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第3話:示された道

 案内されたのは荘厳な印象のする食堂だった。

壁には絵画が幾つも飾られており、やたらと細かいシャンデリアが下がっていた。

目の前には上座正面に2席、両側を10席づつ、下座の裏正面に2席の計24名が同時に座れる大きなテーブルが置いてあり、テーブルの上には銀の食台がいくつか並んでいて、既にテーブルにはナイフやフォーク等が並んでいた。


「……すごい……大きいな……」


 思わず感嘆の声が漏れたのだが、カティは苦笑しながらコレでも一番小さい食堂なんですよと教えてくれた。


「うへぇ……」


 初対面の上に上品な人たちとの対面だった為、極力口調は営業モードで通してきたのだが、再び思わずもれた妙な声にカティはクスクスと笑っていた。

薦められた席に着席し机を見ると、上座に1名自分の正面に1名が座るように食器が並べられ、その配置から王か王妃のどちらかと、王子か王女かまた別の誰かだと推測出来た。

程なくして現れたのはマレーナと女の子、年の頃から王女だろう。


「ご招待有難う御座いますマレーナ王妃様。それと始めまして、私は田中圭介です」

「お待たせしてしまったようで……招待をお受け頂き嬉しく思いますわ。この子はわたくしの娘のクリスティーナです」

「初めまして、ハルトヴィック王国の王女、クリスティーナ・フォン・ハルトヴィックです」


 フォークやナイフは外側から使うとか、実践できるかどうかは兎も角基本的なテーブルマナーは知識として知っていたが、見慣れぬ果物やソースやら食べ物やらが多かった為、緊張した上に閉口した。

それとクリスティーナが終始無表情だったのが気になった。


「これはハルトヴィック名産のドロテアのステーキなんですよ、召し上がってみてください」


 今までは2人の食べ方を見ながら真似していたのだが、ここに来て初めて『先陣を斬れ』と仰せつかった。

私に対する嫌がらせなのか、なぜかメインの皿の中にはステーキの隣にサラダらしきものが付け合わさっており、ご丁寧に白いソースと茶色いソースもだされた。

恐らく白いのはフレンチドレッシングに似た何かだろうと当たりをつけて、茶色いソースをステーキにたらした。


「「あっ!?」」


 2人とも声を上げたのでとても嫌な予感がしたのだが、失敗を教えないというテーブルマナーにあっただろうか、顔を上げて二人の顔を見たのだが、マレーナは顔を逸らし、クリスティーナはプルプル震えながら、努めて無表情を維持していた。


「!? …………お、美味しいですね」

「「プッ!」」


 甘辛酸っぱかった。

どう考えても茶色いのがドレッシングだ。


「あ、新しいのを持ってこさせますね、……ふふふ」

「あぁ〜っと、いえこのままで構いません。私の所では『食べ物は粗末にするな。出されたものは綺麗に食せ』という格言がありますので」


 そう断りを入れて、ナイフで削ぐようにドレッシングをサラダに移植した。

真面目な事を言ったので回復したかなと思いクリスティーナを見たのだが、俯いて笑いを我慢する努力を続けていた。


「それで……状況は理解していただけたでしょうか?」


 食事も終盤に差し掛かり、マレーナが質問してきたので素直に返した。


「はい、カティに教えてもらったので状況は掴めました。その上で質問なのですが……今後私の扱いはどうなるのでしょう?」


 マレーナが表情を締め、クリスティーナが身を硬くしたのが分かった。

一体何事が起こるのか


「率直に申し上げます。圭介様には『顕現者』という肩書きを持ったままハルトヴィックの王族になって頂く為に、婚約後出来るだけ早期に婚姻して頂きたく思います」


 流石に目を見開いた。

色んな可能性を考え、可能性の一つとしてはあったが、低く見積もっていたうちの一つだ。

カティから聞いた感じでは、神と人をとりなす者、若しくは神と人との中間に位置し神の意向を知らしめる者、とした感覚を得た。

ローゼンバーグ皇国がヘレナ教によっての統一を大儀に掲げる以上、顕現者を抱え込むのは強力な牽制となる。

しかしそれは、単に陣営に就く程度の事だと考えていた。


「え〜っと、ハルトヴィック王や周りの方々の反対とか出なかったのでしょうか?」

「王は半年前に倒れ、先月他界し現在は鬼籍に入っております、王子も4年前の戦争で命を落としていますので、ハルトヴィック家として残っているのは、わたくし達だけなのです」

「それは……ご冥福をお祈りいたします」

「有難う御座います」

「心にも無い事を……」

「ティーナ!」


 小さい声だったが聞こえるように言ったのだろう、まるっきり聞こえてしまった。


「私は当人同士の感情によって婚姻を結ぶという生活環境の中に居ましたので、未だ釈然としない部分があります。決して不満なわけではありませんが……美男子でもありませんし、実が伴ってない『顕現者』という他称があるのみです。お二方はそれで宜しいのでしょうか?」


 マレーナはクリスティーナを気にし、クリスティーナは我関せずなのか消極的賛成なのかそっけない態度だった。


「王族になるというのが実を伴うものか形だけなのかは兎も角、婚約するに当たってどうお呼びすればよいのでしょう? マレーナ王妃様のままでよいのでしょうか? それともマレーナ王女様になるのでしょうか?」

「「……は?」」

「あれ?」


 2人共『ナニイッテンダ? コイツ』という表情を浮かべていた。

私もさっぱりわからない、見た事も無い女性と結婚するのだろうか、それともまさかクリスティーナか、31歳と14〜5歳というのは離れすぎじゃないかとおもうのだが、それとも政略結婚とはそういうものなのか。


