第60話 海水浴
8月中旬、隼人達はブレスト近郊の浜辺に来ていた。すでに3段櫂船は1隻が完成し、沿岸要塞にも大砲が運び込まれており、沿岸防御能力は飛躍的に向上している。ちなみに大砲は全て軽砲で、前装式滑腔砲だ。後装式ライフル砲は開発に時間がかかりすぎる。今は奴隷達が沿岸砲台の基礎を建造し、船台を増設、拡張し、さらには3段櫂船の建造にこき使われている。
そんな状況を昨日の視察で確認した隼人達は、今日は休暇で浜辺に来ている。海水浴をするためだ。去年の夏は兵の訓練で忙しく、休暇がとれなかったので海水浴は2年ぶりだ。2年前と比べて人も増えているし、女性陣はまだ成長期だ。隼人はさっさと着替えて妻達の艶姿に期待している。
「いやー、海水浴なんて初めてですよ。楽しみですね」
隼人と同じくさっさと着替えていたパウルが隼人に声をかける。顔は海を向いているが、視線はチラチラと女性陣が着替える馬車に向いている。どうやら目的は隼人と同じであるようだ。その様子を見て、独占欲が隼人の感情を悪くさせる。妻達の水着姿は見たいが、他人には見せたくないというわがままな感情に隼人は自嘲する。
「……パウル、一応言っておくが、女性陣はほとんど人妻だぞ」
「わ、わかってますよ!私は美しいものを愛でるだけです」
隼人の身勝手な一言にパウルは言い訳をする。どちらも大人げない。
「どうしたんですか?2人とも」
セオドア、アントニオ、アルフレッドが飲み物などの用意の手を止めて隼人達の方へやって来る。
「アルフレッドさん、隼人閣下が海の花々を愛でるなと言うんですよ」
パウルが女性陣の馬車の方を指さして言う。
「……のぞきか?」
「いやいやいや、さすがにそんな度胸はありませんよ!」
「大将、ならいいじゃねえか。綺麗どころ侍らせといて独り占めはないぜ。減るもんでもないし。……それに、水着は夜にも使うんだろ?」
「……何のことやら」
アルフレッドの言葉に隼人だけでなくセオドアとアントニオも目を逸らす。
「本物の海に入るのは初めてだな。楽しみだ」
男性陣が微妙な空気でいるところへエーリカが姿を現し、視線が集中する。
エーリカは黒を基調とした競泳水着を着用いる。だが女性陣最大を誇る乳房を隠しきれておらず、谷間がよく見える。魅力的なのは胸だけではない。程よく鍛えられた脚線美の生足をさらしている。尻も大きく、弾力がありそうだ。腰もギリギリ太過ぎない程度にくびれている。隼人は知っている。その中には薄い脂肪に覆われた美しい筋肉があることを。
「……殴られたいのか?」
いやらしい視線が集中していることに気づいたエーリカが体を艶めかしく隠しながら威嚇する。言われた男性陣は慌てて目を逸らす。エーリカの目にはそれだけの威圧感があった。
その様子に満足したエーリカは隼人の下へやってきて肩を抱き寄せる。
「全く、我が夫ながら、助平な奴だ。毎日毎日女体を味わっているくせに。まあ俺は美女だから分からんでもないが」
そう言いながらエーリカはその肢体を隼人に押し付ける。実に柔らかく、弾力に富んでいる。やや筋肉質だが、柔らかすぎず、固すぎず、ちょうどよい。
「ちょ、ちょっとは人目を気にしてくれ!」
「ほほう、2人きりになりたいと。悪くないな」
隼人の悲鳴にエーリカは上機嫌に隼人の頬を指でぐりぐりする。
「……あなた達、何をしてますの?」
ふと声のした方を向くと、セレーヌがジト目で見ていた。貧乳ビキニだ。これはこれでいい。青い水着が健康的な若々しさを強調している。腰回りも女性らしくくびれている。未発達な果実という感じでとてもよろしい。
そんなことをつらつら考えていると頬をつねられた。
