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第85話 変革と忘れられた結婚記念日

 前話と続き2話連続投稿です。物語の時間軸の都合で字数が普段の半分ほどになってしまったので、連続投稿とさせていただきました。第84話をお読みでない方は先にそちらをお読みいただければ幸いです。

 帝国歴1794年3月20日、今日も仕事を終え、家族(+セレーヌ)との夕食の席に着いた。




 この日まで隼人はなかなか忙しく働いた。2月下旬には『マリブール』と『レ・ソル』、及び鹵獲船の王国海軍への引き渡しが完了した。ハルク船の『レ・ソル』はともかく、フリゲートの『マリブール』は王国海軍の興味を大いに引いたようだ。

 しかし高速で大型であるという以外の革新性は理解できなかったようで、早速フリゲートには存在しない船首楼と船尾楼の増築に取り掛かっている。この重量の増加で高速性が失われるだろうが、それを指摘する関係者は少なかった。

 結局、王国海軍は船の大型化だけに踏み切ったらしく、新造船のほとんどはガレアスになるようだ。


 さらに同じ2月にはマリブールで麻から糸、布まで一貫生産する紡織工場が稼働し始めた。しかし麻は以前から各地から買い集めていたが、工場の予想以上の生産効率に早くも麻の在庫の底が見え始めている。このため麻価格の高騰と麻布価格の暴落を防ぐために工場稼働率を落としている。アントニオとバートラムはこの間に工場のさらなる改良を企てているようだ。初めての工場なので、機械そのものだけでなく、機械の配置や運用方法まで改良する気のようだ。ついでに言えばエレナの指導で領内各地の農村で麻の増産が始まっている。


 スカンジナビア海の海上交通は海賊がほぼ一掃されたことで独航船でもかなり安全に航行できるようになった。そのためマリブールへはナルヴェク産の鉄鉱石が続々と運び込まれており、マリブールでは反射炉と高炉の増設が行われている。もちろん奴隷を酷使してだ。

 製鉄で必要になるもう一つの原料である石炭に関しては、ロリアンでの新年会で、ブリタニア地方北部沿岸のカーディフの領主に頼み込み、少々割高だが輸出してもらえるように取り計らってもらっている。


 ブレストの造船業も活況で、中島海軍向けのフリゲートや中島商会向けのガレオンが続々と建造されている。ナルヴェクでもハルク船の商船を次々と建造しており、他の商会に販売している。

 もちろんそれだけで新たな海運業界の需要を満たせるはずもなく、造船所を持つ領地は商船をどんどん建造している。おかげで木材を輸出するローネイン伯爵のルーレオーはちょっとしたバブル経済に陥っている。

 また、マリブールとナルヴェクだけでなく、造船所の適地がある領地ではどんどん造船所の増築、新設が始まっている。マリブールとナルヴェク以外で建設中の造船所はどこも小規模ではあるが、船余りが予想よりも早く来そうで、隼人とセオドアが地味に頭を抱えていたりする。

 ちなみに船舶用蒸気機関の製造が成功したので、300トンクラスの木造外輪船の建造も3月から始まった。しかし実験船であるため船内容積のほとんどを蒸気機関が占める予定で、燃料の石炭はあまり積み込めない予定だ。各種試験が終われば解体か、曳船タグボートとして働く事になるだろう。


 3月12日には梅子の誕生日会が開かれた。隼人はその日、仕事をできるだけ早く終わらせ、ネットを閲覧しながらカステラを作った。途中でそれを嗅ぎつけたエレナも調理に加わり、何とかカステラらしきものが出来上がった。ちなみに失敗作はエレナが全部持っていき、アントニオとともに故郷の味を楽しんだ。

 肝心の梅子の反応はすこぶる良く、梅子の好物の1つに加わり、その翌日には隼人とエレナで梅子にカステラの作り方を教える事になった。


 さらには15日、エーリカの懐妊が発覚した。本人はもう少し隠しておきたかったようだが、桜の目はごまかせなかったらしい。現在妊娠3~4カ月といったところのようだ。桜の診察が終わると真っ先に隼人の下を訪ね、「俺と隼人の子だからさぞかし強い子が生まれるだろうな」と照れながら言っていた。




 このようにロリアンから帰還して2カ月ほど、色々な事があったわけだが、今日20日の夕食は普段よりも豪勢だった。隼人は「何かあったかな?」と記憶を探るが心当たりがない。だが食卓に居並ぶ妻達はみんなニコニコしている。隼人が何とも言えない顔で席に着くと、桜が隼人に問いかけた。


 「隼人さん、今日は何の日か分かりますか?」


 その声は実に上機嫌だ。隼人は背中に冷や汗をかきながら記憶の発掘を試みる。


 「え、えーと……。義人の誕生日は来月だから……、行商を始めた日……でもないよな……」


 この隼人の答えに妻達の冷たい視線が隼人に突き刺さる。


 「隼人、本気で言っているのか?」


 マチルダがジト目で追及する。


 「えっと、すまん。思い出せん……」


 隼人は頭を下げて謝罪する。妻達の冷たい視線がつらい。


 「ふーん。お兄ちゃん、あたし達の結婚記念日、覚えてないんだ」


 カチューシャが不機嫌な声を隼人に投げかける。これで隼人は急激に思い出す。去年は政治パーティーの口実に使い、今年は妊婦が多いので身内だけの祝いとする事に決めた事を。


 「あ、あああ。すまん。今日は大事な結婚記念日だ!みんなごめん!」


 謝罪したところで後の祭り。妻達からあきれのため息が出る。


 「隼人殿。忙しかった事は確かに拙者も把握している。だからと言って、よりにも結婚記念日を忘れるとはどういうことだ」


 梅子が怒気を発しながら叱責する。


 「兄さん。いつもはこんなに私達を愛してくれるのに、これはあんまりです」


 ナターシャが悲しそうに言う。


 「だいたい、「妊娠中の者が多いから、今年の記念日は身内だけで祝おう」と言い出したのは隼人だろうに」


 マチルダはあきれ顔だ。


 「あんな幸せな日の記念日を忘れるなんて、酷いですよ」


 カテリーナも悲しそうな顔をする。


 「今年は無理だが、来年忘れてたら折檻な」


 エーリカが鬼のような顔で通告する。


 「すみませんでした!」


 隼人は身をひるがえして土下座する。


 「はぁ。まあいいです。今日はお祝いの日なのでここまでにしておきましょう。でも、次はないですよ」


 桜の言葉で追及が終わる。再び隼人が席に着いたところで桜が音頭をとり、2年目の結婚記念日パーティーが始まる。料理自体は桜が気合を入れて作ったため、とても美味しかったのだが、隼人は後ろめたさのせいでいまいち味わえないのであった。

 次回はベビーラッシュの予定。名前かんがえなきゃ……。

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