第81話 隼人とエーリカの誕生日
1カ月近くお待たせして申し訳ありません。パラドゲーのステラリス中毒に罹患したり、うつが悪さをして気力がなくなったり、そもそも日常パートに苦手意識があったのでなかなか書けませんでした。今回は執筆のリハビリ程度の作品となりました。よろしければご覧ください。
誕生会では温かい料理が並ぶ。全て桜、ナターシャ、カチューシャが作ったものだ。公式の誕生日パーティーでは挨拶回りで忙しく、隼人も桜もエーリカもあまり食べていない。
そもそも料理が冷めている。梅子が保安上の理由から毒見を徹底しているためだ。梅子曰く、急成長し過ぎた隼人の命を狙う者がそれなりに存在し、その上誕生日パーティーで毒を仕込んで隼人の評判を落とそうとする者は数知れないそうだ。もちろん使用人の定期的な身体検査など、警備は最大限行っているが、それでも梅子としては不安を払拭できないらしい。
だが身内だけで完結している誕生会は別だ。料理は先の3人しか関わっていないから、毒を盛られる心配はない。材料も厳選しているので、梅子も安心している。
ちなみに、普段の身内の食事は桜を中心にナターシャ、カチューシャらが手伝って作っている。他の女性陣は仕事が忙しく、また料理経験も乏しい。隼人は男にしてはそこそこ作れるのだが、隼人は隼人で仕事が山積みなので手出しができない。その結果、普段は3人の温かい料理を食べている。冷めてしまった料理を食べるのは公的な場だけだ。
今日と明後日は隼人とエーリカの誕生日なので、高価な香辛料などもふんだんに使った味付けだ。肉や魚も普段より多い。普段は肉か魚のどちらかで、ブレストが近い事もあって魚の日が多いのだが、今日は特別だ。ちなみにエレナの実験農村から畜産物がそれなりに送られてくる事もあって、肉も他の領地よりも安価だったりする。
隼人の乾杯の音頭のあと、妻達が口々に祝いの言葉を口にする。その中になぜかセレーヌも混ぜられており、セレーヌはいささか居心地悪そうにしていた。
「ふう、ようやく落ち着いた感じだな。やっぱり身内に祝ってもらえる事が一番うれしいよ」
白ワインを一口飲んで隼人は幸せそうな顔をする。
「今年は忙しかったですものね。こうやってみんな揃って誕生会をするのも去年以来でしたっけ。来年は平穏だと良いですね」
桜が張り切っていたのはみんな揃っての誕生会が久しぶりだった事も理由の一つのようだ。
「ガリア王国も、周辺国も連戦で疲弊している。アーリア王国さえ動かなければ戦で動き回る事もないだろうな」
マチルダが楽観的な予測をする。
「という事は来年は戦なしか……。アーリア王国はどうせ動かないだろうからな。まあ内も外征する余裕がないから好都合か」
エーリカが少し残念そうに、しかしどこか期待するような声でマチルダの予想を評する。その声音に隼人は少し疑問を持ったが、ナターシャにワインをつがれた事でその疑問をぶつけるタイミングを逃す。
「なんにせよ、これで内政に注力できるな」
「軍備拡張も忘れるなよ」
内政屋のマチルダの嬉しそうな言葉にエーリカが釘をさす。
「来年は富国強兵の年か……。それはそれで忙しくなりそうだ」
隼人は腕が鳴るとばかりに気合を入れる。
「外交も忘れてはなりませんわよ。今でさえ妬みが多いのですから、パーティーも頻繁に開かなければなりませんわ。貴族の中で孤立したら梅子さんが苦労するのですから」
セレーヌは隼人の気合に激励を入れる。ちなみにセレーヌは居心地の悪さゆえか、だいぶん酒が進んでいる。ついでに言えば、この席で酒を飲んでいるのは隼人とセレーヌ、それに桜だけだ。他は皆妊婦だから控えているのだ。
「あたし達の子供の事もあるから、そこもお兄ちゃん、頼むわよ」
