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第10話:圭介先生の授業2日目

 気がつけば朝になり、何時もの様にカティに起され外を見てみれば、昨日とは打って変わって晴れだった。


「おはよう御座います、顕現者様」

「うん……おはようカティ」


 私に対する呼称が『顕現者様』に戻っている事を不思議に思いつつ、上体を起そうとしたのだが気だるさ以上の億劫さを感じ、久しぶりに夜中迄起きていたので眠気が醒めないかと考えた。

昨夜マレーナに将来どうなりたいかを尋ねたところ、早急に三国を統一し魔族という強大な外敵に備えたいという事だった。

戦略とは『どうするべきか』からでは無く『どうなりたいか』から考えていく。

最大目標を設定した上で、そこから『どのようにして』という選択肢を選んで行き、今ある現実に道を繋げるという作業だ。

これは営業でも同じ事で、売り上げでトップになりたいという目標であれば、担当エリア全域を営業にまわり、得意先では更に売り上げを伸ばす為、新規の場所では取引を開始する為に、あらゆるものを武器にし、様々な戦術を駆使して攻略していかなくてはいけない。

そういった事からも、三国統一の為の方法はどういったものが望まれるのか、武力による支配か、それとも交渉による和平か、はたまた経済というもう一つの武器による支配かを尋ねた。

マレーナ自身も武力支配は望んでいないらしく、平和裏に事が進むのであればその方が望ましいとの事だった。

私も、自分の命令で多数の死傷者が発生する、という事態は遠慮したかったのでその点には胸を撫で下ろした。

そもそも最大目標が『外敵に備える』と言うのであれば、無用な血を流し軍事力や国力を疲弊させるというのは得策ではない。


「風邪なのですから無理なさらないで下さい顕現者様」

「……風邪?」


 あれこれと昨夜の事を思い出しながら、モタモタと起きようとしていたが、やたら体が重く上手く行かなかった。

見かねたカティに背を支えられながら状態を起すと、私が風邪である事を告げられた。


「……やたら体が重いと思ったら風邪だったか……所でどうして顕現者様?」

「あ……いえ……その」

「何時も通りの呼び名で構いませんよカティ」

「うおわっ!」


 今日も今日とて背後から突然声が聞こえ、振り返ってみるとティーナだけではなくマレーナも訪れていた。


「あぁ……おはよう御座いますマレーナ王妃。おはようティーナ」

「おはよう御座います圭介様」

「おはようケイスケ」


 二人が居る事に驚きつつ、そばに置いてあった腕時計を見ると、午前10時を示していた。

どうやら風邪で起きるのが遅くなってしまったらしい。


「お加減は如何ですか? 圭介様」

「……正直なところ、少し体が重いですね」

「食欲はおありになりますか?」

「……はい、不思議ですがお腹はペッコリです」

「まぁ!? ふふふ」


 全員が不安そうな、若しくは気遣うような表情を浮かべていたが、食欲がある事を告げると安心していた。

何か用があったのか尋ねたが、戦争終了から約20日『戦後処理も終了し政務も少し落ち着き、明日の婚約披露宴の準備も指示を出し終わったのでお休みを頂いた』という事だった。


「実は今朝方、ティーナから蒸気機関や電気なる物を伝え聞いたのですが、要領を得なかったのでそれならばわたくしも参加させて頂きましょうと思いまして参ったのです。ところが部屋に来てみれば圭介様が病を患っているとの事だったので、目的を変更してお見舞いをと」