「未婚の女性をそんな目で見るな」
エーリカが不機嫌に言う。顔が近いのは嬉しいが、笑顔が怖い。エーリカの機嫌を損ねたくないので目線を別のところへやる。
すると今度は馬車からエレナが出てきた。赤いワンピース型の水着だ。隼人の妻達には劣るが、彼女もなかなかメリハリのきいた体をしている。彼女は25歳なので、隼人の妻達にはない大人の成熟した魅力がある。
エレナはすぐにアントニオの下へ向かい、水着の感想を求めていた。これ以上は目に毒なので視線を馬車に向ける。
次に登場したのはナターシャ、カチューシャ姉妹だ。前回はワンピースタイプだったが今回はビキニだった。ナターシャの白の水着は2年前から成長した彼女の肢体を隠している。だが女になった体つきはとても魅力的だ。白色が彼女の清楚で優しい雰囲気を引き立てている。
カチューシャは黄色い水着だ。前回がまだ子供だったこともあり、今回は体の成長をはっきりと見せつけてくれていた。背はほとんどナターシャと並んでおり、体つきもかなり女らしくなった。胸も尻もナターシャに迫る勢いである。それでも闊達な雰囲気は変わってはいない。
「に、兄さん、どうですか?」
隼人の下へ歩み寄ったナターシャが気恥ずかし気に隼人に感想を求める。
「2人とも、綺麗だ。成長したな」
「ありがとうございます」
「もう!子供じゃないのはお兄ちゃんもよく知っているでしょ!」
ナターシャは嬉しそうにお礼を言い、カチューシャは照れ隠しに怒る。体つきは似ていても性格は違う2人だ。
「そう言えば俺の水着の感想は聞いていなかったな。どうだ、隼人?」
そう言ってエーリカが胸の谷間を強調するポーズをとる。隼人はその谷間に視線を釘付けにされる。
「……とても魅力的だ」
「そうだろうな。まあ、聞かなくても分かっていた事だが」
エーリカはとても上機嫌だ。頼まれてもいないのにセクシーなポーズをとってくれる。
「だが、やはりそういうのは2人きりの時にしてくれ」
エーリカはいつの間にかまた男性陣の注目を浴びており、アントニオはエレナにももをつねられている。
「そうだな。隼人以外の男にこんな姿を見せる義理はないな」
エーリカもあっさりとセクシーポーズをやめる。
「何をしているんだ、まったく」
騒いでいるとマチルダが出てきた。今回は青いビキニタイプの水着を着ている。大きな布面積の水着だが、エーリカには劣るとはいえ十分すぎるほどの巨乳の魅力は隠しきれていない。エーリカほどは鍛えられていないが、それなりに鍛えてある体つきはエーリカに勝るとも劣らない魅力がある。
「今年はビキニにしたんだな」
「ああ、今年は肌色で攻めてみようと思ってな。ちょっとやり過ぎたかもしれんが」
「いやいや、魅力的だよ。それでいていやらしいわけでもないし」
「そ、そうか?」
マチルダも隼人に褒められて嬉しそうにモジモジしている。
「お待たせー。隼人さん、どう?」
今度は結婚してから隼人の呼び方を隊長から隼人さんに変えたカテリーナが駆け寄ってくる。隼人はその姿に言葉を失う。カテリーナはスクール水着を着ていた。カテリーナは23歳。似合わないことはないが、少々厳しいお年頃だ。とはいえこの世界には学校制度が根付いていないので、この世界の住人が違和感を感じることはあまりないのだが。
「……カテリーナ、なんでその水着を選んだ。いや、悪くはないんだが」
「せっかくだから若々しい水着が着てみたくって。私はそれほど悪くはないと思っているんですけれども」
カテリーナは隼人の妻達の中でも最年長で、隼人よりも年上だ。隼人から見ればまだ若いのだが、この世界では年増扱いされても仕方がない年齢になる。それを気にしているのかもしれない。