カチューシャも幸せそうに隼人の仕事を増やす。カチューシャ、ナターシャ、カテリーナは妊娠5、6カ月といったところで、幸せそうに大きくなった腹を撫でている。梅子とマチルダも6、7カ月といったところで、隼人は何かと気を遣う。それでもその妊婦達に大役を任せている事は、高級官吏の不足を物語るとともに、中、下級の官吏が徐々に充実してきている事を示している。もっとも、隼人と桜があちらこちらに手伝いに行かねばならないくらい忙しくはあるが。
「まあ、家庭の事は私達に任せてください、兄さん。私達は兄さんが気遣ってくれるというだけで幸せなんですから」
ナターシャが隼人の背中から隼人の頭を抱きしめる。張ってきた乳房が後頭部にあたり、隼人は赤面しつつも幸福感につつまれる。
「それにしても、浮気しない旦那ってのはすごく安心できますよ。本音を言えば隼人さんを独占したいですけど、妊娠中も身持ちが固い夫は心強さが違いますね」
カテリーナが嬉しそうに言う。隼人としては7人と重婚しているのだから、浮気も何もあったものではないのだが。隼人は、時代の要請による重婚の容認に、未だ後ろめたさを感じているのである。
「拙者も色々と見てきたが、こんなに安心できる貴族の家庭など、ほとんど聞いたことがない。もちろん警備上とてもありがたいし、それに何より女として幸福だ」
梅子が素面で恥ずかしい事を言ってくる。隼人は顔をさらに赤らめるが、梅子は心の底からそう思っているからか、幸せそうな顔のままである。このあたり、未だ新婚気分でのん気な隼人と、母になろうとしている女の違いであろう。
「……こんなにいい妻達をもって、浮気なんてできないよ」
隼人は恥ずかしそうに言う。隼人の心からの言葉に妻達は満足そうな顔をする。
一方でセレーヌは元から狭かった肩身がさらに狭くなる。途中で抜けようかと思うが、その心を見透かしたようにセレーヌも上手くこの場に巻き込まれ、逃がしてはもらえないのだった。
9日の休みを挟んで10日はエーリカの誕生日。この日も隼人の時と変わらぬ盛大な誕生パーティーが開かれた。ちなみにこの日はエーリカが主役なので、隼人はバイエルライン・フォン・隼人として、つまりはエーリカの伴侶という立場で盛り立てる事になる。名目では隼人はガリア王国とアーリア王国に両属しているからだ。もっとも、アーリア王国側への賦役はケルン単独でこなしているので、事実上隼人がガリア王国にのみ属していると見られている。
ちなみにパーティーの参加者は、アーリア王国側の視察団が増えた程度で、メンツはほとんど変わらない。目先の効く者は8日以前にマリブールに到着し、隼人の誕生パーティーから参加している。
この日のパーティーも挨拶回りに忙しく、食べる暇もなく終わった。新貴族や商人を中心にいくらか顔を覚えられたから成果はあったと言えよう。
至福の身内のみの誕生会を終えた深夜。隼人の部屋の扉を叩く者があった。
「入っていいぞ」
隼人は気配で察していたため、快く迎え入れる。
案の定、扉を開いたのはエーリカであった。暖房を焚いているとはいえ、12月の冬にバスローブ姿だ。マリブールの冬は、温暖な海流のおかげで、同じ緯度の場所よりも温かいが、それでも雪は降り積もる。
「エーリカ、その恰好は寒くはないか?」
隼人は苦笑する。
「……ああ、寒い。だから隼人、暖めてくれ」
エーリカは真っ赤な顔で隼人に抱き着く。しなやかでかつ柔らかな感触が伝わる。エーリカは下着すら着けていない、本当にバスローブ1枚のようだ。エーリカは普段から夜も大胆だが、今夜は度を越している。
「エーリカ?どうしたんだ、今日は?」
隼人はエーリカを抱き返しながら問う。
「……俺も、隼人の子供が欲しい」
エーリカは小さな声で、しかしはっきりと言う。
「エーリカ……」
「今じゃないと、子供を作る機会がないと思うんだ。隼人も俺も武人だ。武人は戦に出てこそ本懐だ。……だから戦のない今のうちに隼人の子供が欲しいんだ。子を持つ事も女としての本懐。だから俺にも子供をくれ」
エーリカが普段見せない女っぽい仕草を見て、隼人はエーリカの唇を貪り、ベッドに押し倒した。