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路地裏の喫茶店


「なんなのよアイツ!目的も手段もぜんっぜんダメじゃない!」


「息子って言ってましたけど……もしかしてギルドに来てくださってる冒険者の方の誰か、でしょうか?」


「え?」


「え?」


アリスが憤慨するその隣でそう呟くと、マスターとアリスがきょとんとした顔で私を見つめる。

何か変な事を言ったかしらと私も首を傾げて見ると、マスターが苦笑して「君のお得意様だよ、マリオン」と言うので、はて?と頭の中で誰だろうかと検索してみる。


「嘘でしょ……初めて来た私でも分かるけど」


「えっ、そうなの!?やだ……え、誰かしら」


うーんうーんと悩んで、お得意様と言うと一番に思い付くのは彼だが……おや?そう言えば彼は今日から隣町のクバントリアへ近辺警護に行くと言っていた。

それに、断りきれない相手とも言ってた気がする。


「まあ、その思い当たって居る彼で間違い無いだろう。

マリオンは知らないかもしれないが、彼はあの有名な大手商業系ギルドの御子息で、しかも腕の立つ冒険者だ。

あんな揃ってる男もそう居ないと思うんだがな、アリス?」


「だよねえ、まあ普通に考えたら舞い上がるところだろうし、世の女の子からしたらシンデレラストーリーにもなるだろうにね」


2人揃って残念だと言わんばかりの視線を向けられて「なんですか」と私はむくれる。


「ねえマスター、どうしてこんな純粋培養に育っちゃったの?

年頃の私でも分かるけど」


「そうだなあ、真面目が服を着て歩いてるような性格だからなあ、マリオンは」


「どう言う事ですか2人してっ!」


「それはそれとして、お姉さんって人タラシだよね。

危ないと思うよ、色々と」


「人タラシって…ど、どう言う……あー!もう良いですっ!

私は仕事に戻ります、マスター!お手隙ならアリスを連れて街にお散歩にでも行って来てくださいな、アリス、気を付けてね!」


これ以上続けられてもきっと私の悪口ばっかり出て来るだろうと予測して、私はまたホールに戻る。

びっくり顔の2人が扉を閉めると笑い声を響かせるので、私はまた、頬を膨らませるのだった。



「あははっ!本当、お姉さん人が良すぎるよー!」


「さすがだなあ」


「しかも分かってないのに自分の事言われてるって気付くなら、どうせなら最後まで気付けば良かったのにね」


「まあ簡単に答えを教えてやるのも面白くないからなあ。

それに複雑な親父心と言うものもある」


「へえ」


お姉さんは相当このギルドに大切にされているのだろう。

そう思うとホッとして、私はマスターへと視線を投げ掛けた。


「じゃあその親父心を分かってる私は、仕方なく傷心のパパを慰めてあげよう」


「お?娘がそう言ってくれる機会は滅多にないからな、断る理由が無い」


そう言って裏門の扉を開けて「どうぞ、レディ?」とマスターは片目をつむる。

それに笑顔で頷いて「良きに計らえ」と答えた。


お姉さんが仕事中、確かに暇だったけど外に出してもらえるとは思っていなかったので少し嬉しい。

今日は天気が良くて、人もたくさん居るから楽しい気持ちで染められそうだ。


「さて何から回ろうか、年頃の娘さんだと……ショッピングかな?」


「あーだめだめ!それはお姉さんと仕事帰りに行くからパパとは行かない」


「それは手厳しい」


「ねえ、私門が見たい」


「門……と言うと、あそこの門かい?」


「そう」


ストリートを進むと、区画ごとに定められた門があるとお姉さんに聞いていた。


行商地区、住居地区、協会地区と色々分かれているようで、その門にかかる旗の色の違いから何処へ向かう為の門なのかが分かるようだ。


「そうだな……それなら馴染みの喫茶店にでも向かうか、あそこの青い旗がある門へ向かおう」


「やったー!しゅっぱーつ!」


人混みを抜けて、私はマスターを目で追いながら周りも見渡す。

髪の色、瞳の色が、私の居た場所の外国と呼ばれる場所の物と酷似している。

私の居た国は黒い髪と黒い瞳が多かったのだが、先祖の関係で明るい髪の色の人も居た。

それでも、国を出たら黒以外の髪や瞳も珍しく無いのだが……お姉さんの話しだと、黒の髪と瞳は殊更に珍しいらしく、私のようにこちらに来た人達はみんな黒い髪と瞳を持ち、魔力を宿し魔法を操ると言う。

今街の中を見ても、魔力回路を使った設備が見当たらない、家々の屋根に取り付けられた風車や、黒いパネルなどで自然エネルギーを取り込んでいるのだろうか?

