異変
アイリスが真っ先に会議室の外へ出ようとした瞬間、何かブラッドに嫌な予感が走り、また閉鎖魔法をかけ直す。
「アイリス!!まだ出るな!!嫌な予感がする…」
その瞬間、今まさにドアノブを回そうとしていた手を離す、アイリス。
会議室の外での異変をブラッドとクロイがいち早く感じる。ブラッドはクロイに目配せをし、他の帝たちをブラッドとクロイが住む街、リーズへと転移させる。
会議室内にはブラッドしかいなくなった。
フードを目深に被ると、コツコツと靴を鳴らし、今まさにアイリスがいた位置まで来ると扉を開く。
その瞬間に血のにおいが辺りに立ち込める。
ブラッドは顔を顰めた。その状態でブラッドは使い魔の名を呼ぶ。
「トキ、リン」
クロイが貸してくれた、クロイの使い魔と、自分の使い魔を呼び出す。
トキは、蒼狼と呼ばれる世界に数匹しかいない魔獣だ。
トキを呼び出した瞬間に、クローネから念話が入る。
―ブラッド大丈夫か?調べた結果なんだが…―
―あぁ、大丈夫だ。どんなことが分かった?―
―信じがたいんだが、リン以前の使い魔、死兎のアオイがいるんだ…―
―……そう、か…。また、何か気付いたら報告してくれ―
―承知した―
念話でクローネと話し終える
「なんだ、この血生臭い匂いは…」
『それに、この先に悪魔族の臭いがする…』
呼び出された、二人は、嫌悪感を示した。
リンに至っては、気分悪すぎて声すら出せないようだ。
それも仕方のないことだ。それだけ、血の匂いが強く気持ち悪いのだから…。
「生存者は皆無だろう。…だが、こんなことを仕出かすやつは一人しか思い浮かばないんだが?」
そう呟けば、拡声魔法を使用し息を吸い込むと一息で言い放つ。
「出て来い、ヴェーダ!貴様だと分かっているんだ!」
一向に出てこようとはせず、ただただ殺気だけが漂っている。
「…………仕方ない、な。Lv.4 星人魚」
そう呟くと、殺気を出している場所――商店のカウンター内――にレベル4の光魔法をお見舞いする。
すると、観念したのだろう。依然殺気を放ったまま、ヴェーダが出てくる。
……ヴェーダは、クローネと同じ悪魔族。
だが、ランクが違う。クローネがランクSSSに近いSSに対し、ランクS。
但し、ランクSSに近い、ランクS。
…とは言ってもクローネは最強と言われている悪魔族の一族の者だ。
ブラッドもクローネもヴェーダに関する黒い噂は聞いていた。
「ヴェーダ、貴様だとはな…」
“おや?クローネの主人のお出ましだとは。クローネは俺様が怖くておねんねか?”
「ふん、まぁそんなところだ」
ブラッドは、ヴェーダの挑発にはサラサラ乗る気はナイ。
ヴェーダは軽く舌打ちをした。
「うん?俺が貴様の挑発に乗らないのがそんなに悔しいのか?」
「貴様は、俺が直々に相手をしてやろう。」
そう言って、自分の薬指につけている指輪を外すとグンと周りの空気が重くなる。
それもそうだろう。それは、ブラッドが魔力制御装置を外したからだ。
‘…っ!!なん、だ…この空気の重さは…’
ブラッドはニヤリと笑みを浮かべる。
その笑みを浮かべたままリンとトキに頼み事をする。
「リン、トキ援護を頼む」
リンとトキは『了解』と言った。
その間に、ヴェーダとの距離を詰めていく、ブラッド。
ヴェーダとの距離が1メートルぐらいになるまで距離を詰めるブラッド。
数分後には、ヴェーダとの距離が1メートルぐらいまで縮まったらしい。
すると、ブラッドが天高らかに叫ぼうとするが、思い返したのか、叫ぶのを止める。
「貴様如きに、俺が本当の姿に戻る必要性はねぇな。さぁ、お前はもう終わりだ」
そう言って相手の前に手を出すとそこに意識を集中させる。
すると闇の玉がブラッドの手の中の集まり、闇がブラッドを包み込む。
人一人が入るほどの大きさにすると、ヴェーダに向かって放つ。するとヴェーダは何かを言う前に闇の玉に吸い込まれていく。
本来は、クローネが扱う技なんだが、ブラッドも魔力制御装置を外せば、闇の玉を作り出すことは可能。
結界を張っていても、この場所の空気だけ異質なのは、トキやリンでも分かる。
トキは、この異質な空気が肌に合わないのか、リンが作り出した結界の中へ入っていく。
流石は創帝。魔力制御装置を外せばクローネよりも魔力は上だ。
この場の異質な空気を作り出しているのは、ブラッド。
ブラッドの周りの空気が異質なだけだ。ブラッドは、ヴェーダを閉じ込めた闇の玉の上から更に強力な光の玉を作り上げ、闇の玉をそれの中に入れる。
「これで、奴は絶対に抜け出せない」
ヴェーダは何故攻撃してこなかったのかは、ブラッドの纏う空気が異質すぎたのもあるが、クローネと同じようにブラッドが闇に生ける者を統括できる存在だと知ったからだ。
ヴェーダは、闇に生ける者を統括する存在はクローネしか知らないが、統括するものと同様に統括できるものを攻撃するのは、自分の死にあたいする。
攻撃するイコール反逆の意思ありと見做され、無惨に殺されるのだ。
悪魔族を閉じ込められる闇の玉は、統括する者または、統括できる者にしか造れないのは、悪魔族なら誰でも知っている周知の事実。
ブラッドが指をパチンと鳴らすとあたり一面、血の匂いが充満していたのが消え失せ、ヴェーダが殺したのであろう死体が跡形もなく消え失せる。
まるで、そこで何があったかわからないぐらい奇麗に片付いている。…唯一つ足りないのは人間。ブラッドといえど、人間を死者の国から復活させるのは難しい。
だから、訳もわからず死んでいった者達には気の毒だが、出来ないものは出来ない。いや、人間を蘇らせることは正確に言えば出来はする。…だがそれは禁術。禁術を使用すれば、それ相応のリスクを背負わなければならない。それに、その禁術は必ず成功することはなく、1~2割しか成功しない。
成功したとしても、その蘇らせた人間は、血肉を貪るゾンビになってしまう。
「リン、結界を解いても構わないぞ?」
未だ、結界を張っているリンに向かって外した指輪をはめながらそういうブラッド。




