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閑話:王家にとって(マレーナ視点)

 その日わたくしは何時もの様に政務をこなしていました。

王位継承権を持っていたはずの人物は既に国外に亡命し、早急にティーナに婿を迎え入れようと考えたがその時には王位を継ごう等と考える者は皆無。

王家を見限ったものは離反し、反意を抱えるものは陰口と雑言を並べ立て何一つ解決策を打ち出さない、友好的だった者も王家に属してこの切迫した事態を解決させられる様な者も居らず、時折届くのは無責任な提案ばかり。


「王妃様、ビューロー伯爵が面会をお求めですが……」

「また提案ですわね……しかも楽観的過ぎる……クリフ爺、ビューロー伯爵には『政務多忙につき面会はお受け出来かねます』と伝えておいて」

「畏まりました」


 その日も相変わらず無責任な提案が舞い込んでいた。

王の病死により王家存続が危ぶまれ、万策尽きて支配権の譲渡すら念頭に決意を固めたのに、周囲の貴族諸侯がわたくしを為政者に祭り上げた。

切迫した王国の現状を、高々1ヶ月程度で改善する事など出来るはずも無く、しかし王国の現状に変化が現れぬと見るや『女が政治に出てきてもやはり』等と陰口を叩く始末。

そんな事に嘆いて居ると、前線からの伝令が届いたとの知らせが入った。



「直ぐにこちらに通してください!」

「畏まりました」


 ローゼンバーグ出兵の報が届いてからそれなりの時間が経過している。

その様な時期に届く知らせとなれば、増援要請かはたまた敗北か。


「お伝え致します! 我々王国軍、国境付近にて敵ローゼンバーグ皇国軍と対峙、交戦状態に入り戦闘を継続するも、突如空より光の玉が顕現、同時に双方の兵士が自国領に弾き飛ばされました」


 大凡想像していた報告に身を硬くしていたが肩透かしを喰らい、埒外の事態に伝令の報告の意味が理解できませんでした。


「双方戦闘を再開しようとするも、国境に害意を遮断する見えない壁が出現し、いずこかより『矛を収めよ』という声が響き渡り、双方越境も敵に対する攻撃も不可能となり戦闘が終了しました。現在駐留する調査隊の選別作業中に御座いますれば、王妃様におかれましても、不可解な奇跡の現象を正確に判断し、今後の軍の方針を決定して頂きたく、現地での検分を所望するとの事に御座います!」


 前線での奇跡は神の啓示か悪魔の囁きか、しかしいずれにしても途中で戦闘終了を余儀なくされ、兵士達の犠牲を積み重ねる事が無くなったのは僥倖でしょう。


「クリフ爺、近衛騎士団長に出立の指示を伝えてください。それとわたくしの荷物と馬車を!」

「畏まりました」

「それと……遠方よりの早馬ご苦労様でした。兵舎に戻り身体を休ませてください」

「ハッ! 勿体無きお言葉に御座います!」


 今回の前線だったバーゼルトという街に程近い国境、その前線を目指しながら馬車を走らせていると、前方より早馬が向かってきた。


「火急の報により馬上からの報告ご容赦願います!」

「構いません」

「ハッ! ローゼンバーグ皇国軍、見えない壁に攻撃を加えるも壁は未だ健在、1刻程前ローゼンバーグ皇国軍に正式に撤退命令が出された模様です。ローゼンバーグ皇国軍、軍の再編を行い全軍が撤退しました」

「そう……では、将軍方にわたくし達が向かっている事を伝えてください」

「ハッ! 了解いたしました!」


 わたくしが現地に到着すると確かに空に光の玉が存在し、見えない壁と言われる物の現状を確認する為なのか、数人の兵士達が剣を振っていたり、肩を前に突き出して体当たりする様子が見て取れました。

