帝会議閉廷
「では、他に何もなければ、去年からの持ち越しの議題、『帝を増やす件』と『ギルドランクを増やす件』について話すことにする。これについて何か意見のあるものは?」
そうブラッドが言うと、魔帝のクラム・サザンカ・クロイツェルが手を挙げるとブラッドは頷いて先を促す。
「私は、これ以上帝を増やさなくてもいいかと思います。あまり増やしすぎても我々が把握できない気がしますが…」
「…確かにそうだな。他に何か意見のあるものは?」
はい、と手を挙げるのは炎帝のクロス・カイ・クラナード。クロスを見て頷く。
「では、我々帝が見ている街に、幹部を作る、というのはどうでしょうか?」
「幹部を作るとは言っても、どうやって幹部候補を集めるの?まさかとは思うけど、幹部を募る、だなんて言わないでしょうね」
そう言って意見を出すのは、風帝のアイリス・エル・クロース。
「幹部を募ったりなんかしたら、応募総数は未知数よ?それに、もし幹部を募ったとして、その募った人たち全員私たち帝が相手するの?それはイヤよ」
アイリスが意見を出せば、神帝のプラム・リアナ・フルールも難色を示す。
フルールの意見に皆同意する。
帝だけに負担が来るのは、皆しんどいのだ。
それに、だ。帝の中でも一番に負担が来るのは創帝のブラッド。
ブラッドに一番負担が来るのは皆心苦しいのだ。
…とは言え。
「幹部を作る」という案には賛成のブラッド。
「では、こうしないか?」
今まで聞き役に徹していたブラッドが口を開くとさっきまで言い合いしていたのが嘘のようにシンと静まり返った。
「各々が気になる者1名、リーズ街の大闘技場に連れて来て俺が相手をする、というのはどうだろう?」
「それでは、創帝ばかりに負担を掛けてしまいます。……私もお相手いたしましょう」
そういうのは、クロイ。
「いや、気持ちだけ受け取っておくよ。俺が相手をしたいんだ」
こうなったブラッドを止められる人は皆無に等しい。実に楽しそうに言うブラッド。否、実際楽しみで仕方がないのだ。
この時点で、既に23:00過ぎ。
流石に去年からの持ち越しの議題を来年に回すということはしない。と言うより、ブラッド自体したくないらしい。
そういうのが嫌いなのだ。
去年からの持ち越しの議題は、どんなに時間がかかっても、今年で片付ける、というのがブラッドの信条。
『帝を増やす件』が片付いたので、早速次の議題に移ろう、とも思ったのだが、皆の顔を見渡してみると疲れた顔をしている。
「このまま『ギルドランクを増やす件』について話し合おうかと思ったのだが、皆疲れているみたいだな。ここらで1時間休憩を取ろうか。では、1時間後のAM.1:00に此処に集まるように。無論分っているとは思うが、時間厳守だ」
そう言ったのが合図だったかのように、席を立ちあがり、会議室の外へ出ていくもの、会議室内に残って他の帝と話し出すもの、それぞれだ。
此処で、帝全員に共通していることを一つ。
皆、吸血鬼なのだ。それも、ブラッドと同じような境遇の。但し、獣帝のリークは違う。リークの翼は漆黒。自ら故郷を捨てたらしい。詳しいことは聞く気はない。詳しいことを聞いたところで、帝になるのには関係ないからだ。
…でも、気にならないと言えば嘘になる。しかし、自分から聞くようなことはしない。相手から言ってくれるのなら話を聞く。
思い出したくもない記憶かもしれないからだ。
………ブラッドと同じように。
さて、ブラッドはというと。
ブラッドは会議室内にいた。
扉から一番奥の席に座っているのだが、心なしか表情が疲れているように見えるのは気のせいだろうか。
「ブラッド、ブラッド」
クロイが声を掛ける。
数秒遅れてブラッドが反応する。
「………ん?」
「大丈夫か?疲れた顔をしているぞ。少し休んだらいい」
クロイは、小さな笑みを浮かべてブラッドを気遣う。
「あぁ、大丈夫、と言いたいところだが、少しばかりキツイ。お前の言うとおり少し休むとするよ。30分寝る」
「…あぁ」
余程疲れていたのか、机に突っ伏して眠ってしまった。ブラッドは30分したら起きるはずだ。
起きなければ、私が起こせばいい、とクロイは考えていた。
吸血鬼は一般人とは違い、体力があると思われがちだが、実際はそうでもない。身体能力については一般人と雲泥の差だが。
会議が始まる15分前―――――――…
既に、ブラッドは起きていた。
少し休んだからだろうか。寝る前と比べて幾分かは顔色が良くなったように見える。
そうして、会議が始まるAM.1:00になろうとしていた。会議室には、既に帝全員揃っていた。
ブラッドは、防音魔法と閉鎖魔法をかけ直す。
「さて、少し早いが本日2つ目の議題、『ギルドランクを増やす件』について話し合おうと思う。何か意見があるものは?」
ブラッドが凛とした声で言う。
おずおずと手を挙げたのは、水帝のアイス・フリード・クルール。フリードを見て頷く。
「僕は、ギルドランクをこれ以上増やしたところで、結局は僕たちに負担が来る気がするんですが…」
「……俺は、ギルドランクを増やしてみてもいいと思う。そうした方がまだまだ上を目指せるだろうしな」
そう意見を言うのは、地底のレアル・リ・クアトロ。
因みに。
帝全員のギルドランクはνこれは、μより一つ下のランクだ。帝になるためには、普通以上の努力が必要となる。創帝になるには、帝になる以上の努力が必要になるわけだが。
「さて、どうしたものか。多数決を取ろうか…」
「そうした方がいいかもしれませんね」
そうブラッドに同意したのは魔帝のクラム・サザンカ・クロイツェル。
「では、これから多数決を取る。ギルドランクはこれ以上増やす必要がないと思う者は手を挙げてくれ」
手を挙げたのは、氷帝のアイス、風帝のアイリス、雷帝のクロム、水帝のクロックの4人。
「では、魔帝、神帝、地帝、獣帝、炎帝は増やす必要ありと見て良いか?俺は、増やしても良いと思う」
皆の顔を見渡すと頷いている。
「では、今はランクSSが一番上のランクなわけだが、増やすにあたってランクSSの次のランクはどんなランクがいいだろうか?」
そうブラッドが言うと皆一様に考え込む。
「…ランクχというのはどうかしら?」
そこへ風帝のアイリスが意見を出す。
「あぁ、そうだな…。ランクχで決定しても良いだろうか?」
そう皆を見渡すと、頷いている。
「では、帝会議を閉廷する。お疲れ様。」
そう言うと、かけていた防音魔法と閉鎖魔法を解く。




