プロローグ
——夢を見た。
——空を悠々と我が物顔で飛ぶ翼を生やした竜。俗にいう翼竜と飛ばれるその生物。ふと地上に多数の気配を感じたようで下を向いた。そこには数千にも及ぶ甲冑を着た騎士が翼竜に向かい武器を構えていた。そして、先頭に立っていた騎士が命令を下すと後ろに控えていた弓兵が一斉に矢を放った。放たれた矢は翼竜に命中するが全くといっていいほど傷を負わせることはできていない。翼竜は放たれた矢に鬱陶しそうに顔を歪めると大きく息を吸い込んだ。それを見た騎士たちは慌てだす。そんな騎士たちなど気にせず翼竜は吸い込んだ息を吐きだす。すると、その口から紅蓮の炎が吐き出された。その業火は騎士たちのいる地上に当たると辺り一面を地獄へと変えた。それを見た翼竜はどうでもよさそうに再び空の彼方へ飛んでいく。翼竜の去った地上には死屍累々とかしていた。
——木漏れ日がさす森林の開けた場所に巨大な生物が静かにたたずんでいた。その生物は先ほどの翼竜に似ているがその背には翼がない。つまり、その巨大な竜は地竜である。そんな地竜からは優しく包み込むような安心感がする。そのためだろうたたずむ地竜の元には多種多様な動物たちが傍で戯れている。通常は食料とされる小動物とそれを餌とする肉食動物が戯れるその風景は自然界としては異様な光景であるのだが地竜の傍ではそれが当たり前であるように皆が共存している。それを可能にしているのは地竜から溢れ出る安心感と地竜という絶対的強者が争いを好まぬかのように静かに見守っているからであろう。戯れる動物たちを静かに見守るその姿はまるで森の守護者であるかのようである。
——暗く濁り生生命反応のまったく感じることのできない汚染された海。海底には白く石化したサンゴのようなものや命尽きた水棲生物たちの骨がそこかしこに散らばっている。その有様はまるでこの世の終焉のように暗く寂しい場所であった。そんな場所に光り輝く何かが近づいてくる。それは蛇のような見た目の竜、海竜であった。東洋の伝承にある竜に似ている。海竜は汚染された海を悲しそうに見つめるとゆっくりとそこを泳ぎ始めた。すると海竜が泳いだ場所が光り輝き元の澄んだ海に戻っていく。さらには、石化していたサンゴは色を取り戻し骨であった魚までも肉体を取り戻し元気よく泳いでいる。その様子を満足そうに見つめ海竜はまだ汚染されている海に向かいゆっくりと泳いでいく。
——そこはまるで中世ヨーロッパにある城の謁見の間のような豪華な部屋であった。そして、王座に一人の金髪の青年が膝をつき手に顎を乗せて足を組んで座っている。その傲然たるその姿はまさに王という言葉がピッタリであった。そんな青年と目が合った。青年はにやりっと笑うと何か話しかけてきたが声は聞こえなかった。だが、青年が何を言っているのかは理解できた。なぜなら、頭の中に直接語り掛けられる、そんな不思議な感覚がしたからだ。
——よう、次代の竜帝、俺の意思を継ぎし者よ。見せてみろ、お前の生き様を。そして、俺を楽しませてくれ