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第92話 視察前の開発会議

 今回、ナルヴェクまでたどり着けませんでした。現時点での設定集のようなお話です。マリブールの開発状況などの説明回となります。

 帝国歴1795年3月3日、この日の開発会議の冒頭で隼人が宣言した。


 「俺は近日中にマチルダ、ナターシャ、カチューシャ、カテリーナを連れてナルヴェクを視察に行く。ナルヴェク代官を任せる川西氏綱も赴任させる。アルフレッドには後3カ月引継ぎにナルヴェクに残ってもらい、引継ぎ終了後にマリブールに戻ってもらう予定だ。というわけで、今までの開発状況と今後の開発方針について報告と討議をしてもらいたい」


 すると早速抗議の言葉が梅子と桜から発せられる。


 「拙者達がついてなくても大丈夫なのか?警護役としてなら拙者が1番だと思うが……。それにナルヴェクの防諜体制も確認したい」


 「隼人さんに何かあった時、私の治癒魔術がなければ困ります。それに、マチルダさんに抜けられたらマリブールの統治に支障が出るかもしれません」


 2人は大抵の場合隼人と行動を共にしていたので、同行する事が当然だと思っていたようだ。


 「警備は、俺の剣の腕前を知っているだろう?防諜体制は俺とマチルダと川西で確認する。マリブールの統治については桜と梅子と熊三郎に任せる。それに、マチルダ、ナターシャ、カチューシャもたまには外に連れ出さないとな。カテリーナも地味に接触する時間が少ないし」


 そう隼人に言われると桜と梅子は立つ瀬がない。2人は渋々了承する。


 「ああ、そうだ。ナルヴェクの視察が終わったら、ケルンの方も視察してくれ。家宰のルドルフに任せてあるから大丈夫だと思うが、さすがに長く開けすぎた」


 そこについでとばかりエーリカがケルンへの視察要請をする。隼人とエーリカの結婚によってガリア王国とアーリア王国に両属する事になったケルンだが、今のところルドルフが上手く綱渡りしてくれている。もっとも、両方の国に払う税金を納めるために、中島家分の税金はほとんどとっていない事で税率を他の領地と同程度に抑えている。無論、赤字分は主に交易で補填している。


 「そう言えばケルンには全くと言っていいほど足を踏み入れてなかったな。じゃあエーリカ、ケルンに行く時はついて来てくれ」


 「あ、ああ」


 隼人の要請にエーリカは気のない返事をする。隼人はそれを不審にこそ思えど、特に追及しなかったが、桜は何となく察しがついたようで、エーリカにジト目を向ける。




 「他にはないか?……では開発状況の報告を頼む。エーリカ、まずは軍備関連を頼む」


 「ああ、まずは陸軍だが、マリブールには4000、ナルヴェクには2000、それにケルンに8000がいる。一応マリブール、ナルヴェクにはまだ徴兵余力があるから増やせるし、ナルヴェクには配下の子爵達が合計で4000の兵力を出せる事になっている。これの他に都市にそれぞれ警備隊がいる。

 ただし、今は新式のライフル銃とライフル砲を配備している最中だから、数を増やすよりも新式装備の更新に注力したい。それから制服の支給も決定した。ケルンから交易で入手した綿とマリブール産の麻織物を組み合わせたものだ。歩兵と軽騎兵には新式の胸甲も支給する。胸甲は銃弾や強力な弓にはそれほど効果はないが、白兵戦では役に立つはずだ。無論、従来の鎧よりも軽量なので弾薬携行量の増加や進軍速度の向上が見込める」


 エーリカそう言って、黒を基調とした派手で洒落た制服と、これまた洒落た装飾を施された胸甲を見せる。両方将校用で、下士官、兵は制服のデザインこそ同じだが、胸甲には装飾はない。これは将校への昇進にやる気を出させるための飴だ。

 ちなみに制服は機能性よりも見た目の華美さを優先しており、機能性を重視しようとした隼人と、一定の華美を要求するエーリカでひと悶着あった。しかし制服が華美であることで戦場では敵に圧迫感を与えられること、洒落た制服で新兵を釣る事ができるなど利点を強調され、エーリカが主張を押し通した。胸甲の装飾も隼人は指揮官の狙撃を心配したが、軍の士気向上のためにとエーリカの意見が通った。

 ちなみにこの時代ではエーリカの主張の方が正しい。他では装備が自弁の事が多い中、高価で洒落た服をもらえるというだけで中島軍は人気の就職先になったし、飛び道具で狙い撃てる人物も相当限られていた。ライフル銃を採用した中島家でさえ、火薬の不足で射撃訓練は多くなく、命中率はそんなに良くはなかった。


