3. 前王と現王
前国王ウィルフレドと側近達は在位中、愚痴の一つも溢した事が無かったという。
大胆かつも繊細な政策を採る傍ら、実物は期待を裏切る剽軽な『放蕩君主』は、四十五歳という若い時分で退位するその日まで、国民の信頼に応え続けた。
対する息子のアルフレッドだが、実力も実績も、そして我慢も、あまり有る方では無かった。
父親と比ぶべくも無い事も、まだ王となって日が浅く、この状況で判断すべきで無い事も知っているが、それでも父親のように至らない事を歯痒く思う事が多々あるそうだ。
彼が思っていたよりも少しばかり父親の退位が早く、アルフレッドは十八歳で黄金の冠を戴く事になった。
新国王は歳が若い。そういう事情もあり、彼はまだ議会の信頼を勝ち取れていない。
それが更に障害となり、思い通りの政策が打ち出せていなかった。それが後に、最大の問題に繋がった。
アルフレッドは学生時代、前王が即位後の夢を、王立学校の友と語り合い、己を鍛え上げてきた生粋の王族である。誇りがあった。とは言え自分のしたいように振る舞う事が王の務めでは無い事を知っている。
出来ないと言えば国や役所の仕事が半減する訳では無い事も、疲れたと喚けば誰かが代わってくれる訳では無い事も、本人が十二分に理解していた。
だから、ままならない思いを抱えつつも、新国王は日々、邁進するしかなかったのである。
そんな彼だが、プライベートではよく繁華街へ繰り出した。側近の一人である伝令官のアルフィミィが、王の多忙なスケジュールに休息日を捻じ込んでくれるのだ。
変装して歩く街で直接、耳にする国民からの評判は中々に良かった。曰く、カネと人脈と容姿を不足無く備えた理想的なプリンスである、と。
アルフレッドとしては納得しがたいものがあるけれど、国民から頼りにされないよりは良い。と割り切っている。
この小さな国の王族は、国事から民事まで多岐に頼られるのが運命だ。
公共工事の話が持ち上がる度に好き放題、陳情を上げてくる成り上がり貴族の話なんか飽きてしまった。
極めつけは、酔っ払いのケンカまで仲裁を頼まれた事がある。その時には、酒場や宿屋には傭兵か冒険者を必ず常駐させる政令を制定して国民に周知させた。
『王様からのお願い』を発した訳だから、これで楽しく仲良く飲み食いしてくれるはずだ。
効果があったかどうかまでは、まだ耳に届いていない。
「でもまぁ、俺にしちゃ頑張ってる方かね?」
一年も頑張って、ようやく慣れてきた多忙な執務を、若き王は独り思いやる。