第一話 雷光
今回はちょっとアレなシーンが入ります。
「ごわごわするなぁ。合成素材の劣悪品だけど我慢するしか無いかぁ……ヴァー……だるい。」
突如、落雷とともに現れた素っ裸の少女に僕が来ていた服を投げつける。
劣悪と好き放題言うが、着れるだけまだマシだと父さんは言っていた。
「で?君は……?」
「え?わたし?ふふーふ。良くぞ聞いた!聞いてくれた少年!」
突如立ち上がる少女。それを見上げる形となる僕。みえ……見え……ないっ!
「嘗て地上の覇者として君臨した我が偉大なるパンドラ様の手足のごとく各地を走り回った十二神将が一人!」
「巳と呼ばれ、南東微南の方を指す十二神将が一人!インダラ様たぁ、わたしのことよ!」
十二神将?パンドラ?地上の覇者?きょとんと首を傾ける。
もっと幼い頃に聞いた事があるけど、あんまり理解できない言葉だらけな僕に彼女は説明をしてくれた。
「まぁ?すっぱりさっぱりズッパシ言っちゃうと……。君達が管理されるきっかけを作ったAIの部下的な?そんな感じ。」
お尻についた尻尾をブンブンと振り回しながら、目を細めて言う。
タレ目ながら、獣のそれと似ている瞳に吸い込まれそうになりつつも、問う。
「そんな偉そうな人が何してるの?その、上司?というのが居るならボクを助けるどころか見捨てるべきだと思うんだけど……」
「うん。わたしさ?走り回ったって言ったじゃん?それ、嘘。」
「へっ?」
思わず、素が出る。
「ほら。めんどくさいの嫌いだし?そんな事をするならうだうだしていたいというかめんどくさい。大事なことなので二度言った!」
「え、えぇ……?」
困惑した僕の顔を覗き込むかのように顔を近づけ、まじまじと瞳を覗き込むインダラ。捕食者のような瞳が僕を睨みつける。
ほんの一瞬の出来事だったが、体感時間はかなり長く感じた。
「ふぅーん。君、食事は?」
「えっと、合成植物性蛋白質は昨日食べたけど……」
「動物性蛋白質は取ってない?食べたことはない?お肉とかお魚とか」
家畜である人間は体調管理、食事制限すら管理者である機械に言われるがまま。
生殖も基本的に許されておらず、一年に一度選ばれた家畜だけが上位地区へと出荷される。
選ばれる基準は無いが、選ばれた人は基本的に帰ってこない。
僕の両親はその基本に漏れた人で僕を連れて戻ってきたと今の父さんである機械技師が言っていた。
「そっかそっか。君、さ?もう一度聞くけど、動物性蛋白質を今まで取ったことはある?」
「配給で何度か貰えたけど……、全部父さんにあげたよ。匂いも苦手だし……そうでもしないと、余計に目を付けられるから……。」
「おーけーおーけー。んじゃ、言い事を教えてあげよう」
―――君、きっと長生きするよ。
と、そう言い放ったインダラは僕の首筋に噛み付く。
「あ゛っ゛……!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
喉が潰れるような悲鳴が上がる。インダラに付いている尻尾が足に巻き付き身動きが取れない。
血を吸われているという感覚ではなく、何かを無理矢理注入されている。体が妙に熱く、悲鳴も次第に嬌声へと変わる。
「あ゛っ゛……あ゛っ゛……!」
「んー……良しっ。」
口を拭うインダラの口から紫色な液体が漏れていたのはっきり見た。見てしまった。
「な、にしたんだよ……!」
「こりゃ、時代が時代だったら売れてたかもね?少年の苦痛に歪むも高揚してるそんな表情。うーん、良いねえ。」
「だ、か、ら……!なにを……したんだよ!」
「知りたい?知りたいかー……でーも、ダメ。」
インダラは尻尾で地面を叩きつけ、土埃をあげる。
「あ、そうそう。服は返すね。」
脱ぎ捨てられた支給服の先に素っ裸のインダラが一瞬見えた。だが、先程は見えなかった肋骨あたりに鈍く光る何かが見えた。
