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閑話:私の婚約者(ティーナ視点)

 今日もまたお母様からお声が掛かった。

今度はどこの貴族と会うのか、最近良く見かける慌しいお母様の姿だった。

お兄様が前線で戦死してしまわれ、お父様が病に倒れ私達家族は2人きりになってしまった。

以前地方の貴族を見た事があったけど、これが没落ということなのか。


「ティーナ、今日も貴女には会食を一緒にしてもらいます。貴女の目で王家にとってどういう人物になり得るか判断しなさい」

「はいお母様」


 『王家にとって』これも最近ではお母様の口癖になってしまわれた。

無理も無い、こんな状況になって貴族達は保身に走り、私達自身を見る者など誰も居ない。

お母様に頼ったのは他ならぬ貴族達なのに、皆こぞって陰口を叩き無責任な言葉を並べ立てる。

例え王女であってもそんな王国の貴族達の声は私の耳にだって届く。

周りの人間は皆敵だ。

ここ半年で私が理解した事実。

今日はどんな美辞麗句を言の葉に乗せるのか、どんな下心があって私達に近づくのか。

私が、婚姻を結ぶという事に夢を抱いていたのは何歳までだったか、正式に婚約の話が進められ私達当人同士も何度も食事等を繰り返すのに、唐突に話が消えた事もあった。

それとも王家に生まれた者は、生まれたその瞬間からそんな夢想を抱いてはいけないのでしょうか。


「ご招待有難う御座いますマレーナ王妃様。それと始めまして、私は田中圭介です」

「お待たせしてしまったようで……招待をお受け頂き嬉しく思いますわ。この子はわたくしの娘のクリスティーナです」

「初めまして、ハルトヴィック王国の王女、クリスティーナ・フォン・ハルトヴィックです」


 タナカケイスケ、王城に招いているのだからそんなわけは無いのだけど、姓も無い者なのかと驚いた。

それにしても妙だ。

婚約の為の顔合わせであるはずなのに、この者の親等の親類縁者の貴族がいないではないか。

都合が悪かったのかとも考えたが、王国の貴族達の考える事など皆同じだ、顔合わせなどそこそこに政治の話をしだすのだ。

それなのに、政治の話をするべき人物がいない。


「これはハルトヴィック名産のドロテアのステーキなんですよ、召し上がってみてください」


 それにしてもお母様は何時に無く気に掛けているご様子、タナカケイスケという名前など初耳だ、一体誰なのだろう。

少し気になり顔を上げてみると、ドロテアのステーキにドレッシングをかけた。


「「あっ!?」」


 何をしだすのだこの子は、何故不思議そうにこちらを見ているんです。

そのまま食べる気じゃないでしょうね、まさか食べ方を知らなかったのか。

その可能性に思い至ると無礼だったが笑いがこみ上げてきた。

なぜ教えて上げなかったのか、なんとお母様も笑いを噛み殺していらっしゃる。


「!? …………お、美味しいですね」

「「プッ!」」


 なんだろう今日の会食は、お母様がこの子を晒し物にでもしたかったのだろうか。


「あ、新しいのを持ってこさせますね、……ふふふ」

「あぁ〜っと、いえこのままで構いません。私の所では『食べ物は粗末にするな。出されたものは綺麗に食せ』という格言がありますので」


 そう言ったあとこちらをチラチラ見てくる。

正直視線を感じると先程の顔を思い出してしまう、塩と砂糖を間違えたクアラ茶を飲んだような顔。

今日の会食は何時もと違うのだろうか、そんな疑問が大きくなった頃お母様が姿勢を正した。


「それで……状況は理解していただけたでしょうか?」

「はい、カティに教えてもらったので状況は掴めました。その上で質問なのですが……今後私の扱いはどうなるのでしょう?」


 どういう事だろうか、話がちっとも見えない。


「率直に申し上げます。圭介様には『顕現者』という肩書きを持ったままハルトヴィックの王族になって頂く為に、婚約後出来るだけ早期に婚姻して頂きたく思います」


顕現者、最近王城内でよく耳にする言葉、この子がそうだったのか。


「え〜っと、ハルトヴィック王や周りの方々の反対とか出なかったのでしょうか?」

「王は半年前に倒れ、先月他界し現在は鬼籍に入っております、王子も4年前の戦争で命を落としていますので、ハルトヴィック家として残っているのは、わたくし達だけなのです」


