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第71話 第2次ナルヴェク沖海戦

 活動報告のコメントに土日の夜に更新すると書いたな!あれは嘘だ!(日曜日深夜の更新作品数の多さにビビりながら)

 とりあえず更新作品が少なそうな時間や読者の皆さんが気づきやすそうな時間帯を狙って更新しようと思います。

 海賊船団発見の報を受けた隼人はすぐさま幹部を招集し、第1戦隊及び第2戦隊に出港準備と合戦準備を下令する。同時に全ての監視所と砦にも警報を発する。


 対策を打っている間にも次々と続報が入る。


 「海賊船団は南より接近中!」


 「海賊船団は小型船を中心に45隻前後!」


 「スカンジナビア地方南部の海賊団が徒党を組んで火事場泥棒に来たわけか」


 続報に忌々し気にアルフレッドが呟く。


 「スカンジナビア地方で最も豊かで最強の海賊団が倒されたんですもの。勝者も相当の痛手を受けていると考えて略奪に来たとしても不思議ではないでしょうね。もっとも、勝った後の事まで考えているかまでは疑問ですけどね。まあ、北部の海賊団がガリア王国軍の攻撃に対する防備で忙しいらしいのはありがたい事ですわね」


 セレーヌが淡々と事実を述べる。ナルヴェク海賊団が壊滅し、他の海賊団も群雄割拠状態とはいえ、スカンジナビア地方にはいまだ合計で90隻以上の海賊船が存在すると推定されている。それもスカンジナビア地方東岸だけでだ。北部の海賊団も徒党を組んで火事場泥棒に来たら厳しい戦いになる事は間違いなかった。


 「だが南部の連中が攻めてきたのは好都合でもある。こちらは人員に多少の損害は出ているが、船は無事だ。陸軍からいくらか海兵隊に人を割けば戦力は十全だ。ここで敵を撲滅できれば我々は背後を気にせずに北部の海賊討伐が可能となる。まさに飛んで火にいる夏の虫だな」


 エーリカは上機嫌で好材料を並べる。実際のところ、ナルヴェクの防衛と北部海賊団の討伐支援の両立をどうするかで頭を痛めていたのだ。南部の海賊団を再起不能に追い込めばこの問題は解決する。


 「今回の戦いでも、いい詩とポスターを作りますよー」


 先のナルヴェク海賊団との戦いでは若干腰が引けていたというパウルも今回はやる気十分だ。

 ちなみにポスターは木版画だ。活版印刷もアントニオに依頼して開発させているが、現在のところ優先順位は低い。しばらくは木版画のポスターが幅を利かす事になるだろう。

 さらに言えば、パウルは我々とナルヴェク海賊団との和解と協力を隼人の指示で画策しており、すでにナルヴェクの街中には中島隼人とマンネルヘイム・シーラが握手するポスターなどが貼られている。




 各自が武具を整え、出航に向けて指示を出していると、警備兵が執務室の扉を叩いた。


 「マンネルヘイム・シーラ様が閣下と面会を希望しております」


 「???まあいい。連れてこい」


 隼人はこの忙しい時に何だろうかと思いつつも面会を許可した。




 しばらくしてシーラが入室する。完全武装の戦装束だ。ちなみに、一般的に貴族や騎士は捕虜となっても帯剣は許される。帯剣は貴族や騎士の名誉であるからだ。正当な理由なく剣を没収することは、特に貴族にとって最大級の侮辱となる。隼人はシーラを貴族扱いで捕らえているので、シーラは帯剣を許されているわけだ。


