表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/135

第75話 ルーレオー会議

 申し訳ございません。今回は物語の区切りの問題と、筆者不調のため、短いです。来週は戦闘シーンを予定しておりますので、来週にご期待ください。来週は頑張ります。

 ルーレオー城が陥落すると、隼人はすぐに部隊をまとめて港へと戻った。海賊の財宝に多少興味があったものの、隼人はすでにナルヴェクという海賊の至宝を得ている。ここは隼人がでしゃばるべきではない。


 港に戻ると、隼人は蒸留酒、ワイン、タバコ、甘味などの嗜好品の特別配給と新鮮な肉、魚、野菜を使った夕食を宣言する。これには略奪に参加できなかった兵達も大喜びだ。しかし隼人が続けた言葉に一気に意気消沈する。夜間外出禁止令と単独行動禁止令を正式に通告したからだ。

 さすがに揺れる艦の中で眠らせる事はかわいそうだったので、厳重に警備された倉庫で雑魚寝することを希望者には許可することとした。


 しかし戦勝の勢いで規律違反をする者はいくらか出る。彼らの幾人かは酷い目に遭う事になる。


 ルーレオーが陥落した夜は戦勝の高揚した気分であふれていた。ルーレオー攻略部隊の将兵は酒場へ、娼館へ、賭場へと足を向ける。彼らはルーレオー市民が敵対的であることをすっかり忘れていた。


 翌朝、その結果が文字通り白日にさらされた。酒場では酒に毒を盛られ、兵達が苦し気に倒れていた。娼館では女を買った兵が娼婦に刺殺されていた。賭場に出向いた者は身ぐるみを剥がされ、裏路地に吊るされていた。夜間外出禁止令を出していた隼人隊からも幾人か犠牲者がでた。治安は最悪の状態だった。それを象徴するものが2人の男爵とその供回りの変死体だった。

 この結果を見て隼人隊は戦慄した。隼人が手を打たなければ自分が被害者だったかもしれないのだ。ガリア王国軍は戦勝にもかかわらず、そこに喜びはなく、あるのは怒りと恐怖だった。ローネイン伯爵はすぐに治安維持と宣撫活動に手を打たねばならなかった。




 隼人はその日の昼、ローネイン伯爵に呼び出された。


 「中島子爵、入ります」


 ローネイン伯爵は陣を、まだ血なまぐさい戦闘の跡が残るルーレオー城に移していた。最低限、遺体くらいは片付けられているが、まだ壁や床のあちこちが血に汚れている。その中では比較的きれいにされている執務室に入室した。そこでローネイン伯爵はどこか無理をしたように感じる笑みを浮かべて隼人を歓迎した。


 「おお、中島子爵。よく来てくれた。すこしお主の意見を聞きたい事があってな。お主はナルヴェクを上手く治めていると聞く。そこでスカンジナビア地方の統治について意見を聞きたいのだ」


 隼人はやはりか、と思った。これ以外に急に呼び出される理由が見つからなかった。隼人は苦虫をダース単位で噛み潰したような表情で答える。


 「……閣下、残念ですが、ルーレオーはスカンジナビア地方でもかなり特殊な部類に入ると思います。ルーレオーは昔からノルトラント帝国から何度も攻撃を受けており、そして今度はガリア王国の攻撃を受けました。周辺の村々は攻撃を受けるたびに何度も略奪を受けていたようです。住民の敵対的意志は他のどの都市よりも強いでしょう。それはこのルーレオー城の戦いでも表れています。

 そして私が落としたナルヴェクは反対の意味で特殊です。最初は住民は我々を不安視していましたが、ナルヴェクの旧領主の協力を得られたことで信頼を得る事ができました。私のナルヴェクの事例は非常に幸運であると言えるでしょう。

 しかしルーレオーの住民は強い敵対心を持っています。しばらくは抵抗運動が続くと考えていいでしょう。これはもう地道に宣撫活動と、早急かつ精確な捜査の上で敵対行動をとった住民を処罰するしかないでしょう。地道な飴と鞭の政策が一番だと思います。大変な苦労があると思いますが……」


 「それしかないか……」


 隼人の答えにローネイン伯爵は落胆を隠せなかった。隼人もその様子を見て心から気の毒に思う。


 「……あとは応急処置として夜間外出禁止令と将兵の単独行動の禁止を命じるべきだと思います。民心の掌握も急務ですが、治安の悪化が酷すぎます。他は各地から物資を輸入して民を豊かにし、徐々に民心を掌握していくことしか思いつきません。申し訳ありません」


 「いや、参考になったよ。ありがとう、中島子爵。お主の海軍はスカンジナビア地方制圧の鍵を握る。ルーレオーの街の事は我々に任せて十分英気を養ってくれ。退出してよろしい」


