特訓開始
翌日。
ブラッドを起こしたのは、クロイからの念話だった。
―ブラッド、ブラッド―
―…なんだ―
―学園長室まで来てくれないか?こっちで話した方が早いだろう―
―分かった、30分後に行く―
―了解―
ブラッドはようやくベッドから起き出すと、転移で手洗いまで来ると顔を洗った
すると少しはすっきりする。それから、ギルドマスターの部屋まで行き、イヅミさんに簡単に状況を説明して部屋を出る。
転移を唱え、学園長室前に来る。
ノックをした後「失礼します」と言って中へ入る。
「おはようございます、学園長」
「あぁ、おはよう、ブラッド」
学園長室には、サージェスや他の先生方がいた。
その先生方の手前、敬語を使用するブラッド。
「それでは、皆さん戻ってください。私はブラッド君とお話がありますので」
そうクロイが言うと先生方がぞろぞろと職員室へ戻っていく。
そうして先生方全員が戻ったのを確認すると、学園長室内に閉鎖魔法と防音魔法をかけるブラッド。
かけ終わると、ブラッドはクロイに向き直った。
「…それで、話というのは?」
「あぁ、先日言ってたお前の部屋なんだがな」
「あぁ、それで?」
「さっき集まっていたのはそれの話し合いなんだ」
「結論は?」
「承諾を得た。それも当り前だな。教師たち全員にランクρを授けたのはお前だものな」
「クス、まぁそうだな。それで、だ。俺の部屋はどこになるんだ?」
「それなんだが…、お前にとっては面倒だろうが、寮から離れた場所、となると校舎から大分距離がある森になるぞ?」
「……仕方ないな。それで良い。いつ、俺の部屋が出来上がるんだ?」
「あと、2~3日はかかるみたいなんだが。今日からヒズミの特訓か?」
「あぁ、そうしようかと思っている。やっぱり、まずは魔力の底上げからかな」
「そうだろうな。そのあとに、魔術や剣術を教え込めばいいんじゃないのか?」
「それもそうだな。俺の部屋ができたら教えてくれ。それまでは寮の部屋にいるから」
「了解、訓練場の使用を許可しよう」
「はは、ありがとう」
そう言って笑いながら「付与障壁」と呟くとかかっていた付与魔法は消え去る
学園長室から出ると、ヒズミに念話をする。
―ヒズミ、今大丈夫か?―
―あ、あぁ。大丈夫だけど、どうかしたのか?―
―いや、な?お前にこれから特訓をしようかと思ってな。ま、お前さえよければ、だけど―
―え、本当か!?やる!!なら、どこに行けばいい?―
―……、直接お前の所まで迎えに行ってやる。お前は今どこにいるんだ?―
―あー、教室、だ。―
―分かった―
それだけ言うと念話を終了させる。
教室にいるなら、転移は使えないな、と内心ぼやきながら歩いて教室までヒズミを迎えに行く
――数分後。
教室へたどり着いた。授業中だったにも関わらず、そのまま扉を開くと魔法学の授業だったようで、その担当教諭に自分とヒズミは早退する旨を伝えた。
「ヒズミ、行くぞ」
「あ、あぁ」
ヒズミに自分の体に触れるように言う。
ヒズミはブラッドの服の裾を摘む。
そんな様子を見て、ブラッドは苦笑する。
「閉鎖魔法」
この場一帯に付与魔法をかける。
勿論、転移移動を校内にいる生徒に見られないように、だ。
「…転移」
そう呟くように唱えると、光の粒子になって二人の姿は消える。
ヒズミが目を開くと、地下訓練場にいた。
「此処で1週間特訓をする」
ヒズミは頷く。
「まずは、お前の今の魔力量を測るから、この水晶に手を当ててくれ」
言われたとおりに水晶に手を当てるヒズミ。
「……!?」
ヒズミの魔力量にブラッドはびっくりした。
ヒズミの魔力量は、900しかなかったからだ。
通常、一般のランクAAの魔力量は950~1000前後になる。
ランクSの魔力量は1000~1500前後だ。
「先ずはお前の魔力量の底上げからだ。上級魔法は魔力消費量も半端なく多い。今の魔力量だとすぐに底をついてしまう。それに、な?魔力が底をついたにもかかわらず未だ魔法を使用すると今度は生命力が消費される。この失った生命力は元に戻らないから注意しろよ?」
そう言うブラッド。魔力量は回復すれば元に戻るが、失った生命力は回復薬や薬草を飲んでも元には戻らない。
「…今の俺の魔力量はそんなに少なかったんですか?」
敬語を使用するヒズミに苦笑してブラッドは答える。
「…、敬語じゃなくても良いぞ?ま、気にはしないが。そうだな…ランクで言うとAランクの魔力量、だな」
「……、そんなに少なかったのか…。それで、魔力量の底上げってどうするんだ?」
「魔力の底上げはした事ないのか。ま、それが一般的だな。やり方は沢山あるんだが、今回は時間が惜しい。一気に2000まで底上げする。なに、難しいことはない。このアームブレスをつけた上で、瞑想するんだ。」
そのブレスを弄にながら言うブラッド。
「そのブレスは…?」
「あぁ、これだ。とはいっても、このブレスは魔力制御ブレスで、自分が設定した魔力量を抑制するんだ」
「それは、設定されているのか?」
