ウィザースの森
ウィザースの森は、「迷いの森」とも「試練の森」とも言われている。
「迷いの森」という謂われは、ウィザースの森に迷い込んでしまったらある特定のルートを辿らなければ、出口には出らない。
それに、この森の中では、転移が使えない。だが、ただ一人だけ、転移を使える者がいる。
…それは、創帝だ。創帝以外は、この森の中で発生している方向感覚を狂わす電磁波が出ており、転移を使用しても己が思っている場所につかない。
出口に出られなければ、一生この森を彷徨い続けることになってしまうことから、「迷いの森」と謂われるようになった。
「試練の森」という謂われは、使い魔がランクS以上の生徒は必ず、この森の中心部から脱出しなくてはならない。
そういう昔からの決まりなのだ。脱出できなかった者は、ランクS以下の使い魔を強制的に契約させられることになっている。
そのことから、「試練の森」といわれるようになった。
未だ、かつてこの森から誰一人として脱出した者はいない…。
そんな森をサージェスの後を付いていくブラッドとヒズミ。
数分歩き続けていると、漸く目的地までたどり着いたのか、サージェスが立ち止まった。
「お前たち二人には試験を受けてもらう」
ブラッドはこの森に入った時点で予想はしていた。その理由さえも。
「何故です?」
「多分、だけどな?使い魔のランクがS以上だったからじゃないのか?」
「アイリス、その通りだ。ここはウィザースの森中心部。ここから脱出して見せろ。但し、脱出できなかった場合、使い魔はランクS以下と強制的に契約させられるからな」
ブラッドとヒズミは頷く。
「さて、俺は先に入ってきた入り口で待ってるからな。ちなみに、協力してもしなくても可だ」
そこまで言うと、元来た道をサージェスは歩いて行った。
ブラッドはどこからどう行けば最短距離なのか知っている。
一昔前、この森でギルドSSの昇級試験も行ったからだ。
まぁ、その時は、不可視魔法をウィザースの森前の広場からかけたから、問題はなかったんだけどな?
ブラッドはヒズミともとより、協力する気はない。
だが、ヒズミはブラッドと協力したいみたいだった。
「なぁ、ブラッド。俺達…」
「断る」
ヒズミが最後まで言い終わらないうちにブラッドは口を開いていた。
「俺は協力する気はないが、お前の好きにしたらいい」
ブラッドはそう言うとさっさと歩き始めた。
ヒズミはポカンと口を開いていたが、ブラッドの言葉に我に返ると急いでブラッドの後を追いかけた。
ブラッドは背後で魔獣の気配がしたので、ヒズミが魔獣、殺人狂犬と戦闘になっていた。
因みに殺人狂犬はランクSに近いランクAの魔獣。
但し、使い魔にするには、戦った上でこいつに勝ってどっちが主人かをわからせないといけない。
「(加勢する気はない)」
ブラッドはそう思って歩いていると、ふと魔獣の気配を感じる。
サイドと後方から雷鳥6匹がこちらに敵意を持って来ていた。
あまり戦いたくはないがそうも言ってはいられないようだ。
「仕方ない」と呟く。
魔力を引き上げることもせず、詠唱破棄の炎属性の全体攻撃魔法「焚刑博覧」を唱える。
すると雷鳥6匹が一瞬にして瀕死状態になる。
因みに雷鳥は、ランクAに近いランクSの魔獣。
ランクSの最上位の魔獣は、銀狼
瀕死状態の雷鳥を使い魔にする気はさらさらないが、声をかけるだけかける。
「…さぁどうしようかな?クローネの餌にするか」
クローネ、と呼びかけるとクローネは姿を現した。
『主、済まない。6匹全部か?』
あぁ、と頷くブラッド。
『了解した』
そう言って、クローネは6匹の雷鳥を一匹ずつつまみ上げ、足からじわじわと噛み砕いていった。
6匹全部食べ終えると、元の世界へと戻っていった。
そこには、血溜があるだけで既に魔獣の姿はなかった。
ふとヒズミを見ればようやく戦闘が終わったのか肩で息をしている。
そんな姿を横目で見て踵を返すと歩きながら後ろで立ち止まっているヒズミに声をかける。
「さっさとしろ、置いて行くぞ」
ヒズミは我に返ったようで、足早にブラッドの後ろをついてきたように思えた。
が、それは違って、ヒズミは一歩歩いた瞬間に眩暈を起こし、そのまま後ろへバタリと倒れた。
そのことを気付かずに、ブラッドは出口に向って歩いて行く。
ようやく、森の出口が見えてきた。あと一息というところで、後ろを振り返るとヒズミがいない。
ヒズミがいないことでブラッドは焦った。
「ヒズミ!!どこに行った!?」
森の中からは返事がない。
当たり前だ。この森はエンカウントマジックの類が一切通用しない。
別に、ブラッド一人でクリアすることも出来たが、一旦出てまた探しに行くとなると面倒となる。
この森は生きている。
一旦出ると、また違った構造になるため、ヒズミの場所の特定が難しくなるのだ。
ヒズミが念話で話せるか分らないが、ここはたとえ数パーセントの望みでもそれに託すことにする。
-ヒズミ、どこにいる?-
……………。返答なし。
返答がない、ということがどこかで気を失っているのだろう。
ブラッドは元来た道を戻り始めた。
雷鳥がいたところにヒズミが倒れていた。酷い傷を負って。
そのヒズミを囲むように、殺人狂犬が群れでいた。
大方、先ほどヒズミに倒された殺人狂犬の敵、というところだろうか。
その数は、10匹。そのへんの草むらには20匹以上いる。
「面倒だ」と一言呟くも、ヒズミを助けないわけにはいかない。
魔法障壁と付与障壁を自身とヒズミに付与する
「古から伝わる呪いの唄よ…
煉獄の炎に包まれ
地獄より甦れ…
…魍魎灰燼」
そう言うと、周りの殺人狂犬たちが苦しみ出す。
呪いの歌、この呪いは内側から焼けるような痛みを与え、放っておくと数時間以内には内側から焼け爛れ死ぬという歌だ。
殺人狂犬たちが苦しんでいる最中にヒズミに駆け寄り助け出す。
ヒズミを抱えると、出口近くまで転移で向かう。
ヒズミを抱えたまま、出口に向かうと、サージェスが驚いたようにヒズミを見つめていた。
ここで、リンを呼ぶ。
「リン」
『なに?』
「こいつを俺の部屋まで届けてくれ」
『了解』
「よろしく頼むぞ?」
そう言うと、転移魔方陣を出現させると、その上にヒズミを置き寮の自室まで届けさせる。
「…、試験結果は後日聞きます。今は、ヒズミの治療が最優先です。では」
ブラッドはサージェスに別れを告げると校舎とは反対方向へ向かった。
程無くしてサージェスのいる位置から死角になる部分に来ると、転移で自室へと戻った。