第九話 注射針
〇
「それじゃあ、二人でやるぞ」
「了解です」
――そのやり取りの後。
私が行ったのは、とても単純な作業だった。
後方から狙いをつけて、撃つ。
オグロ先輩が前衛で多頭蛇の首や頭を切り飛ばし、私がその大きな肉片に弾丸を撃ち込む。六発ごとに炸裂させて、弾を補充する。この手順だ。多少は躱したり、牽制の射撃も織り交ぜるが、それでも流れ作業の感は否めない。
確かに多頭蛇は強かった。
そして、間違いなく強いはずなのだ。
彼ら本来の生息地である密林や、逃げ場の少ない下水道なら。
でも、この場所は――空間の開けた市街地では、彼らの能力は制限される。
足場として使える樹木はなく、姿を潜ませる茂みもない。攻撃はどうしても牙に限定されるから、死角さえ突かれなければ、躱すのは難しくない。そして、二人組である私たちが、障害物のないこの場所――この空間において、死角を突かれることはない。
高揚感はなかった。
自己嫌悪だけなら嫌というほど。
でも、それで引き金に掛かる指が怯んだりはしない。
私を突き動かすのは、〈義務感〉と〈あのときの決意〉だ。
私は狙いをつけて、引き金を引く。医療課の衛生官が、静脈に注射針を打つのと同じだ。少なくとも、技術としては同じだと思っている。慌てず、手際よく、なおかつ正確に――そう、必要なのは精度だ。
注射針を打つように――脳裏にこびりついた言葉。
それを繰り返しながら、撃つ、撃つ、撃つ。
肉片が飛散し、血液が弾けた。臓物がちりぢりになり、焼け焦げる音がした。傷口から顔が覗き、すぐに潰された。成り損なった眼球や舌を見た。胴の長さがどんどんと短くなる。首はいつしか一本だけになっていた。
でも、悲鳴は上がらない。どれだけ悲惨な目に遭っても、彼らは鳴かない。発声器官がないからだ。彼らは声を持たない種族だった。
けれどもし、言葉を話せたら。
「こんなところに来たくなかった」と言うんじゃないか。
「なんでこんな目に」と嘆くんじゃないか。
「なぜ殺す」と問うんじゃないか。
もしも、声さえあったなら――――
私は、狙いを付ける。それが最後の肉片だった。
引き金を引く。掛ける言葉は見当たらなかった。