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明日から頑張りましょう

「あの、ジュース奢って貰っちゃってすみません」


 熱海ダンジョン探索者ギルド。自販機コーナー横のソファに俺達は腰を下ろしていた。

 まだ横に座っている少女とは出会って十分も経っていないが、小休憩を挟んだおかげで俺に対する少女の怯えないし緊張は治った様だ。


「いや、大したもんじゃないから全然いいよ。それよりさっきのことなんだが、俺に何か用事でもあったのか? どっかで会ったとか?」


「あ、ええと、初対面です。えーと、名前だけ知ってて、隠さんに聞いて、引率してくれる人だって」


「ああ! 君が隠さんが言っていた探索者か」


 昨日担当職員の隠さんに聞いていた新人探索者の引率依頼。正確には依頼ではなくお願いなのだが、形式は大事と言うことで引率依頼となっていて報酬も用意してくれているらしい。

 昨日の時点では依頼を受けていなかったので、引率する探索者の情報を隠さんから貰っていなかった。

 引率を引き受けるメールを送信したのは朝家を出る前なので、俺がダンジョンへ潜って衝撃波で吹っ飛んでいる間に隠さんから俺のことを聞いていたのかな。


「じゃあ改めて、俺は荒木北斗、探索者になって十四年、レベルは三十。スキルを活かして採取依頼や、他のパーティーに依頼されて物資を運んだりアイテムを回収したりして生計を立てて、最近は運び屋なんて呼ばれてる」


「あっ、わたしは古城(ふるしろ)御霊(みたま)です。レベルは十です」


「そっか。じゃあ……古城さん、先ずは隠さんの所に行こうか。実は俺まだ依頼について詳しい話を聞いてないんだ。古城さんはもう何か聞いている?」


「あ、はい。えっとえ〜っと依頼はわたしと荒木さんと、隠さんの三人の内、誰か二人が『古城御霊が一人で探索者をやっていける』と判断したら依頼は終わりになるそうです。あとは……あとはこの紙に書いてあります」


 そう言って古城さんは鞄を漁り、引率依頼についての詳細がまとめられた書類を見せてくれた。……俺も関係者とはいえ大事な書類を簡単に見せるのは若干心配になるが、それはまた今度考えよう。


 書類に目を通すと先程古城さんが言っていた条件の他には以下の様に書かれていた。


 古城御霊が探索者の道を諦める、または探索者として活動出来ないと判断された場合。もう一つは荒木北斗が依頼の遂行が不可能となった場合、その時点で依頼は終了する。

 正し一月毎に荒木北斗は依頼を継続するかどうかを自身で判断できる。

 報酬は一月毎に一定額が荒木北斗へギルド側から支払われる。 


 余程の事がなければ依頼は成功とみなされる様だが、俺が古城さんに危害を加える、もしくは古城さんがダンジョン内で命を落とす様な事があれば依頼は当然失敗となる。


 条件を確認していると、俺のスマホに一通のメールが届く。送り主は丁度話しに出ていた人物だった。


「お、丁度隠さんから連絡が入ったよ。今見せて貰った詳細もメールに書かれてた。ついでに引率依頼もワンクリックで受けられる様にしてくれたみたいだけど……どうする? 引率者は俺で大丈夫そうか?」


「お、よよろしくお願いしますっ! 頑張りますっ!!」


 先程までの会話で、古城さんはかなりコミュニケーションが苦手で慎重と言うより臆病な性格だと思っていたが、まさかの即決で驚いた。

 まぁ本人に「大丈夫そう?」と言われて「ちょっと無理です」なんて返せるならもっと堂々とした性格になっていただろう。


 なにはともあれ、お互い覚悟は決まった様なので依頼を受ける。


「良し、これで依頼は受けられた。これからどうしようか」


「じゃ、じゃあダンジョン、行きます……か?」


 隠さんから、古城さんは探索初心者だと聞いていたが既にレベルは十に達しており、思っていたより経験を積んでいる様に見える。

 古城さんは何の問題があって引率対象になったんだろう?

 原因も聞きたいが、もう一つ気になっている事があったのでそちらから尋ねる。


「古城さんは高校生……だよね。ダンジョン探索に使える時間は一日どれぐらい?」


「こ、高校一年生です、学校は夏休みに入るので一日中潜れます。泊まりがけでも大丈夫です」


「そっか、もう学生は長期休みか。でも一日中はやめとこう、取り敢えずダンジョンに潜るのは最大で朝十時から夕方十六時までの六時間。週三、四ぐらいでやってみようか」


「あっ、はい、それで大丈夫です」


 ダンジョン探索日は毎週月曜日、火曜日、木曜日、金曜日に決定した。今日は日曜なので早速明日から引率活動が始まる。


「じゃあ明日は午前中をミーティングに充てよう。探索は午後から慣らす程度で終わりにしようか」


「分かりました!」


 明日の予定を決めたところで今回の話し合いはお開きとなった。古城さんは何度も振り返り、お辞儀をしながら探索者ギルドから出て行った。


「さて、と」


 明日から引率をするとなると、全損した右手の装備も早急に手配しなければならない。当面は適当な既製品を使用するとして、本格的にオーダーメイドの装備を整えるには探索者ギルド内では不可能なため俺もギルドを後にする。


 目的地に辿り着くまでに考えるのは、自分の能力を他人に開示するかどうか。またどこまで話すか、誰に話すかも重要だ。力を開けかすのは論外だが、自分の装備を作成してくれる者には教えてしまった方が良い気もする。勿論信用できる人物であるかどうかは必須だが。


 でもメリットがなぁ……職人さんはプロだからスキルに合ったギミックや性能を考えてくれるだろうけど、他に思いつかないんだよなぁ。

 それにいつも俺の装備を担当してくれる奴は何と言うか、クセが強い。強力なスキルと言うだけで飛びかかって来そうだし黙っておくのが吉か。

 信用していないのかと言われたら弱いが、仕方ない。


「行きたくねえけど偶には顔出さねえとやばいしな……うぉぉ足が重いっ」


 スキルのことは黙っておくことにしたが、装備の改良の説明はしなければならないのが億劫だ。絶対言及される。


「何とかなるか」


 軽く現実逃避をしつつ俺は装備製作を行っている工房へ向かった。

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