 そうだハルトヴィック家は私達だけ、周りは皆敵だ。


「それは……ご冥福をお祈りいたします」

「有難う御座います」

「心にも無い事を……」

「ティーナ!」


 何か言っているみたいだったが、私の耳にはあまり入らなかった。


「王族になるというのが実を伴うものか形だけなのかは兎も角、婚約するに当たってどうお呼びすればよいのでしょう? マレーナ王妃様のままでよいのでしょうか? それともマレーナ王女様になるのでしょうか?」

「「……は?」」

「あれ?」


 またこの子はおかしな事を言い出した。

王妃が王女、なんだそれは。

この子の相手はお母様だったのかなんて考えたけど、この子がお父様。

有り得ない。

なにをどう勘違いしたのか、兎も角もお母様より正確な説明がはじまった。

自分の年を質問し、お母様も私も大差のない返答し、メイドから鑑を受け取ると驚いていた。

そしてその後に語られる宣言に思考が追いつかなかった。

王になるという、それも権力欲に溺れた言葉ではなく、私達に心からの庇護を求める条件として。

これは今までと違うのだと感じ始めたとき、私はお母様以外の心許せる者が現れたのかも知れないと考えた。

この子も家族を失ったのだ。

正確にはこの子は全てを失ったらしい、大凡半分の年齢と、親類縁者と故郷と職と、そして恋人を。

私達親子以上に何もかもを奪われた男の子。

会食の前と後では、私はこの子、いえこの男性に対する印象を変えていた。

その後数日経ったある日、お母様に呼ばれ


「ティーナ、しばらく顕現者様と同じ時間を過ごして……貴女は嫌かも知れないけど、暫く同じ時間を過ごした後にどうしても受け入れられないのであれば、その時は……その時はわたくしがなんとかします」


 そんな言葉から始まったケイスケとの時間は、思いもかけず楽しいものだった。

今までの王国の貴族にはいなかった、正確に緻密に王国の現状を知ろうとする姿勢。

その知識や考え方を悔しく感じたりもするけど、31歳だと言っていたのに、文字の練習の途中まるで子供の様に砂遊びをしていたり、そうかと思うととても不思議で楽しい知識を披露してくれた。


「ここに両端が輪っかになった麻紐と、お湯の入ったティーポット、そしておやつの果物に刺さっていた三本の木の串があります。この麻紐をティーポットに縛りつけ……っと、麻紐がつながれたティーポットを三本の串を使ってこのテーブルにぶら下げる事はできますか?」


 ニコニコしながら質問してきたので『面白い挑戦ね』とばかりにカティと共に何度も試したけど上手く行かず、結局出来るはずが無いという結論に至った。


「ではまず、串を1本輪に通し、その串と糸をテーブルの上で指で押さえておきます。このまま指を離したらティーポットはおちますね?」

「はい」

「当然じゃない、それにさっきカティが試してたわよ」


 いまだニコニコ顔を崩さない、いったいその状態からどうするというのか。


「では次の1本は、ティーポットで引っ張られて円じゃなくなってしまった麻紐の輪の部分を、この串で広げます。麻紐の輪が三角形二つがくっついた形になりましたね?」

「そうですね」

「えぇ」


 だからなんだというのだろう。


「最後の一本は、指で押さえている串この串の机から飛び出しているほうの先端と、輪っかを広げるている串の中央を結ぶように……ほらさげられた」

「「わぁぁぁぁぁぁ」」


 驚きの結果に2人で詰め寄りたところ『昔理科の実験の時に教わった』と言っていたけど、どれほど高度な教育を受けていたのか、さっそくお母様に教えて差し上げようと材料を持って部屋を飛び出し、お母様に教えて差し上げるとお母様も驚いてはしゃいでいた。

そう、はしゃいでいた。

ケイスケと食事を共にしてから良く見かける昔のお母様だった。

幾日か経過したある日、ケイスケの年齢の話になった。


「確かにハッキリさせた方がいいわね、お母様に対応を尋ねるので付いてきなさい」


 連れ立ってお母様に意見を求めたが、私自身もケイスケの危うい立場というのを再認識させられた。

理不尽な現状でも目を伏せることなく、最後には思いがけない言葉を発した。


「いえ……今改めて感謝しております。そしてマグダレーナ王妃様、クリスティーナ王女様。これからも宜しくお願いします」


何かが変わると思った。


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