馬車の中からは何かあるようには見えないのですが、剣は虚空で弾かれ、突進した兵士も虚空でのけぞって倒れこんでいました。

周囲の安全が確認されると近衛騎士団長のクラウスが訪れ、手を引かれて馬車から降りると光の玉が私に接近してきた。

周りは警戒していましたが、わたくしは不思議と恐怖を感じず光の収束を眺めていると、光の中から男の子が現れました。

不思議な道具と持ち不思議な衣服を身に纏い、黒髪が特徴的な男の子。

周囲に居た兵士の誰かが『顕現者様だ』と声を上げ、その声は瞬く間に広がっていった。

後からも考えを巡らせては居ましたが『この方を王にしよう』と考えたのは、兵士達の興奮した姿を見たその瞬間だったかも知れません。


「顕現者様が目を覚ましたら、わたくしに報告してちょうだい」

「はい王妃様」


 顕現者様のお世話をメイドのカティに任せ、執務室に戻ると頭を悩ませました。

求心力は既に持っている、ならばどうやって王になって頂くか。

また、あのような奇跡を起こしてまさかとは思いますが、悪逆な者、無能な者だった場合どうするべきか。


「王妃様、顕現者様がお目覚めになられました」

「そう……今行きますわね」


 果たしてどういった人物だろうか、ただの凡夫か悪逆な覇者か、それともわたくしを、この国を救って下さるまさしく顕現者様なのか。


「お加減は如何ですか?」

「んあ? ……あ、あぁ、問題ないです」


 居心地が悪そうに辺りに目を配り、現状説明の最中は子供とは思えぬほど真剣な目を向けていました。

少なくてもただの凡夫ではなさそうですが、人となりを見るには今しばらく時間が掛かる。

幾日か経過後、特に不穏な動きも無かった為、娘のティーナと顔を合わせる機会を設けました。

たとえどんな人物だったにせよ、準備だけは整えて置くべきだと考えたのです。



「ご招待有難う御座いますマレーナ王妃様。それと始めまして、私は田中圭介です」

「お待たせしてしまったようで……招待をお受け頂き嬉しく思いますわ。この子はわたくしの娘のクリスティーナです」

「初めまして、ハルトヴィック王国の王女、クリスティーナ・フォン・ハルトヴィックです」


 挨拶を終え会食を開始すると、何と顕現者様がステーキにドレッシングをかけてしまわれた。

思わず漏れ出た声に気がつき顔を向けて来られたのですが、何と御説明してよいのか分からず戸惑っていると。


「!? …………お、美味しいですね」

「「プッ!」」


 口をすぼませ眉間にシワを寄せた表情で言われても、説得力がありませんわ。

私の悩みはなんだったのか、ティーナに対しても気遣いを見せるこの方が悪逆なはずが無い。


「率直に申し上げます。圭介様には『顕現者』という肩書きを持ったままハルトヴィックの王族になって頂く為に、婚約後出来るだけ早期に婚姻して頂きたく思います」


あの兵士達の興奮、この方の人となりを考えればこの方に王になって頂く以外に王家に道は残されていない。

わたくしが関与せずとも、いずれは政争に巻き込まれて最悪の場合心優しきこの方の命でさえも危ぶまれる。

それならば理解を求めて協力して頂こう。

そのわたくしの決心は揺らぐものではありませんでした。

その後に顕現者様から語られた内容には確かに驚かされましたが、帰ることが出来る可能性は低いとなればわたくし達のする事は決まりきっています。

確かに悲しく辛い事ではありましょう、神を呪うとはまさにこういった事なのでしょう。

しかしそれならば、その心の中にティーナやわたくし達を住まわせれば良いのです。

例え時間が掛かったとしても。

この王国にて幸せになって頂ければよいのです。

わたくし自身も顕現者様の幸せを手に入れるべく決意を新たにし、ふと気がついて周りを見てみると、貴族達の顔が血色ばんでいるようでした。

伝え聞いたところによると、顕現者様が王国に居る事で皆が希望を持ったらしいのです。

楽観主義と言おうか、それでも顕現者様の確かな求心力を実感し、心持肩の荷が下りた気がしたのですが、ふと前方をみるとカティが歩いているのを見つけました。


「おはよう御座います王妃様」

「おはようカティ、それで最近の顕現者様のご様子はどう?」


 今現在顕現者様は何を求めておいでなのか


「は、はい……最近は微笑みを浮かべたり声を出して笑われたりなさる事が増えたように思います」

「そう! それは良かったわ」


 やはり心優しきカティに任せてよかった。


「ただ……」

「ただ?」

「はい……なんと言いますか、一人になるのを怖がっていると言いましょうか……笑顔の中にも少々陰りがあるように見受けられるのですが……私の家の近所に寂しがり屋のアンナという年下の女の子が居たのですが、丁度その子と雰囲気が似てる感じがしました。男性なのにおかしな事ではございますが……そう、寂しがっているというのがピッタリの印象を受けるので御座います」

「そう……」

「どういう事なのか私には分かりかねますが、顕現者様がお持ちになっていた道具の事等を御説明なさる時にそう言った印象を強く感じました」

「……貴女に任せて正解だったわね。これからはティーナにも時間を作らせて顕現者様とお話をするよう伝えておくわね、貴女にも負担が掛かるでしょうけどこれからもお願いね」

「は、はい! 誠心誠意努めさせて頂きます!」


 緊張でカチコチになっているカティ。

でも、感謝したいのはこちらなのですよ。

今あの方に必要なのは、貴女のような心の機微を感じ取れる人物なのです。

そしてその心の痛みを和らげる包容力を持った者のみなのです。


「ふふふ、本当にありがとうカティ」

「い、いえ! 私なんかで本当に良かったのかと思っておりますのに、勿体無いお言葉に御座います! お気に為さらないで下さい」


 その後2度目の会食がなされるも、やはりお顔の陰りは消えなかった。

しかし、現状を正確に御説明差し上げたところ、顕現者様の目が変わった。


「いえ……今改めて感謝しております。そしてマグダレーナ王妃様、クリスティーナ王女様。これからも宜しくお願いします」



それは何かを貫かんとする目でした。





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