「成る程……すみません、自己管理がなっていませんでしたね」


 そういう事ならばと、ベットから起き出し着替えようとしたのだが、慌てた3人に取り押さえられベットに戻されてしまった。


「しかし……元の世界の営業という仕事でも、この程度で休んでいたら仕事になりませんよ」

「「「ダメです」」」


 全員に一息で却下され、起きたばかりで寝れない事を告げ、ベットの中で話をするというお互いの妥協点で話は纏まった。

そうこうしている内に私の朝食が運び込まれた。

野菜を煮込んだスープで消化によさそうなものだったが、ベットで食べる為の台が大人用で、腕も疲れ始めた為食べるスピードが極端に遅くなった。

それを見かねたカティが、スプーンでスープをすくい差し出してきた。

所謂『あ〜ん』だ。

1人勝手に照れながらも、腹は減っているので啄ばむ様に食べていると、ティーナが声を上げた。


「カティ、私に貸してみて」

「はい、どうぞティーナ様」


 何を思ったのかティーナかスプーンを差し出してきた。

気になってマレーナを見たのだが『いいもの見た!』とばかりに目を輝かせているだけだった。


「ホラ! 早く食べなさいよ」

「あ……うん、分かった」


 そう言って再び啄ばむようにスプーンを口に含むと、ティーナが恍惚とした表情を浮かべた。


「ど、どうしたティーナ……」

「不思議ね……たったコレだけの事なのに、震えるケイスケに食事を与えていると、ケイスケの命を私が握っているという感覚がして……なにかゾクゾクするわ」


 なにか間違ってるよティーナ。

この行為は決してそういうものじゃなくて『保護欲を刺激される』とかで照れる行為のはずだよティーナ。

表情も照れで初々しさを出すべきなのに、なんで妖艶さを出しているんだティーナ。

なにか色んな事を間違っている朝食を終え、私が話をし始める前にマレーナが報告と質問をしてきた。


「今日は晴れましたので、圭介様が行なっている作業が再開されます。陣頭指揮はエルンスト将軍が買って出てくれましたので、話を聞く限りでは今日中に完成するそうですが、作業の際に指示すべきことは御座いますか?」

「そうでしたか……後でお礼言っておかないと……っと指示でしたね……植えるものは本来春に種を蒔く物、その中でも収穫量が増えてほしいものを5種類選んでください。それで炭を撒く量ですが……井戸から水をくみ上げる桶(約20リットル)がありますよね? アレに半分程度を最小として、1枚に半杯分を撒いた畑を10、1枚に1杯分撒いた畑を10、1枚に1杯半分撒いた畑を10、1枚に2杯分撒いた畑を5、撒かない畑を5、そのまま放置する畑を1枚作って置いてください、そもそも半分では足りないというのであれば最小は1杯分から同じように増やしていって下さい」

「わかりました。その様に指示を出しましょう」


 それに加えて、鶏糞が届くのであれば、1枚の畑全域に撒ける最小量とその1.5倍の最大量を設定し、炭を撒かない所は最大量を、炭が一番多い所は最少量を、それ以外で10枚単位で炭の量を変えた所には5枚一組として最小と最大を撒いて欲しい事を告げた。

こうする事で、どの作物には何がどの位必要なのかが絞り込めるはずだ。

余った1枚は出るか分からないが井戸でも掘るか、小屋でも作って資材置き場にするか、必要に迫られてから考えようと思う。

そのような諸々の指示を出し終え、授業と呼ぶのはおこがましい知識の提供を始めた。

今日は新たな物を教えようと思ったのだが、マレーナとティーナのたっての希望により、蒸気機関と電気について語って欲しいとの事なので、カティにも了承を得て語りだした。

この勉強会を開く際、用済みとなり日時計のまま放置されていた学習砂が役に立った。


「皆これを見て下さい」


 そういって皆に見せたのは、砂に書いたガソリンエンジンのピストンだ。

蒸気機関という名前は知っていても、どういったものだったのかは詳しく知らなかった為、工業用ケミカル用品の営業だった経験から、車のエンジンを説明に用いたのだ。


「こちらの密閉した容器に入った水を温めると湯気が出てきます。蓋をしたお鍋を暖めていると蓋がカタカタなりますよね? あれが蒸気圧と言われる物で、蒸気の圧力が蓋を持ち上げています。その力を動力にしようというのがこの蒸気機関です」

「はい、それなら見たことがありますわ。お湯を沸かしているお鍋の蓋がカタカタ踊っているのを眺めていた事があります」


 話してる内容がエンジンという男臭い事なのに、出てきた発言が『お鍋の蓋が踊る』という、とても乙女チックな表現だった事に微笑をもらしてしまった。


「はい、その力です。蓋を押し上げる力を持つ蒸気は、行く場所が無いのでこの管を通って行きます。その行き着く先にはエンジンと呼ばれる装置があります。エンジンには、蒸気を取り入れる口と吐き出す口、その口を開閉する皿に棒の突いた弁、その弁を開け閉めするカムシャフトと呼ばれるもの、このシャフトは、回ることで途中に付いたカムと呼ばれる卵型に膨らんでいる部分が弁についてる棒を押します。」