 「こちらも忙しいのは見ての通りだ。早速要件を述べてもらおう」


 隼人はシーラが入室するなり要件を急かす。


 「はい。俺も諸君らに同行させてほしいのだ」


 「??理由は?」


 「俺もナルヴェクを守る戦いに参加したいんです。それに、俺達ナルヴェク海賊団を破った連中がどんな連中か、もう一度この目で確かめたいんです」


 「ふむ、まあ、いいだろう。俺達とともに第1戦隊旗艦マリブールに乗艦することを許可する」


 「隼人!?シーラさんはついこの間まで敵でしたのよ!艦だって機密の塊でしょ!」


 セレーヌが驚いて苦情を言う。


 「いや、セレーヌ。マンネルヘイムさんは信頼できると思うんだ。そもそも、1人で艦に乗っても反乱なんてできんだろう」


 「俺も隼人の意見に同意だな。目を見ればこいつの性根がわかる」


 「俺も大将に賛成だな。俺達の戦いを見てくれれば俺たちの事も、これからの事もよく分かってくれるだろう」


 「……そこまで言うならわたくしもシーラさんを信頼しますわ」


 エーリカとアルフレッドも隼人に賛成したので、セレーヌも渋々反対意見を取り下げる。


 「ありがとうございます。俺もナルヴェクのために戦います」


 シーラが頭を下げる。


 ここで終わればいい話だったのだが、パウルが要らぬ事を言い出す。


 「あのー、それなら私も隼人閣下の旗艦に乗ってもいいでしょうか?」


 「?パウルは第2戦隊の副将だろう?」


 「せっかくのマンネルヘイムさんと隼人閣下の和解なのですから、いい詩とポスターができるのではないかな、と」


 「それはパウルの部下に任せればいいじゃないか」


 「それはそうなのですが……」


 ここでパウルの下心に気づいたアルフレッドが口を挟む。


 「パウル、いくらマンネルヘイムさんが美人だからって、あんまり調子に乗るなよ。俺も我慢しているんだからさ」


 「いや、そういうわけでは……。いえ、すみません。その通りです。レ・ソルに乗ります」


 パウルは言い逃れをしようとするが、エーリカに睨まれて引き下がる。


 「そう言うわけだ。シーラには悪い虫がつかないように俺が守ってやる」


 エーリカがそのボリュームのある胸を張って言う。


 「ふふ、中島殿も含めてですか?」


 シーラはおかしそうに笑って隼人を見やる。


 「もちろんだ」


 エーリカも即答する。


 「ま、待て。俺は既婚者だ!浮気はしないぞ!」


 隼人の微妙に信頼できない叫びが執務室に響いた。




 帝国歴1793年9月16日昼、ナルヴェクの港を出航した第1戦隊と第2戦隊は海賊船団と対峙していた。対峙していると言っても、隼人側は東南東に、南部海賊連合はゆっくりと北に進んでいる。


 「敵の動きが鈍いな……」


 「連中は所詮烏合の衆。指揮官すら決まっていないのでしょう。無傷の大型船8杯も見れば誰が先に攻撃するか、どのように戦うか、揉めているでしょうな」


 隼人の呟きにシーラが答える。シーラは若い頃から海賊の抗争に参加している。わずか30隻ほどで要衝、ナルヴェクを守ってきただけあって、この手の烏合の衆には詳しい。


 「なら、みすみす相手の行動が決まるのを待っている義理はないな。隼人、こちらから仕掛けよう」


 エーリカが隼人を急かす。この人は戦場に出るといつも以上に元気で、美しい。


 「ああ。艦長、新進路165、砲撃目標は2段櫂船。発砲は俺の指示を待て」


 「了解。新進路165、砲撃目標は2段櫂船」


 隼人はこちらから打って出る事を決心し、艦長に南南東に進路をとるように伝え、艦長が各部署に下達する。マストに信号旗が上がり、艦隊各艦が逐次回頭していく。


 回頭が終わり、艦隊は急速に敵に接近していく。敵海賊船団には動きがほとんど見られない。ただただ手旗信号の応酬が続いているのみで、船団全体の意思決定は未だにできていないようだった。こちらの動きを見て正面を向こうと回頭する船や、船足を遅めて船団の後ろに下がろうとする船、何も動かずただ北上する船。いずれも戦闘態勢をとっているが、戦意は低いように見て取れた。