 「それから以前から建設を進めていた統合士官学校がブレストで完成した。4月1日付で士官教育を始める。下士官学校も海軍部門が同じくブレストで完成し、統合士官学校と同時に教育を始める。陸軍の下士官学校はマリブール近郊に建設中だ。しかし指揮官に基礎部分は陸軍と海軍両方の教育を施すなんて、発想自体がなかったな。これなら陸海軍共同作戦も円滑になるだろう。隼人の言うように、陸海軍で仲が悪くなって揉める事もなくなりそうだ」


 統合士官学校は帝国歴1793年12月から準備を進めてきたが、ようやく開設にこぎつけた。同時にこの統合士官学校の入学日が4月1日になったことで、中島家の勢力が増すごとに教育機関の入学日が4月1日に統一されていく事になる。


 「後は新装備の配備が終わればマリブールとナルヴェクで募兵だな。海軍は第1から第4戦隊までの各4隻のフリゲートの配備が終わった。第1、第2戦隊はブレスト、第3、第4戦隊はナルヴェクを母港としている。これらも、陸軍分の充足が終わればライフル銃とライフル砲に装備を更新していく。それから旧式フリゲートの砲を減らして快速に改装した連絡船を6隻保有している。他は武装商船の交易船が、万一の場合徴用できる。軍備関連はそんなところだ」


 そう言ってエーリカは着席する。


 「ありがとう、エーリカ。では次に諜報、防諜関係の報告を、梅子、頼む」


 「ああ。まずは諜報体制だが、敷島の人間は教官にしか使えないから、いまだ中島商会の伝手で何とかしている。防諜体制は逆に敷島の忍びが活躍している。間諜の摘発が格段に増えた。これに伴い、防諜面での安全圏も広がりつつある。また、防諜組織として4月1日からマリブール特別警備局が発足する予定で準備している。同時に諜報機関としてマリブール情報局も発足させる。ただ、こちらは人員不足で小規模にならざるを得ない。

 それから諜報の報告だが、国外ではいまだ静かだ。ノルトラント帝国はタイハン国の勢力と相対する事で手一杯、タラント王国はガリア王国との戦争の傷が癒えていない状態でコンキエスタ教皇領の聖戦に貴族がとられて復興はまだまだといったところだ。ただ、徐々に力を付けつつあるから、2、3年後くらいには戦争をする余裕が生まれるだろう。そして件のコンキエスタ教皇領はバクー王国との聖戦をいまだに続けている。アーリア王国は南進論、北進論、東進論、西進論で分裂して政治面で動きがとれない状態だ。

 ただし、アーリア王国の事は我々も笑えない。ガリア王国も急成長した新貴族派と、旧貴族派の対立が激しい。対外遠征をしている余裕はなさそうだ」


 「そうか……。今は内政に注力したいからありがたくはあるな。セレーヌ、その辺りについて何か聞いていないか?」


 「そうですわね……、ブリュネ元帥が両派閥の仲裁に奔走しているらしいですわ。その他はモラン伯爵がマリブールを狙って工作しているようですが、アンリ王と近衛騎士団が潰して回っていますわね。まあ私は近衛兵に聞くくらいしか伝手がありませんからこの程度の情報しかありませんわ」


 「いや、十分だよ。しかし何だな、内戦の臭いがするぞ」


 「それは否定できないところだ。現にガリア王国各地で貴族同士の領地争いが勃発している。うちもマリブールこそ静かだが、ナルヴェク周辺には多くの子爵が封じられているから、アルフレッドも仲裁に苦労しているはずだ」


 梅子の言葉に隼人は、アルフレッドに重荷を任せすぎたかと後悔する。


 「それじゃあナルヴェク行の準備を急がせないといけないな。次の報告は内政関連だな。まずはエレナ、農業関連を頼む」


 「はい。実験農場での試験の結果、輪栽式農業が優れており、マリブールの土壌に合う事が判明したので周辺の農村に広めています。ナルヴェクの方はまだ実験農場で実験中ですが、ナルヴェク周辺は山地なので、従来通り畜産、林業、漁業に注力した方がいいでしょうね。それから敷島の方を集めた実験農場ですが、マリブールの南に適地を見つけたので開拓を始めています。ただ、収穫までには3、4年かかりそうだとのことです。

 農作物や畜産物の品種改良については徐々に成果が出つつありますが、今は実験農場で数を増やしている途中なので、これらを配るのも来年以降になりそうです」


 「ありがとう、エレナ。次はアントニオ、産業について頼む」


 「わかりました。まず製鉄ですが、現在高炉と転炉の実用炉が建設中です。ライフル銃とライフル砲の増産が必要なため、武器工房も増築を始めています。造船部門は小型の船台を増設中で、完成次第曳船の建造を開始する予定です。フリゲートの数は充足したので、大型船台ではほとんど交易船を建造しております。蒸気機関も改良中でありますが、新たな推進方式としてスクリューを研究中です。完成次第曳船で外輪式と比較する予定です。それから電気と電気による通信を研究中です。電線自体は完成しているので、実験目的で村々までつなぐ予定です。織物工場も利益は順調で、規模も拡大しつつあります。