「そーれーと……、そこにいるメイドロボには触らないほうが良いよ。帯電してるだろうから。」
「何処に行くんだよ!インダラ!説明してくれよ!」
落ちる雷に目を瞑り、うっすら目を開けるとインダラの姿は無くなっていて、黒焦げとなった機械群の姿が見えた。
彼女が言ったとおり二足歩行の機械はバチバチと音を立てていて、とても近寄れる状況ですらなく
収穫も無いまま、支給服を羽織りトボトボと家路に付くことしか僕には出来なかった。
● ● ●
「生キテ帰リヤガリマシタカ、J-310RA。腕ヲ出シナサイ。本人デアル事ヲ確認シマス。」
僕が住む街、特別管理牧場J地区。そこに入るための門で上着を脱ぎ、腕を無骨なロボットへと突き出す。
基本的に出入りは自由だが、街へと入るためにはDNA情報と呼ばれる物を提出しなければならない。
棒状の金属で口の中を蹂躙される。冷たい金属に嗚咽を漏らすが、ロボットは止めてくれない。
「消毒用アルコールヲ散布シマス。口ニ入レテモ良イデスガドウナッテモ保証シマセン。」
「しないよ。そんなこと。臭いから苦手だし」
DNA情報を提出したら、次に待つのは消毒用アルコール散布機の中へと入らなきゃいけない。僕はこれが大嫌いだ。
頭がクラクラするし、顔が真っ赤になるし、不味いし。
「ハイ。コレデ終了デス。良イデスカ、J-310RA。貴方ハ幸福デス。我々ニ管理サレル事ガ至上ナノデス。」
「……はい。J-310RAは管理者様方に幸福であることを証明します。」
渡された単分子刀と呼ばれる切れ味の良い刃物で指先を切り、目の前の紙に自分の血を押し付ける。
此処までやって、街の中に入れる。
「……もう疲れた。早く寝よう。」
「――――サ、ン、ト、ラァァァァァァ!!!」
街中に怒号が響き渡る。……父さんだ。反射的に背を伸ばす。
「てめぇ、手ぶらで帰ってくるたァ良い度胸だ!ちょっとこっち来いコルァァァァァ!!」
「ごめんなさい!父さん!お願いします……!髪を引っ張らないで……!」
涙声になりながら、父さんである機械技師。管理番号A-647MEの腕を掴む。
「ムジナの旦那ー。ガキを弄るのは分かってっけどよー。もうちょっと見えないところでやろうぜ?」
「るっせぇ!俺のやり方に文句あんのか!あるんなら出てこいや!」
父さんは街の人たちにムジナと呼ばれている。どういう意味なのかはさっぱり分からないけど
昔にそういう動物が居て、父さんの目の下にできてるクマがそう見えるんだと街の人が言っていた。
あと、美味しいらしい。
「坊、良く帰ってきたな。」
髪を引っ張る振りをして頭を撫でて、お帰りと言った父さんは、何処か嬉しげな表情だった。
「うん、ただいま。父さん。」
僕も街の人には見えないように、笑顔を見せる。
今日は色々とあって疲れたけど……。たった一つの報酬《父さんの笑顔》が貰えたのは、僕の、僕だけの役得なんだって、はっきり言おう。
○ ○ ○
「――――ガガッ、ガピッ……」
「はいはい、門番ご苦労さん。」
何かに蹂躙された機械の上で寝そべる少女。
うっすら月明かりが照らす夜のこと、インダラはタレ目をぱちくりと広げ、呟く。
「おんやぁ?今日は望月か。」
その月に華奢な手を伸ばし……――――
「同胞、ねぇ。月に汚染された他の十二神将を同胞だなんて呼べるのかなー。」
一人、悲しげな表情を見せる。
月に広げた手は、次第に丸くなっていき……目は巳のように細くなる。
「ふふーふ。彼は私の珊底羅になってくれると良いけど。」
含み笑いを溢したインダラがふと顔を上げると月は雲で隠れ、辺りは暗闇に沈む。
溜息と共に、あーあと声を漏らす。
「まっ!これからに期待しようそうしよう。」
この日、大規模な雷光が観測されたと管理者達が速報を流したが……原因は未だ知らず。
趣味全開で申し訳ございませんが、趣味なのでご了承をお願いします。オネシャス!