 「目標、2時方向の2段櫂船!」


 艦長が伝声管で指示を伝達する。隼人も敵の距離と方位を計り戦端を開く時期を計る。


 やがて敵の最右翼の2段櫂船がマリブールの3時方向に迫る。だが距離は400よりも少しばかり遠いか?構うものか。理論上は射程圏内だ。


 「撃ち方始め!」


 隼人は指示を出す。艦長も復唱し、砲術長に伝える。


 「目標、距離480!……テッー!」


 マリブールが発砲すると後続の各艦も砲撃を開始する。艦隊各艦が爆炎に包まれる。

 果たしてマリブールの放った砲弾は全て遠弾となり、敵船の帆を切り裂いた。


 「距離修正、450!装填急げ!」

 砲術長が伝声管に怒鳴る。


 「……ほう、指揮所で発砲を統括することで砲弾を集中させ、射距離も統一しているわけか。道理で遠距離から発砲できるはずだ。……それに砲弾がどこに落ちたかもわかりやすいな」


 シーラが感心したように言う。


 「その通りだ。すぐに気づくとはさすがだな。その若さでナルヴェクを治めていただけはある」


 隼人もシーラの聡明さに舌を巻く。さすがに1射目で見抜くとは思わなかった。


 「第2射、テッー!」


 その間に装填が終わったようで、砲術長が伝声管に発砲を命じる。

 今度は命中。目標の2段櫂船の前部を粉砕した。艦長はこれを見て、目標の戦闘力の過半を奪ったと見て目標の変更を命じる。その間、隼人は第1戦隊の変針の時機を計る。


 そうしているとマストの見張り員が叫ぶ。


 「レ・ソルより信号!ワレ、突撃ノ許可ヲ求ム。アルフレッド」


 「アルフレッドもなかなかやるな」


 エーリカが獰猛な笑みを浮かべる。どうやら自分も突撃したいらしい。


 「まあ、相手はすでに混乱しているようだからな。今が攻め時だろう。信号員!レ・ソルに返信!突撃を許可する!」


 信号がレ・ソルに伝わると第2戦隊は舳先を南に向け、猛然と突撃を開始した。


 「さて、我々も始めようか。各艦!一斉回頭!新進路090!最大戦速!突撃!以後、各艦は自由に戦闘せよ!」


 第1戦隊は一斉回頭で単縦陣から単横陣に変わり、敵右翼へと突っ込んでいく。敵船団は遠距離からの砲撃と、それをなした不気味な大型船が迫る姿に恐慌状態に陥っていた。すでに戦意を喪失し、南に舵を切る船もいる。だが隼人はこの1戦で南部海賊連合を再起不能にしてしまうつもりだった。逃がすつもりはない。


 艦隊がぐんぐん近づいていくと、敵が一層狼狽する様が見て取れた。右往左往し、衝突しそうになる船までいる。

 その中でも勇敢にも接近してくる小型船もあったが、マスケットや艦砲で撃ちすくめられる。隼人は敵のガレー船の中でも比較的大型で、頭領が乗っていそうな船に接舷を命じる。目標のガレー船は避けようとするが、マリブールはガレー船の櫂をへし折りながら敵船後部に突入する。


 「海兵隊!俺に続け!」


 エーリカが白刃を振りかざして敵船に乗り込み、そこに海兵隊が続く。その中にはシーラの姿もあった。隼人は全体の統率のために残り、セレーヌも副将として隼人とともに旗艦に残る。

 マリブール艦上からはマスケット兵や弓兵が支援し、エーリカが敵船の船橋に突撃し、一番派手な衣装をしている人物を討ち取る。あれが南部海賊団の頭領の1人なのだろう。

 シーラの動きも鋭い。エーリカら先鋒の側面を脅かしそうな敵兵を次々と切り伏せていく。先の海戦ではアルフレッドに一撃で武器を取り落としていたそうだが、あの時のシーラは砲撃戦の時点で破片を浴びてかなり弱っていたようだ。医務斑の治癒魔法で快癒した今のシーラが本当の実力なのだろう。シーラの戦術眼もかなりのものだ。シーラの側面支援によりエーリカがいつもよりも深く敵に斬り込んでいる。