「いや、まだだ。一般的には、自分の魔力量の半分を設定するんだが、如何せん、ヒズミは魔力量が少ない。四分の一ぐらいだったら大丈夫じゃないか?」
「例えば、今の俺の魔力量の半分を設定したとして、俺の魔力が2000になるのはいつぐらいになるんだ?」
「最低3、4年はかかる。そんな時間を悠長に使ってはられん」
「…分かった。四分の一に設定するよ。って、これの設定の仕方ってどうするんだ?」
そうヒズミが言うと、ブラッドは貸せ、と一言言い、ぱっぱと四分の一の設定にする。
すると、「設定ガ完了シマシタ」と答える。
ブラッドは、ヒズミに魔力制御ブレスを渡した。「左手にはめるように」と言って。ヒズミは、ブレスを左手にはめた。
「無理に外そうとすると、エラー起こして二度と外れないからな。それと、場所を移動するぞ。流石に冷えてきたからな」
忠告した上で、ヒズミの肩に手を乗せると、自室へと転移した。
ブラッドは、クローゼットまで歩き、今まで着ていたローブをハンガーにかけるとクローゼットにしまう。
ブラッドは、自室のソファに座り、ヒズミにも座るように促す。するとヒズミはおずおずとブラッドの隣に座る。
ヒズミが座ったのを確認すると、ブラッドは切り出した。
「そろそろ、身体が疲れてきたんじゃないか?」
ヒズミは頷く。
「なら、身体をリラックスさせた状態で、残っている魔力を自分が思い描く広い大地や大空に放出するイメージを作れ。で、そのまま4時間半な。目を閉じても構わんぞ?」
そう言うと、ブラッドは、読みかけの本を取り出して読み始める。
ヒズミは、本を読み出したブラッドを横目に、ソファから降り、フローリングの床に座禅を組んで目を閉じる。
ヒズミが座禅を組んで30分を経過した頃
ブラッドは、本を読み終えるとヒズミを見る。30分前と同じ体勢でいるヒズミに感心した。
「まぁ、集中力の賜物だろうな。集中出来なければこんなにも長くは出来ないだろうからな」
そうポツリと呟くブラッド。
そんな彼の気が散らないように、忍び足で書棚に向かうブラッド。書棚に読み終えた本を返し、まだ読んでない本を何冊か手に取ると、リビングに戻ってくる。
四冊目の中盤あたりで、セットしていた、アラームがバイブする。今読んでる箇所に栞を挟むと、本を閉じる。
「ヒズミ、時間だ」
と言いながら、肩を軽くポンと叩くと、ヒズミの目がゆっくりと開いた。
「どんな感じだ?」
「…さっきよりかは大分ましにはなったが、少し疲れた」
「魔力量を計測するぞ?」
魔力測定器を取り出すと、ヒズミの魔力を計測する。
―5分後
4時間半前の魔力量が900だったのに対し、今の魔力量は、2100。1200増えた事になる。
ヒズミが部屋を出る直前に、ブラッドは後ろから声をかける。
「ヒズミ、明日は朝8:00に俺の部屋まで来い」
「分かった、じゃ、おやすみ」
そう言ってブラッドの部屋を後にするヒズミ。
ヒズミが部屋を出ると、張り詰めていた気が抜けたのかその場に座り込んでしまった。
近くにあった靴箱で身体を支えながら立ち上がる。
「にしても、だ。やはりヒズミは凄いな。たかだか4時間半で魔力量が2000いくとは。うれしい誤算だな」
一般的に、4時間半での900から2000の魔力の底上げは、大体1500前後。
それから、更に魔力を500あげるのは非常に難しい。早くて1日、遅くて丸2日かかる。
「やはり、俺の目には狂いはなかった」
ククと一人笑うと、クロイの元へ移動しようと、クロイの気を探る。
すると、クロイは職員会議の真っ最中のようで、職員室にいた。
「仕方ないな」
そう呟くと、学園長室に転移をする。
学園長室のソファにゆったり座ると、あっつあつのコーヒーを勝手に淹れ飲み始める。
「やっぱり、コーヒーはブラックに限る」
そんなことを呟いていると、ようやく職員会議が終わったのかぐったりした顔のクロイが戻ってきた。
「クロイ」
「おぉ、どうしたんだ?ブラッド」
「いや、先ほど、ヒズミの特訓が終わったんだが、嬉しい誤算が出てね、」
「ん?」
「ヒズミの魔力の初期値が900だったんだ。だが、魔力制御装置を身につけさせて、魔力の底上げをしたら、たかだか4時間半で2000オーバーだ」
「それはすごいな。やっぱり、お前の見る目は狂いがないな」
「それよりクロイ、お前は幹部候補、どうするんだ?」
「私か?私は参戦はしないぞ?」
「おいおい、参戦しろよ。じゃないと俺が楽しくないからな」
「仕方ないな。そういえば、幹部候補を選ぶにあたって、年齢等は気にしないでいいのか?」
「構わん。大人でも子供でも、クロイが選びたい、と思うような奴にしたらイイさ」
「分かった。なら、一人心当たりがいるんだ。お前も知っているだろうが、2年A組のセブンス・グリード・マルフォースだ」
「あぁ、確か俺に手合わせで勝った奴だ。ほほう、そいつを選ぶのか。いい結果を期待している。」
「そうだ、ブラッド。お前の部屋なんだが、来週あたりに出来上がるらしいぞ」
「おぉ、それは楽しみだ。じゃあ、またな」
「おう、また」
また転移でブラッドは自分の自室へと戻っていった。




