プロローグ
──暗い場所にいた。
何も分からない。
上下左右も分からない。
狭いのか広いのかも分からない。
自分が地に足を着いているのか、浮いているのかも分からない。
けれど、これだけは直感で分かった。
私、死んだんだなって。
前のことは何も覚えてないし、身体のどこも悪くないし、痛くもないし、死んだこともないけど、なんとなく分かった。
………死んだらどこに行くんだろう。
死ぬ前に悪いことはしてないはずだ。覚えてないから『はず』だけど。
だったらここは天国なのだろうか。
それにしては暗い。
天国ってもっと明るいところだって聞いたことがある。
地獄にしては優しい気がする。
本で読んだ地獄は、溶岩の池の上を綱渡りさせられたり、針の山を裸足で歩かされたり、もっと酷い感じだった。
………よく考えたらこんな暗闇にずっといなきゃならないのも気が狂いそうだな。
そういえば、三途の川渡った覚えもないし、もしかしたら死んでないのかな。
いろんな考えが頭の中をぐるぐる回るけど、歩こうとか、出口を探そうとか、そういった考えは出てこなかった。
私は、この状況を、少しだけ、受け入れていた。