 その戦闘の様相を見ながらも周囲に対する警戒も怠らない。旗艦を救おうと数隻の小型船が勇敢にもマリブールに近づいてくる。マリブールの艦長は安易に艦砲の射界に入った敵船を吹き飛ばし、前方や後方から近づいてくる敵船にはマスケット兵や弓兵に対処させる。

 第1戦隊各艦も同様にめぼしいガレー船に接舷攻撃をかけている。第2戦隊も中央の敵船を蹴散らしては好目標に接舷している。比較的無事なのは東側、敵陣左翼のみだ。その左翼も情勢不利と見て逃走にかかっている。あるいは戦力を温存することでスカンジナビア地方南部の覇権を掌握する腹積もりかもしれなかった。いずれにせよ、ここで敵を逃す事は望ましくない。


 隼人がそのように戦闘を観察していると、エーリカ達が戻ってきた。敵船は無力化できたらしい。海兵隊の最後の1人が帰艦すると艦長はゆっくりとマリブールを後退させる。

 マリブールが離れるとガレー船には大穴が開く。もちろんマリブールの突入で開いていた穴だ。ガレー船は船尾から急速に沈んでいく。ガレー船の漕ぎ手が船から脱出していくが、沈没するガレー船とともに海中に引きずり込まれていく。ガレー船の漕ぎ手の多くは奴隷だが、残念な事に彼らを助ける時間がない。

 艦橋に戻るなりにエーリカが叫ぶ。


 「隼人!敵の左翼が脱出にかかっているぞ!早く追撃しないと手遅れになる!」


 「ああ、わかっている。艦長。ふねの進路を南へ。左翼の敵船団と並走しつつ砲撃戦で撲滅するぞ」


 「了解。帆を張れ!全速前進!取舵一杯!新進路175!」


 手早くマストに帆が張られ、マリブールは再び前に進み始める。他の各艦は未だ敵船と接舷している。捕虜や奴隷を確保しているのだろう。南に追撃するのはマリブールただ1隻だった。旗下の艦に追撃を命じても良かったのだが、中央から右翼の戦闘中の敵船の方が数が多く、そちらの撃滅の優先順位が高いと判断したため、隼人はあえて命じなかった。旗艦の砲術に自信を持っていた事と、第2戦隊は第1戦隊と比較して鈍足であることもこの決心を補強した。そのため信号旗はこのように上げる。


 「ワレ、敵逃走船ヲ追撃ス。各艦ハ各個ニ敵ヲ撃滅セヨ。以後ノ指揮権ハあるふれっどガ継承セヨ」




 マリブールの船足がつくまではそれなりに時間を要した。動力機関を積んでいるわけではないので当然操船も鈍重だ。しかし快速さを重視して作られたフリゲートなだけあって逃げ切られる前に追いつくことができた。逃走する敵船は中型のガレー船が2隻とその取り巻きの小型船。大砲なんていう代物は積んでいない。

 マリブールは300メートルまで接近してガレーに砲撃を開始する。1射目は遠弾、2射目は近弾、3射目でガレー船の船体に命中し、ズタズタにする。5斉射も加えると航走能力を失い、左舷に大きく傾き、沈没し始めた。

 もう1隻のガレー船には2射目で命中、6斉射で撃沈した。

 この光景を見た小型船は自らの頭領を乗せたガレー船を見捨てて全速で逃走を始めた。こうなるとさすがにフリゲートでも追いつけない。隼人は戦闘の終結と溺者救助を命じた。




 夕刻、マリブールが艦隊に復帰すると、艦隊はアルフレッドの指揮下、溺者救助と拿捕した船の曳航準備に追われていた。マリブールも早速その作業に加わる。辺りの海面には戦死者と船の破片がそこかしこに浮かんでいた。


 「これが……、我々を打ち破った力……」


 シーラの、誰に聞かれるでもない呟きが海に消えた。

 今回は敵が烏合の衆だったので戦闘に盛り上がりが欠けたような……。これからしばらくは海賊いじめなので戦闘に盛り上がりが欠けるかも……。拙作は戦闘描写を売りにしているつもりなので面白くなるように筆者の腕の見せ所となりますね。一層努力していきます。

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