表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金王の花嫁 season2  作者: かや
8/19

8. 義賊事件3


明け方には少しばかり寝入っていたようで、アルフレッドの目覚めは悪くなかった。

起きて直ぐに、父親に代わって夜勤に入っていた自衛軍の副長リチャードを呼び出したものだから、王の私室に彼は現れた。リチャードは朝にはいつも通りの冷静さを保っていた。


「すまんな、リチャード。親父さんが無理をしているのを見抜けなかった」

「いえ、お気遣い頂きありがとうございます、陛下。しかし、あまり気に病まれては、却って父の為になりません」

「そうだな。大変なのはリチャード達なのに、俺の方が弱ってどうするんだって話だよな」

「はい。父には一族の者が付いております。陛下はどうか、お気を強く持たれますよう」

「ああ、分かった」


伊達眼鏡の奥の赤い瞳を細めて微笑する年上の友人を、王は頼もしく思う。

流石は古参の帯剣貴族ケネス男爵家の長男だ──と、言いたいところだったのだが。


「リチャード、眼鏡を外せ。ここァ俺の部屋だ。誰も見てねぇ」


王は彼の、瞳の奥に僅かな感情の揺らめきがある事に気が付いた。

眼鏡をかけている間は上司と部下として、そうでない時は親友として話すとリチャードの方が決めていた。

大なり小なり軍を率いて任に就くならば、感情よりも任務を優先するべきだと思っているからだ。

しかし今一時は、本音で話せる親友の方を王は求めた。


「はっ」


リチャードは王の言葉に従い、伊達眼鏡を外した。


「アル。昨晩の出来事を、どう思いますか?」

「連中の言った事を鵜呑みにするつもりはねぇし、こっちはこっちでしっかり調べる。でも正直、面白くねぇ事は確かだな」


リチャードの瞳に火が灯るのを感じた。

義憤だろうか?


「何故『面白くない』の一言で片付けてしまわれる?何故もっとお怒りにならない?昨晩の出来事は、直接的では無いとは言え、どう見てもアルやウィルフレド様の治世に対する批判に他ならない」

「うん。まぁ、そうだな。オレも流石に堪えたよ」

「アルは優し過ぎる。物事や他者に対しても、常に真摯に向き合おうとする。それは良い。だが貴方はもっと感情を表に出すべきだ。これから先、怒りを以って事に当たるべき場面で、それらを表してくれないと、私は貴方の友人なのに、その感情を共有する事も、そして理解する事も出来やしない。それは嫌です!」

「それはオレだって!しかし、遠回しとは言え治世を批判された以上は、その悔しさをどう表すかを、まずは考えなければならないんだよ。オレは、この国の王だ。もしもコルトシュタイン王家の目の届かない所で落ち度があったとするならば、オレは全身全霊を以ってこれを雪ぐのみだ」


王は情熱的に言い切った後、美貌の武官に挑発的な視線を投げる。


「しかし、そう言う貴君こそ少し冷静過ぎるのではないか?義賊団の奴らに文句の一つでも言ってやれば良いものを」

「自分は冷静でなければなりません。今この場で怒りの言葉を吐き散らしたとしても、この状況が好転するとは思いませんから。それとも、何か良い事があるのですか?どのような前進をもたらしてくれましょう?」

「ほほう。まさか王の本音だけを引き出しておいて、己は澄まして居られるとでも思っているのか、リチャード=ケネス?父親が倒れたのだぞ。冷静でいられるはずがないだろうが」


一瞬、黙った。


「ええ。そうですね、アル。本当は僕も悔しくて堪らない」


遂にリチャードが本音で語ってくれた。


「義賊団の行動は、まるで芝居のようでした。彼らには貧しい人々を救い、この国にある悪を告発する意志しかなかったのかも知れない。しかし父は自らの責任を痛感し、怒りのあまり倒れてしまった」

「翁の怒りは義賊団や俺に向けられたものではないと?何故分かる?」


義賊団への憤懣、遣る方ない。とは翁自身が言った言葉のはずだ。


「昨日の深夜に意識を回復した後、母にそう零したそうです。コルトシュタイン貴族の末席に連なるケネス男爵家として、我らもスラム街に対して、何か出来る事があったのではないかと言っていたそうです」

「流石はウォルト=ケネス男爵。我らも見習わねばならんな」

「そうですね」

「ちょっとはスッキリした?」

「はい。御心遣い、感謝いたします」

「うん。調べたい事が山ほどある。力を貸してくれ」

「微力を尽くします」


微笑んでから、リチャードは眼鏡をかけ直した。

凛とした生真面目な表情が戻る。父親譲りの実力と、真面目さと責任感で職務に当たる、自衛軍副長の顔が、そこにはあった。


「それで、翁本人は?」

「義賊団をこの手で捕まえるのだと言って、朝から鍛錬に励んでいるとのことです」

「休めっつったのに」

「母も呆れていました」

「ははは、だろうなぁ」


考えてみれば、休めと言われて休むようなケネス男爵ではない。

長年にわたり自衛軍を指揮してきた矜持と無関係ではないのだろうが、自分にはない強さを持った人物だと、アルフレッドは思う。


何にしても、これで心配事がひとつ、良い方向に向かったと分かった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




リチャード=ケネスは王立学校を卒業後、父親の背中を追って自衛軍の任を受けた。

意地の悪い貴族連中に『ケネス一族による私物化ではないか』と陰口を叩かれながらも、ひたすら真面目に職務に取り組む優れた公務員だ。

弟のレオンと同じく、アルフレッドの親友でもある。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