妄想の芽
無。
精神を守る最後の手段。
それは、死。
認めなければ存在しない。
「聞こえるかい、哀れな君。」
空虚な思考が復元される。嫌味のない声色が逆に僕の苛立ちを増長させた。
「…………ぁ。」
声が出るのは、出せるのはいつぶりだろうか。こんな通常に歓喜する。
「………な…………んだ、お前…誰………」
「気にするな」
「それよりも、君の未来の話をしよう。」
なんだ。
なんなんだこいつは。
出会ったばかりの奴に心配される将来などない。
「うる………さい………それより………僕を、僕を自由にしろ………。」
「ふふふ、可笑しなことを言うんだね。君は自由さ。」
視覚のみの感覚で何が自由なのか。
こいつ、僕をバカにして楽しんでるな………!
「ふざけるな………感覚を戻せよ……。それができなきゃ自由なんて要りもしない幻想だ……!」
「はぁ~、君に体なんてない。そうだろう?少なくとも今は。そんなことも解らないのか?」
こいつ………。
確かに感覚が無いから実体を認められない。だが僕はお前の声を聞いたのだ。それが僕の体の証明だ。
「おい……!体が無くてどうやって声を聞くんだよ!」
「う~ん、そうだなぁ。君に分かりやすく説明するには簡単な言葉がないけど。まあ、理解できる説明をしろとは言われてないから。いいよね。」
「いいかい?君は精神概念体となり精神干渉域に接している。干渉可能変動域で拾うのは苦労したんだけどね。旧神の気紛れで作った概念的接続型単体断続導異体によって精神自壊が発生して同じ形の単体世界に接続させられたんだよ。それでね、この概念的接続型単体断続導異体は未完成でね。こうして鍵を作って精神干渉しなきゃあ君は完全精神自壊して意味消失してたところだったんだよ。だから私は君の命の恩人ってことだよ?だからもっと感謝してくれなきゃ割には会わないなぁ……なんてね。」
なんだ、ただの電波か。
こいつは声こそ嫌味じゃあないがその性根が気に入らない。悪意なき悪は許さない。
「じゃあわかったからさ。その話信じるよ。うん。もう解放してよ。ね。目的は達成されたんでしょう?こっちも忙しいんだ。罪悪感が在るんなら一緒に警察にだって行ってあげるし。まだやり直せるよ。うん。」
「………なんか君は私を監禁魔だと思ってるみたいだね。じゃあもういいよ。この世界に授肉させてあげるよ。君が望んだのは自由。これ以上ない幸せだろう?」
いやいや、お前は監禁魔だろ……常識的に考えて。こいつ拗らせ過ぎだろ……。
パチン。
「…………ぇ?」
脊髄が切れる音がした。
苦痛。激痛。鈍痛。幻痛。
痛みは………イチゴ色をしていた………。