改めてカテリーナの姿を見てみる。しなやかな肢体が窮屈そうにしている。特に尻と胸の部分が。水着のサイズが小さめなのだろう。だめなわけではないが、やはり少し無理をしているような気がする。
「……悪くはない。悪くはないが……、やはりその水着はもっと幼い娘が着る印象があるな。カテリーナもっと大人の魅力を引き出すような水着の方が似合うと思うぞ」
「うう、思い切って着てみたのに……」
「思い切りが良すぎだろう。カテリーナはまだまだ若いのだから、無理をせずとも十分魅力的だぞ」
「慰められたのか、とどめをさされたのか、複雑な気分……」
カテリーナは隼人の苦笑しながらの言葉に、がっくりと肩を落とす。
カテリーナのネタ水着に駄目だししていると、梅子に手を引かれて桜がやってきた。桜は白いビキニにパレオを着用、梅子は白の競泳水着だ。桜は清楚さが際立ち、梅子は活発さが引き出されている。
「隼人さん、どうですか?」
桜が隼人の前でひらりと1回転する。
「……ああ、すごくいい。綺麗だ。桜に似合っている」
「ありがとうございます。でも、お腹を冷やすと赤ちゃんに悪いので後で上着を着ますね」
どうやら桜はあまり遊ぶつもりはないようだ。残念。
「梅子もなかなかじゃないか。精気あふれる、といった感じだな」
「そ、そうか?だが拙者は桜様の傍に仕えるつもりだ」
「あら、別に気を使わなくてもいいのよ。私も少しは水に入りますし。梅子も楽しみなさい」
「桜のことは交代で様子を見ていればいいさ。遠慮することはないぞ」
梅子の水着も褒めると、梅子もまんざらでもない顔をする。だが桜の傍を離れないつもりだったようだ。桜と隼人で遠慮しないように言い含めておく。
最後にアエミリアが恥ずかしそうに出てくる。その赤いビキニの水着はこの時代としてはかなり大胆で、布面積は比較的小さかった。アエミリアは小走りにセオドアの下に駆け寄る。なかなかの巨乳なので揺れる。隼人は思わず目線が釘付けになるが、妻達から冷たい視線を感じて慌てて目をそらす。
「セ、セオドア、どうだろうか?」
「う、うん。すごく魅力的だ。でも、そういう水着は2人きりの時に着てほしいかな」
2人とも顔が真っ赤だ。
「……そ、そうだな。着替えてくる!」
アエミリアは更衣室の馬車に駆け出す。その背中もなかなか煽情的だった。
アエミリアがワンピースタイプの赤い水着に着替えてくると、みんなで軽く準備体操を行う。それから海に入り、思い思いの時間を過ごす。自然とアントニオとエレナ、セオドアとアエミリア、隼人とその妻達とセレーヌ、それから残った男性陣のパウルとアルフレッドに分かれる。遊具はないが、女性陣も既婚男性陣も楽しくイチャついている。
その様子を見てアルフレッドがふと漏らす。
「俺も女房、欲しいなぁ」
「ですねぇ」
パウルもアルフレッドの言葉に同意する。別に2人に女っ気がないわけではない。マリブールの娼館には馴染みの女がいる。たまに買った女について防諜上理由から梅子から注意されることもあるが、それだけだ。深い関係になった女はいない。それが今回2人に疎外感を生んでいる。ナンパしようにも警備上の理由から一般人は隔離されている。そうでなくとも海水浴を楽しむ一般人は少ないのだが。
「あの中には入れませんよねぇ」
「セレーヌはちゃっかり入ってるけどな」
2人そろってため息をつく。その間にも隼人達は水をかけあって遊んだり、セオドアとアエミリアが泳ぎの競争をしてセオドアがおいていかれたりしている。とても楽しそうだ。
「……来年には女房欲しいな」
「……そうですね」
こうして独身男性には寂しい夏は過ぎていくのであった。