「あぁ……昨日はよく分からなかったけど、これはレバーみたいなものなのね?」

「そうだね、1回回る度に弁の棒を押し下げるレバーだと思ってくれればいいよ」


 ティーナは昨日の1度の勉強会だけでは理解出来なかったようだが、マレーナは理解したようで、先に進む了承を得ると話を再開した。


「そしてこのカムにより棒が押されれば、当然下がるので弁が開いて蒸気が入ってきたり、吐き出されたりします。弁が開けば蒸気が入ってくるので、中央のピストンと呼ばれる動く丸い筒は蓋の時と同様、押されて下に下がります。そうすると丸い筒が繋がっている、クランクシャフトと呼ばれる棒も周り、その棒に紐で繋がっている上のカムシャフトも回ります」

「これは紐ではなくて歯車でもよろしいのですか?」

「あぁ、そういえば歯車でも構いませんね」


 話の参考資料として持ち出したのが車のエンジンだった為、ベルトの変わりに紐で説明したのだが、よくよく考えれば歯車の方がわかり易かったかと考えを改めた。


「この上の棒が回ればカムが吐き出す口の弁を押し開くので、ピストンが押された力を利用して蒸気を吐き出していきます。そのタイミングで再び蒸気が入ってくる弁が開くので、丸い筒はまた下がる、というのを繰り返します。結果的に、丸い筒の下に付いたクランクシャフトと呼ばれる棒がぐるぐる回り続けるわけです」


 その後クランクシャフトに車輪をつければ蒸気で動く車になるし、棒が回転するという動力を色々な事に用いれば、車を動かす事だけではなく、船を動かす事、扉を開く事、井戸から水を吸い上げる事、動力の応用次第で千差万別の働きをさせる事が出来るのだと説明を締めくくった。


「す、素晴らしい装置ですわね……これは今すぐ作れるのですか?」


 普通は皆同じ反応になるのか、それとも親子だからこそ同じ反応なのか、ティーナと同じ質問をしてきた事がおかしかった。


「いえ、実用化のためには蒸気が漏れないように密閉するための工夫とか、動く箇所が多いのでもっと簡単な仕組みにするとか、耐久性とか色々と解決しなくてはいけない事もありますので、時間とお金が必要ですね」


 マレーナは一瞬だけ残念そうな表情を浮かべたが、それでも誰も知らなかった知識をいち早く手に入れた優位性というものを理解し、すこし興奮気味な表情を浮かべていた。

その後、自分でもあまり詳しくない電気について説明を始めた。

鉄の棒に銅線を幾重にも撒きつけたコイルという物を並べる。


「それともう1つ、鉄等がくっ付いてしまう性質を持つ金属があるのですが、旅をする際の方位磁針等のアレです。あの針は磁石なのですが、どんな磁石にも決まって北を向くN極と、決まって南を向くS極という方向性が存在します。そしてこのN極とS極を交互に素早くコイルに近づけると、コイルから伸びた2本の銅線に電気と呼ばれる力が発生します。この電気という物ですが……雨の日に空から青白い光が音と共に落ちてくる事がありますよね?」

「雷のことですわね?」

「えぇ、その雷が電気なのですよ」

「ええぇぇ! あんな恐ろしいものが作り出されるのですか……?」


 動かせば、雷そのものが発生すると勘違いしてしまったらしい、私に対し『本当にこの方は人なのか?』という畏怖の表情を向けてきた。


「いえいえ、その装置で作り出せる電気は、あんな凄いものではありませんよ」


 それなりの出力で安定した電気を作ろうと思ったら、発想力のある人間を何人も集めても何年もかかる事だろう。

私の考えた装置を作ったところで、1.5ボルトも出たら御の字だろう。

そんな話を交えながら午前中は過ぎ去っていった。

午後も始めるのかと思ったのだが、流石に午後は休んでくれとのことで、お言葉に甘えてベットに身を横たえると、程なくして眠気が襲ってきた。


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