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Dmmerung des tiefen roten Mondes  作者: 月猫
9/23

久々の再会

「久しぶりだな、クロイ」

「あぁ、久しぶりだな、ブラッド」


この二人は久々の再会を果たしていた。

クロイツェルだけは、背中の古傷(かたなきず)の事を知っている。それはたまたまその場に居合わせたからにすぎなかった。

クロイツェルがその場に居合わせなければクロイツェルも知らなかったに違いない。

それに、クロイツェルは、ブラッドの薬指に嵌る指輪の存在、誰から貰ったかも知っていた。

帝の中で、クロイツェルだけが、ブラッドの過去を唯一知っている。

…が、クロイツェルはブラッドの過去を誰かに言ったりはしない。

本人が嫌がることや話さないことはしない主義なのだ。

クロイツェルもブラッドと同じく生まれ故郷から追放された一人。

クロイツェルの翼は黒に限りなく近い紺色をしている。


「まさか、此処でアンタに会うとは思ってなかったぞ?」

「はは、私もだ。お前と最後に会ったのは何年前だったか?」

「何年前だったかな…、年を取りすぎて分らないな」


ブラッドは苦笑しながらそう言った。


「私もだよ。今年で何歳だったかな」

「俺なんて100歳過ぎたあたりから数えるのが面倒になったぞ?ま、ほんとうの年齢なんて知らなくたって生活には支障はないからな」


ブラッドがそう言うと二人は盛大に笑う。

応接室の二人の声は職員室や廊下には聞こえないし、入ることも出来ない。

防音魔法サウンドレスマジック閉鎖魔法クローズダウンマジックをかけているからだ。


「そろそろ教室に戻ったらどうだ?1時限終わるぞ?」


ツロイツェルがそう言ったと同時にチャイムが鳴る

ブラッドは「あぁ」とだ言ってクロイに背を向けるがふと何か思い出したかのようにクルッと振り返ってクロイを見る。


「あぁ、そうそう。今度依頼の件詳しく聞くからな」


それだけ言うと、「付与障壁エンカウントキャンセラー」と呟くと掛っていた魔法が一気に解ける。


「じゃ、今度手合わせよろしく頼むぜ?じゃあな」


そう言って廊下側の扉を開くと「失礼しました」と言って、自分の教室へ戻っていった。

教室へ戻る道中、棄てた故郷でかつて親友だった、アリエルが前方から歩いてきた。

ブラッドはそのままアリエルのそばを通り過ぎようとした。

…が、ブラッドの腕をアリエルが掴む。

その手を必死に振り解こうとするも、離してくれず、教室に戻るのは諦める。


「…俺に何か用ですか?」


ブラッドは冷めた目でアリエルを見る。

故郷を棄てた時点で、名前も、親友も全て棄てた。

名前は簡単に棄てられた。だが、親友を棄てるのは簡単には出来なかった。

…とは言え、今更あそこへ戻る気もないし、あそこの近くに行くつもりもないブラッドにとっては、親友は棄てた方が良い存在になっていた。

が、そう簡単には棄てられない。

今でさえ、棄てていいものか迷っているぐらいなのだから。


「…………、屋上、行かないか」

「………あぁ。その前に、だ。この手を離してくれ。歩きにくいし、俺は逃げないぞ?アリエル」


アリエルは、掴んでいた腕を離し、屋上へ向かう。

暫くすると、屋上へ辿り着いた。

ちょうどよく屋上には誰もいなかった。


「で、こんな所まで連れて来て一体何の話だ?他人に聞かれちゃまずい話なんだろう?」


アリエルを見ると穏やかに話そうという気はないらしく、殺気立っている。

そんなアリエルにブラッドもイライラした口調で返す。


「……アンタ、追放者だろ」

「………っ!!あぁ、追放者だ。だがな、アリエル。これだけは言って置くぞ?俺は追放された時点で名前も故郷も棄てた」

ブラッドがそう言って教室に戻ろうとしたときだった。アリエルが棄てた名を口にする。


「……アリス」

「アリス・クラナード、とでも?とうの昔に棄てた名だ。それに、今の名はブラッドだ、覚えておけ」


ブラッドはそれにも動じずに、言い捨てる。「用がそれだけなら戻らせてもらう」ブラッドは今度こそアイリスに背を向けて屋上を後にする


「………許さないぞ、アリス…」


アリエルは屋上で殺気を隠すことなく、ひとり呟いていた。

ブラッドは教室に戻ると不機嫌なオーラを隠すこともなく自分の席に座る。

授業のほぼ半数を不機嫌なオーラを隠すことなく受け続けるブラッド。

クロイツェルのところから出て来たまでは、良かった。…が、その後が問題だった。


「俺だって…お前と離れたくなんて無かったさ。だがな、俺は…」


そうポツリと淋しそうに呟くブラッド。

アリエルが、あの村で大人や親たちに何を吹き込まれたか知る由も無い。

…そう、俺はあの村を追放された時点で、全てを棄てているのだ。

今更、あの村に近づこうとは思っていない。

幼き日、アリエルとした「約束」を思い出すたび、心が傷む。

俺は、なんて残酷な「約束」をしてしまったのか、と。

最初から守れないのならしなければいい。

だが…アリエルの悲しむ顔は見たくなかった。

まさか、アリエルに恨まれている、なんて思っていなかった。

本当は昔みたいに仲良くしたかったさ。

でも、それは、出来ない。俺にはムリだ。


今更、どんな顔してアイツに会えばいい…。

きっと、あの村の奴らは自分の都合の良い情報しか与えなかったのだろう。

「アイツは、自分から村を出て行った」とかなんとか言って。


本当は、出て行きたくなんて無かった。

でもな…?俺の居場所はなかったんだよ…。

そう思っているといつの間にか、放課後になっていた。

気だるそうに自席から立ち上がると、寮へ戻っていく、ブラッド。

ブラッドが寮の自分の部屋に戻ると、そのままベッドへ転がる。

ベッドに転がりながらも、今日の事を思い返す

クロイに会った事。そして、アリエルに会った事。

この学園内でアリエルに会うとは思っていたが、まさか、あんな出会いだとは思っていなかったブラッド。

あんまりな出会い方に若干ブルーになってベッドの上に転がっている。

ブラッドもブラッドで冷たく当たりすぎたとは思っているが、アリエルが俺を忘れるには、あの方法しかなかった。今の今まで、アリエルの事を忘れた事は一度たりともなかった。

たとえ、昔の棄てた名や生まれ故郷を忘れたとしても。

だが、アリエルは村長の息子。俺が気軽に会える存在じゃない。そんなこと分っていた。

だけど、幼き日はそれが嬉しかった。こんな俺にも話しかけてくれる人がいる。

それが、どんなに嬉しかったことか。


…なんで羽根の色が違うだけで追放されるのだろう?

そう考えたことも何度も何度もあった。でも、答えは出なかった。


「サヨウナラ…アリエル…」


そう呟いた声は部屋の中に反響して消えた。

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