が咲いたようだ」


 コリンがにっこり微笑む。そういう彼もとてつもなくハンサムだった。

 バートネット公爵家の兄妹は、揃って銀髪ですみれ色の瞳だ。

 ジャスティンはミネルバと同じ巻き毛を肩につかない程度の長さにしており、直毛で硬い髪質のマーカスは兵士のような短髪にしている。そしてコリンは真っ直ぐでサラサラの髪を腰まで伸ばし、正装のときはいつもリボンで結んでいた。

 いずれバートネット公爵家を受け継ぐジャスティンは24歳。母方の祖父の侯爵の地位を引き継ぐことになっているマーカスは23歳。父方の叔父の伯爵家を継ぐ予定のコリンは21歳。

 3人の兄たちは、22歳の王太子フィルバートにとっては幼馴染であり親友だった。彼が異世界人セリカに走ってミネルバとの婚約を破棄するまでは。

 婚約破棄の1か月後に執り行われたフィルバートとセリカの結婚式には、当り前だがミネルバたち家族は招待されなかった。


(フィルバート様にお会いするのは、ほぼ一年ぶりね……)


 扉にバートネット公爵家の紋章の入った、二頭立ての四輪馬車に乗り込む。かつては王太子妃教育で足しげく通った王宮が見えてくると、ミネルバは胸が痛くなるのを感じた。

 庶民の家なら2つは入ってしまいそうな大きな守衛小屋から、懐かしい顔ぶれが飛び出してくる。守衛の騎士たちに、ミネルバはかつてそうしていたように馬車の窓から小さく手を振った。

 王族やそれに近い者が使う玄関ではなく、一般の来客が使用する玄関に到着する。たくさんの使用人たちが待ち構えているのを見て、ミネルバは小さく驚いた。

 先ほどの守衛の騎士もそうだったが──みな泣き出しそうな、切羽詰まったような表情なのが気にかかる。


「ふん。フィルバートと異世界人が結婚して1年、王宮の使用人たちはあまり幸せではないらしいな」


 マーカスが鼻を鳴らした。

 ジャスティンの手を借りて馬車から降り、己を取り囲むように見ている懐かしい使用人たちに、ミネルバは優雅に会釈をした。彼らの口からほうっという息が漏れる。

 侍女頭が進み出てきて、ミネルバたちに深々と頭を下げた。

 余計なことを言わないよう、主人たちのプライベートをひと言も漏らさないよう完璧に教育された使用人が、短い言葉でミネルバたちを王宮内に案内してくれる。

 7歳から10年間も通いつめ、勝手知ったる第二の我が家のように思っていた王宮。久しぶりに足を踏み入れた王太子のための西翼は、たった1年の間に様変わりしていた。

 ミネルバは思わず息をのんだ。

 歴史と伝統を引き継いだ、磨き抜かれた調度品の置かれていた場所に、流行の家具作家が作ったらしい真新しい調度品が鎮座している。

 色とりどりの奇抜な壁紙、目に痛いような鮮やかな床のタイル。現代的と言えば聞こえはいいが、王太子の住まう場所としては雰囲気が軽すぎる。これでは使用人たちの誇りさえ奪いかねない。


「フィルバート殿下は、王太子妃セリカ様の望みならば何でも叶えるようだね。まさに愛の巣といった雰囲気だ」

  

 ジャスティンが穏やかな口調であてこするようなことを言う。マーカスがうなり、コリンが肩をすくめた。


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