 化学部門では、設備が大きな壁となっているので、新型の火薬の開発に軸足を移しています。しばらくすれば吉報を報告できるでしょう。

 鋼鉄も様々な金属と合金にする研究が進んでいます。先ほどエーリカさんが見せた胸甲も鋼鉄と銅の合金です。通常の鋼鉄よりも粘り強くなっております。また、その過程でニッケルとクロム、モリブデンにマンガンも発見しました。現在採掘と合金の研究を進めております」


 「ありがとう、アントニオ。パウル、宣伝の調子はどうだ?」


 「もう順調も順調です。各都市に吟遊詩人を派遣して情報収集がてらに隼人閣下の功績を喧伝しております。マリブールの事も王道楽土として宣伝しております。おかげで立身出世を目指す者達がマリブールに集まり、同時に新貴族派の支持も向上しております。今や庶民や一部新貴族にとっては隼人閣下が新貴族派の第一人者です」


 「……それで新貴族派からの書状が多いわけか。まあこればかりは役得の代償だな。孤立するよりはるかにマシだ。それじゃあセオドア、財政の報告を頼む」


 「財政は税収と支出だけを見たら赤字です。幸い、海上交易はほぼ独占状態なので、各種製品の販売と合わせて大幅に黒字になっています。ただ、商売は水物なので油断しないようにお願いします。それと、金になる新産業の設立も考えておいてください」


 「うーん。わかった。何か考えておくよ。最後にマチルダ、マリブールについて概要を頼む」


 「わかった。マリブールには多くの流民が押し寄せている。知識人が多い事が救いだがな。彼らのための住居の建設と城壁の拡張をしているが、建設が間に合わずに少数だが野外での野宿を強いられている者がいる。幸い、職だけはあるので治安は悪化していないな。ただ、軍への志願者が多いので、できるだけ早く募兵を再開してくれるとありがたい。今は警備隊で吸収しているが、その内不満がでるぞ」


 「そっちも問題だな……。エーリカ、どうにか募兵の再開はできないか?」


 「装備の問題だけだからなぁ。まあ槍兵や軽騎兵なら先に雇ってもいいだろう」


 「よし、それで頼む。他に意見がある者はいないか?」


 そこへエーリカが発言する。


 「マチルダ、エレナ、人口が急激に増えているそうだが、食糧の備蓄は十分なのか?」


 「十分とは言えないな。農村を積極的に開拓しているが、時間がかかる。カーディフやロリアンから食料を輸入してようやく備蓄が3カ月分ほどあるくらいだ。軍を動かすなら、積極的に現地で購入してもらうしかないな」


 マチルダが苦い顔で答える。そこにエーリカが難しい顔で質問を重ねる。


 「備蓄を増やす事は出来ないのか?」


 「交易船が増えれば輸入量は増やせるな。あとは農村の開拓待ちだ。短期間では厳しいと言わざるを得ない」


 「そうか……。いつ何があるか分からん世の中だ。出来る限り早く備蓄を増やしてくれ」


 「ああ、最善を尽くそう」


 エーリカはマチルダのその言葉を聞けて安心する。彼女達も彼女達なりに絆があるのだ。


 「そう言えばアントニオさん、曳船でマリブールとケルンを結べませんか?」


 今度はセオドアがアントニオに尋ねる。


 「うーん。まだ難しいですね。蒸気機関の馬力も、信頼性もまだまだです。将来は曳船で河川交通をするとしても、今はまだ無理です。申し訳ないですが、もうしばらくは小型帆船でお願いします」


 「うーん。そうですか……、残念です」


 セオドアは肩を落とすが、それほど切羽詰まった案件でもないので苦笑で済ませている。


 この他にこれといった議案もなかったので、これで開発会議が終了した。




 3月6日朝、隼人達一行はマリブールを発ち、ブレストでフリゲートに乗り、ナルヴェクに向かう。実に1年と4カ月ぶりとなる。よくぞ今まで問題を起こさずに統治してくれたものだ。アルフレッドには新たな勲章が必要だろう。無論、独断で権限を超越した事も叱責しなければならないが。


 連絡用フリゲートはナルヴェクに運ぶ新式武器を満載してブレストを出航する。隼人達はナルヴェクでめでたい話を聞く事になる。

 次回こそナルヴェクに到着します。ただし、ケルンまでは行けませんでした。内政チートはしばらくお休みになります。

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