「え〜っと……誰と婚約するんです?」

「ふふふ……いやだわ、おからかいになってはいけませんよ……娘のティーナです」


 見ると『何か不満なのかコノヤロウ』という目でこちらを睨んでいた。

あくまで想像だが


「え〜っと、婚約者がこんなオジサンで申し訳ありませんが、婚約に関しては色々ハッキリさせてから決定しようと思います。クリスティーナ王女様」

「「オジサン?」」

「あれ?」


 どうにも先ほどから話がかみ合わない。

一体何なのか


「……私の事は何歳に見えます?」

「……14〜5歳に見えますが……」


 マレーナの答えに疑問符を浮かべつつ、クリスティーナに目を向け返答を求めると


「15歳には見えません。13歳か14歳に見えます」

「……鑑はあるでしょうか?」


 マレーナに指示されたメイドさんが持ってきた手鏡を覗き込むと、子供の私が居た。


「なんでやねん……」

「「え?」」


 マレーナもクリスティーナも『一体なんなのだ?』という疑問の表情を向けてきたのだが、暫く黙して考えを纏め、これから3人で内密な話をしたいので、盗み聞きの恐れが無い部屋は無いかと尋ねると


「それでしたら、先ほどまでお休みになられていた寝室が一番適しております」


 その為3人で寝室に移動した。

給仕を終えたカティが退室し、部屋の中に居るのが3人だけになると私は徐に口を開いた。


「まず……色々お話する前に、尋ねたいことがあります。正直にお答え頂きたいのですが」

「はい、わたくしに分かる事でしたら、立場の許す限り正直にお答えいたします」


 私が聞きたい事、それは今後の私の扱いの正確な所だ。

王族の一人として戦いに参加するのか、それとも王として率いるのか、また、そのどちらかであったとしても、その扱いが私の寿命が尽きるまで恒久的に継続されるのか、それとも国が安定しどこぞの貴族から婿養子を招き、正当な王として立脚するまでの繋ぎなのか、はたしてどういう扱いなのか、という事だ。


「王族の一員としてだったり指示に従うだけの王ならば、何処までの自由が許されるのか聞いた後従いましょう。街に行くとか、城内を歩く等すらも許されない、奴隷のような扱いなら、それを改善するべく交換条件を考えて用意しましょう。実権を握れというなら、その努力をしましょう。しかしそれが恒久的なものではなく、ある時期から私の存在が不必要になり、何処かの貴族の方が王女と婚約し、その結果私が邪魔になるようなら、ローランドどころかガリア帝国すらも関与しない場所、私が元居た場所に帰る努力をしておきます。私が帰れば、例え邪魔になったとしても『顕現者は後任に託して神の国に帰還した』とでも触れ回ればよいでしょう。なので、どういった立場のどういった立ち居振る舞いを求められているのかを知りたいのです」


 こういった質問をしているのは、逃げ出す為等ではない事を説明した。

その言葉を聞きマレーナは、国が疲弊して貴族諸侯の離反が増えだしているので、何処からか婿養子を招きいれる事は無いと断言した。

友好的な閥と反抗的な閥との心情的な差を広げる事はしないとの事だった。

友好的な貴族とさらに友好的になれたとしても、若干の反意を持っている貴族の閥が、さらに反意を大きくしたのでは、いずれ離反してしまい国力や兵力が減少してしまうし、国が安定した後でもその頃になれば『顕現者』の地位の確立が成される為、王として実質的な要人となるという事だった。


「圭介様の能力やその方向性によっては、指示に従ってもらうのか、率先して指示して頂くかは変わってきます。ただし、街を見てまわったり、城の中をみてまわったりなど、大凡生活に支障をきたす様な制限は致しません」


 生涯に渡り王として存在するならばどちらを望まれているのか、実権を持たせるという事は指示する以上の能力があるという事を認めた場合だ。

それならば、実権を握らせるほどの能力と実績を示したほうが望まれる事ではあるが、しかしながら、発言力とかパワーバランスとかそういったことを考えると一概には言えない。


「知識やそういった能力をお持ちであるのなら、それを示して頂き実権を振るって頂いた方が王国としても望ましく思います」


 と望まれる方向性は示してもらったものの、そんなもの持っているわけが無い。

ちょっと先の技術や知識を、学校で習い営業の仕事で聞いたり実践したりした程度だ。

国家運営など出来るわけが無いし、そもそも、この状況の理不尽さに憤りを感じ、優子との唐突な離別で感じる無気力感を感じている。

正直自分がどうしたいのかさっぱり分からない。

そして、暫く状況を噛み締めた後自分自身の事を伝えた。

人類以外に文明を持つ知的な種族は存在せず、人口は60億に上る大きな世界であり、科学技術の発展に伴って、より高度な社会を形成している。

そういう所謂異世界から唐突にここに来てしまった事と、実際は31歳で、家族、友人、恋人、その他命と意識以外の全てを一挙に失ってしまい、憤りと無気力感を感じている事等、今現在の正直な気持ちも含めて打ち明けた。


「それで先ほどは無様にも涙を流して、カティに慰められてましたがね」

「……そう、ですか……」


 憐憫というか同情というか、何と言っていいのか分からないといった感じの表情を向けてきた。

珍しくクリスティーナの表情からも険が取れていた。

そういった事情もあり、気力さえ充実すれば指示には従うし努力もすると思うが、と気力が戻るかどうかについては言葉を濁して説明した。


「今しばらくは予定もありませんので、ゆっくり静養なさってください」

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