そうだとすると、精霊や魔力の乏しさが疑問に思う。


私がそれぞれ考えを巡らせていると、マスターがぴたりと足を止めた。


「……おおっ!」


遠くに見えていたはずの門は目の前にあり、大きな大きな門は両側から開くタイプでは無く上に門が上がる仕組みだった。

鉄で出来た格子と、分厚い扉を真ん中くらいまで上げて、その下を荷馬車や人が通っている。


「これ、落ちたらやばいね」


「滅多な事を言うなよ」


苦笑したマスターは、身分証なのだろうか首から下げているカードを取り出すと門番さんへ向けた。


「確認しました、お通り下さい」


「ありがとう」


その後ろに続くと「行ってらっしゃい」と門番さんは手を振る。

それに素直に返しながら「さっきのなあに?」と問い掛けた。


「ギルドマスターだって言う証明書みたいなものだな。

アリスの分も今日のうちに発行しておこう」


「え?私も?良いの?」


「当たり前だ、お前はもううちのギルドの家族だろう」


笑顔でそう言って、マスターは私の頭を乱暴に撫でた。


「ちょっ、髪型崩れる!」


「気にすんな!可愛い可愛い」


「ちょっと見直したらすぐこれ!?パパってどこのパパでも一緒なのね!」


照れ隠しに毒付くと「がっはっは!」とマスターは笑った。


「この国は他の国と同等くらいにセキュリティがしっかりしている街だからなあ。

この国に入る手続きも大変だっただろう」


「……あんまり覚えてない、私ずっと黙ってたから」


「ああ……すまんかった、配慮が足りなかったな」


「ううん、大丈夫。

お姉さんが居るし、今日からは私もギルドに入れてくれるんでしょ?

新しい生活が楽しみだよ」


嘘では無いが、少し考え込みながら。

私はそうマスターに言うのだった。


青い旗の門をくぐって、幾度か路地を曲がった場所にあるのは、古ーい古ーい喫茶店。

看板は曲がってるし、店名が書かれた看板なんかはところどころ禿げているし、正直想像と少し……いや、かなり違うので、マスターを見上げる。

しかし「まあ見てろ」と片目を閉じて進み始めたので文句を言うわけにも行かず、私は大人しくその背中を追いかけた。


カランと鈴の音を響かせて扉をくぐり、マスターは薄暗い部屋を突っ切る。

店の前に居たであろう誰かに挨拶する事も無く、まっすぐ進んでもう一つの扉を開けて、その出た先の光景に私は驚きの声を上げた。


「えっ、なにこれ!」


「俺のとっておきだ、来たのはギルドのメンバーでも限られた者のみ」


目の前に広がるのは、青空と、草花。

色とりどりの花が咲きほこり、さんさんと注がれる太陽光に気持ちよさそうに揺れている。

ここは室内なはずなのになぜ!と振り返ると「いらっしゃい」と女の子の声がした。


「コドリーの喫茶店へようこそなの」


「コドリーの喫茶店?」


「この人が店主のコドリーさん、コドリーさん、この子はマリオンの親戚の子で今日からこの国に住まう事になったんだ、何かあったら助けてあげて欲しい」


「まあ!マリオンの?それは素敵ね、素敵な出会いね、お姉さん嬉しい」


「え?お姉さん?」


私より小さな身長に思わず言うと「私はこれでも2000年は生きてるわあ」と嬉しそうに頬に手を当てた。


「に、2000!?」


「最近はそう言う反応が少なくなって来ているから嬉しいわねえ」


「えっ、どう言う……えっ!」


「うふふ、私のお話しはまた今度、マリオンとゆっくりいらっしゃい。

こちらへどうぞ、お客様」


コドリーに手を引かれつつ、私とマスターは花壇の近くの席に腰を下ろした。


「草花は今日の気温。温度。天気をよく知っているわ。

そんな彼等から聞いた情報を元に、今日一番美味しいと思えるお茶を提供する……それが私のポリシーなの」


そう言ってメニューを取り出す彼女に導かれるまま注文したお茶は、困った事に美味しくて、困った事に病み付きになってしまうのだ。

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