 ローネイン伯爵はまたしても無理をした笑顔で隼人に感謝の言葉を述べた。隼人はその笑顔が心苦しかった。マリブールからできるだけ援助物資をルーレオーに送る事を心に決める。


 こうしてスカンジナビア地方攻略部隊は厳戒態勢のまま後詰めを待つことになった。




 それから1週間して帝国歴1793年10月15日、ビーグリー伯爵とサムエル伯爵の後詰め部隊がルーレオーに到着した。ローネイン伯爵、ビーグリー伯爵、サムエル伯爵がそれぞれの幕僚を引き連れてルーレオーの会議室に集まった。隼人も海軍担当としてエーリカ、アルフレッドとともにその末席に座った。


 会議は早速紛糾した。ビーグリー伯爵はルーレオーを北上して、スカンジナビア地方西岸トロムセーの都市を攻撃する事を主張した。

 一方、サムエル伯爵は隼人の海軍とともに南下して、ルーレオーとナルヴェクの中間にあるウーメオーの都市を攻撃し、南回りにスカンジナビア地方を攻略する事を主張した。

 ルーレオーに残留し、ルーレオーの統治と両伯爵の支援にあたると早々に決めたローネイン伯爵が仲裁を試みるが、2人の口論は止まらない。隼人は海軍担当なのでビーグリー伯爵から流れ弾を受けるばかりで、とても口論に割って入る事ができない。


 「ウーメオーは都市とは言え、小さなものだ!中島子爵にでも任せておけばよい!我々はより大きな果実を、トロムセーを獲得するべきだ!」


 「無茶を言うな!山越えの街道になるぞ!海軍の支援も受けられん!海軍無しでのルーレオーの苦戦は知っているだろう!南回りが最も確実だ!」


 「陛下はスカンジナビア地方の海峡の都市、ベルゲンを狙っておられる!南回りなど無駄骨になりかねん!ここは動揺している海賊を一挙に掃討すべく、北回りで行くべきだ!」


 ビーグリー伯爵とサムエル伯爵の口論は止まらない。夕刻になっても議論は平行線のままだ。いつしか会議室に夕食が運び込まれ、夕食を食べながら口論が続いた。


 そして日が没してしばらくたってから、ローネイン伯爵が最後の手段に出た。


 「ルーレオーは私が預かるとして、軍を2つに分けて両方を攻略するしかないか……」


 この言葉に、口論にうんざりしていたエーリカが反応する。


 「ちょっと待て、軍を分けるには数が少ない。両方で苦戦する事になりかねないぞ」


 エーリカは軍事面に関しては鋭い。と言うよりも、軍事面以外で口を挟むことはあまりない。この会議では無言を貫いていたエーリカも、反応せざるを得なかったようだ。一方で隼人はローネイン伯爵の案でないとまとまらないだろうと諦めていた。だがしょせん子爵であるので聞かれる事に答える以上の事をしていなかった。だからエーリカに小声で黙っているように言った。隼人はナルヴェクを落とした以上、功を焦る必要もなかったのだ。義理立てしての参陣であるので損害を極限し、楽をする事しか考えていない。

 ともあれ、ローネイン伯爵の言葉とエーリカの言葉の後は会議室は沈黙につつまれた。軍事的不利と政治的妥協を天秤にかけているのだ。


 そして天秤は政治的妥協に傾いた。


 「……仕方ない、軍を分けよう。俺は北へ行く」


 「私は南だな」


 誰もが諦めてこの結論を受け入れる中、エーリカだけが不機嫌な顔をしていた。




 港への帰り道、エーリカがこの決定を嘆き、隼人に絡んでいた。


 「3000と3000に分けるなど、あまりにも無茶だ。あれでは苦戦はまぬがれん。兵達が可哀想だ」


 「それは同感だが、あそこまで両伯爵の隔たりが大きければ、どちらに決めてもどうせ指揮権の統一すらできまい。あの2人が派遣された時点でこうなる事が決まっていたんだ。諦めてくれ」


 「そうは言っても、上の仲たがいで苦戦するなど、兵にとってはたまらんぞ」


 その後も1日隼人はエーリカの未練を聞き続けるのだった。




 会議から2日後、両伯爵の軍と隼人の艦隊が出陣した。中島艦隊の任務は地上部隊に先立ってウーメオーの海賊船団を撃滅し、港を封鎖する事だ。地上部隊到着後は共同して攻城戦に挑む。


 「抜錨!」


 隼人の号令で艦隊が動き出す。部隊はそれぞれの不安を抱えながら進軍を開始するのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