壁
堅く冷たい壁
高く長い壁
音も熱も跳ね返す壁に
壁の向こう側の世界を忘れた
お伽噺が紡がれる
壁の向こうは悪魔の世界
悪魔の世界に正義の理を下すのは
金の髪の美しい勇者
山高帽子の男が叫ぶ
勇者は一人ではない
我々一人一人が勇者なのだ
彼の言葉は
壁に弾かれ反響し
鼓膜を心を揺さぶって
お伽噺は実話へと転化する
僕らは勇者
僕らは勇敢なもの
僕らは剣をとる
僕らの剣を掲げる
壁の内側と外側で
悲しい勇者たちが
剣を掲げる
そして、かかげた剣の先
何処とでも繋がる
青い空を見つけるんだ
青い空には
鳥がとぶ
白くやらかな羽を羽ばたき
あちらからこちらへ
こちらからあちらへ
小さくとも懐かしい
弱々しくとも愛おしい
言葉を囀ずりながら
青い空には
紙飛行機がまう
風にいたずらに揺らされて
頼りなげに進んでいる
あちらからこちらへ
こちらからあちらへ
小さな羽に
やさしい写真を張り付けて
壁の上を軽々と高らかに
青い空には
白い愛が飛び交うんだ
僕は剣を落とす
それは、とても恐いけれど
この手で掴みたいものは
壁のように堅く冷たい
勇者の剣ではないから
空の中
弱々しくも頼りなげに
こちらからあちらへ
あちらからこちらへ
飛び交う白い愛だから