一般人なはずの俺にはファンがたくさんいるようだ
「わかりました!蒼きゅんのお願いですもん!喜んで聞かせていただきますよ!あと髪の毛1本くれませんか!?」
「あ、蒼きゅん?髪の毛1本?何言ってるかさっぱりだが·····そういえば君の名前をまだ聞いてなかったな。教えて貰ってもいい?」
「え、これってまさかの認知ってやつですか!?あの蒼くんに私の名前認知されちゃうどうしよう·····!えっとえっと九ノ瀬咲良っていいますっ!」
「そっかそっか。よろしく。咲良ちゃん·····って呼んでいいか?」
「さ゛く゛ら゛ち゛ゃ゛ん゛·····っ!」
バタン!
そのまま咲良ちゃんはぶっ倒れてしまった。
「咲良ちゃん!?ちょ、大丈夫!?鼻血まで出てるけど!?」
「はぁ·····はぁ·····すみません。尊すぎて気が動転してしまいました·····私としたことが·····!」
「ははっなんだそれ」
いちいちオーバーリアクションな子だ。本当に俺のファンなんだなあ·····
「じゃあ咲良ちゃん。とりあえず学校まで案内してくれない?」
そしたら咲良ちゃんは少し困った顔をして言った。
「うーん·····連れてってあげたいのは山々なんですけど·····多分蒼くんの正体がバレちゃうかもしれないです·····」
「それは咲良ちゃんが俺のファンだからじゃなくてか·····?」
「違います!私たちの世界では、蒼くんが登場してる『俺の想い人が3人いる』という作品は爆発的大ヒットを記録していて、知らない人はもはやいないレベルなんです。それは私の学校でも例外ではなく蒼くんのファンがいっぱいいます」
驚いた。そんなにも俺が出てくる作品が有名とは。
「とりあえず今日は学校を休んだ方がいいかもしれないです·····1度私の家に来て今後の対策を考えませんか?」
確かにそれもそうだな。俺もこの世界がまだよくわかっていないし。
「わかった。案内してくれないか?」
「もちろんです!こっちですよ!」
咲良ちゃんは足取り軽く俺を家へ案内してくれる。
「ここですー!上がってください!」
案内されたのは綺麗な一軒家。
「お邪魔します」
「あ゛·····蒼くんが私の家に入ってる·····かわいいあんよでちゅね·····はあはあはあ·····生きててよかった·····ありがとう神様·····」
咲良ちゃんの足元がフラフラとし始めた。
「ちょっと!また鼻血出すパターンだよね!?駄目だからね!?話進まなくなるから!」
「はあはあはあ·····すみません·····蒼くんに心配させるなんて私もまだまだ二流ですね·····こほん。ここが私の部屋ですよ!」
「失礼しまー·····って、え?」
咲良ちゃんの部屋を開けて目に飛び込んで来たのは俺。いや、正確にいえば俺のグッズだ。大きなポスターに無数の缶バッチ。こっちにはアホみたいな量のアクキーが飾ってある。大量の俺がこっちを見ている。
「座ってください!掃除は怠らずに頻繁にやってるので!汚くはないはずです!」
「えっとー。咲良ちゃん?」
話を進めようとする咲良ちゃんをすかさず止める。
「はい?なんでしょうか?」
咲良ちゃんは首を傾げる。
「·····この部屋はなんだ?」
「あっ。気づいちゃいました?数量限定の蒼くん限定ポスター!いやあ·····これを手に入れるまで涙ぐましい努力がありましてねえ·····」
「そうじゃなくてだな·····この大量のグッズはどこで手に入れたんだ?」
「ああ!そんなことでしたか!」
咲良ちゃんはスマホを取り出して慣れた手つきでサイトにログインしている。
「これです!おれおも公式ショップ!」
「なになに·····大人気柊木蒼のフィギュア·····ソールドアウト·····」
「他にもありますよ!有明莉々ちゃんのハンドタオル、大野隼くんのタペストリー·····」
大野·····隼·····?
「咲良ちゃん。ひとつ聞いていいか?」
「はいはい!もちろんです!なんでもドンと来いですよー!」
「おれおもの主人公って誰なんだ·····?」
すると今までハキハキと喋っていた咲良ちゃんは少し躊躇ってから言った。
「えっと·····そうですね。まず結論から言うとおれおもの主人公は大野隼くんです。隼くんがヒロインの女の子3人の中から運命の人を探す恋愛ストーリーですね。そのヒロインのひとりが有明莉々ちゃんなんです」
「それってつまり·····」
「そうです。心苦しいですが蒼くんは根っからの友人キャラなんです·····だからファン達の間でも莉々ちゃんと蒼くんがくっつくことはまずないと言われていました·····」
そうか·····俺は元からどう足掻いても莉々とは付き合えない運命だったのか·····
あからさまに落ち込んだ俺に慌てて続けるように咲良ちゃんは話す。
「で、でもこれを見てくださいっ!」
見せられたサイトにはおれおもの人気投票の画面が表示されていた。
「柊木蒼·····1位·····」
「ふっふっふー!そうなんです!実は蒼くんは友人キャラなのに圧倒的人気誇る珍しいパターンなんですよ!なんて言っても莉々ちゃんに思いを寄せる一途さと莉々ちゃんに釣り合うためにたくさんの努力をするところに私達オタクは釣られて行くんですよね!」
頭がついて行かない俺に咲良ちゃんは言った。
「なんとなくわかったと思いますが、この世界では蒼くんは超がつくほどの有名人です。蒼くんが二次元から飛び出して来たなんて知れ渡ったら大変な事になるのは目に見えています。なのでせめて雰囲気を変えましょう」
「雰囲気を?」
「はい。先程も言いましたがこのままでは確実に蒼くんの存在がバレてしまいます。なのでちょっと失礼しますね」
そう言って咲良ちゃんはエクステとハサミを取り出した。
「ほっ!やっ!とぅ!」
手際よく俺の髪の毛のセットを進める。制服も着崩すよう促された。
「出来ましたっ。これ鏡です!」
「うお·····すげえ·····」
鏡に映ったのは普段の俺とは真逆の俺。自分で言うのもあれだがなかなか似合っている。
「蒼くんは正統派イケメンなので!ちょっとチャラく仕上げてみました!いかがでしょうか?」
「いやすごいよ。それにしても咲良ちゃんめちゃくちゃ器用だね。将来美容師にでもなりたいの?」
すると咲良ちゃんは照れながら言った。
「いやぁ·····いつか生きてる間に蒼くんに会えたらチャラい蒼くんも見てみたいと思い必死に髪の毛いじるの練習してたんですよ·····えへ」
は!何言ってるのこの子!?
「まじかよ!?咲良ちゃん俺が来ること見越してたの!?怖いって!」
「し、信じるか信じないかは蒼くん次第です!とりあえず有り金全部あげるので写真撮ってもいいですか?」
「なあ絶対今の本気だろ!あと写真撮るのにお金はいらないから!」
「じゃあやっぱりぞうk·····」
「いりません!」
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