第55話 終戦と合流
先週は執筆時間がとれなかったためにかなり短いです。申し訳ありません。
隼人達が甘い婚約者生活を送っている最中でも戦争は続く。隼人は何度も伝令を派遣し、戦況を把握している。ガリア王国軍はノースグラードに向けて順調に進撃を続けているようだ。抵抗は軽微らしい。
これはノルトラント帝国軍の士気が低かった事も原因であるが、ノースグラード近郊で補給線の伸びたガリア王国軍を叩く戦略をとった事が主因である。
そして第2次会戦は帝国歴1792年2月26日に行われた。ガリア王国軍4万対ノルトラント帝国軍6万の兵力であった。戦いは日の出から日没まで続き、双方に多数の死傷者が出たが、結局は痛み分けに終わった。
だが戦略面ではノルトラント帝国にとってはなはだ厳しい状況となった。実はこの6万の軍勢、東のタイハン国方面から一時的に引き抜かれた兵力であったからだ。彼らの消耗は東からの圧力の激化を意味する。事実上、ノルトラント帝国は継戦能力を失うことになったのである。
ガリア王国軍もこれ以上の進撃は困難な水準まで兵力が消耗しており、こちらも攻勢に出る能力は失われたと言ってよかった。かくしてここに講和の前条件が整ったのである。
講和交渉は翌27日からさっそく行われ、28日には講和が結ばれた。短期間で講和が結ばれた理由は、アンリ王が前線に出ており、ガリア王国の意思決定が速かった事、ノルトラント帝国が東からの圧力を恐れて講和を急いだ事にある。
講和条件はノルトラント帝国にとって非常に厳しいものとなった。ノルトラント地方西部とスカンジナビア地方のガリア王国への割譲である。ノルトラント地方西部にはもはや兵力と呼べるものは存在せず、スカンジナビア地方は海賊が実効支配しており、最初から施政権が及んでいない。なのでノルトラント帝国はこの条件を拒むことはできなかった。
ただし、ノルトラント帝国皇帝は国内政治的に責任をとって弟に譲位せざるを得なくなったし、ガリア王国もスカンジナビア地方は事実上切り取り次第なので兵力を動員し続けざるを得ず、双方とも困難が予想されてはいたが。
隼人はこの連絡を伝令から受け取って安堵した。もし戦争が続けば早い段階で再び招集がかかる可能性があり、そうなればマリブールの統治に悪影響が出ていただろう。また、万一第2次会戦でガリア王国が敗れ、ノルトラント帝国軍がセダンに押し寄せるようなことがあれば、隼人達は進退窮まったからだ。マリブールから南に向かう道はすでに雪解けが始まって泥濘化しており、とても行軍できないからだ。
そして翌月の帝国歴1792年3月15日、首を長くして待っていたナターシャ達がマリブールに到着した。ナターシャ達は新編の隊商とともに移動してきたようだ。おまけにエーリカの軍勢とも合流していた。後で聞けば3日前にセダンで合流したらしい。
エーリカも手紙を送るのではなく、自らマリブールに乗り込むことにしたようで、これには隼人も驚かされた。隼人は彼女らを城門で出迎える。
「久しぶり。会いたかったぞ……っと、ナターシャ?」
下馬して出迎えた隼人にナターシャが無言で歩み寄る。
パン!
張り手の音が周囲に響きわたる。ナターシャが隼人の頬を打ったのだ。
「ナ、ナターシャ?」
「マチルダさんを襲ったそうですね?こんなことは2度としないでください」
「……悪かった。今は猛省している」
思えばナターシャは1度ナスロヴォ村で襲われかけている。だからマチルダの恐怖が誰よりも分かるのであろう。
「兄さん、ちゃんと反省してくださいね。それから、私も会いたかったです」
ナターシャは隼人の反省の弁を聞くと満足したようで、今度は人目も気にせず隼人を抱擁する。これでナターシャの張り手で緊迫した空気が一気に和らぐ。
「お姉ちゃんばっかりずるい!あたしも!」
さらにカチューシャも抱き着いてくる。
3人がひとしきり愛情を確かめ合うと、今度はエーリカが隼人を抱き寄せる。
「9カ月ぶりだな!会えてうれしいぞ。たくましくなったじゃないか」
「そ、そうか?」
「ああ、やはり戦場で場数をふむと頼もしく見えるな。……ついでに男になったのだろう?」
エーリカの言葉の最後には多少トゲがあった。
「うっ、まあ、うん。きっかけについては反省しているが、もう責任をとる覚悟で仲良くしているよ」
「ならば、いい。俺も混ぜてくれよ」
エーリカがそんな言葉で隼人の手紙でのプロポーズの返事をする。
「……必ず幸せにする」
隼人はそう言ってエーリカを抱きしめる力を強くする。
隼人がエーリカとの抱擁を終えると、ナターシャとカチューシャが再び隼人に歩み寄る。
「兄さん、不束者ですが、これからよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
どうやら言い出すタイミングを見計らっていたようだが、エーリカのおかげでそれが狂ったらしい。恥ずかしげもなく隼人のプロポーズを受け入れたエーリカと違い、2人は顔を真っ赤にしてプロポーズの返事をする。
「ああ、よろしく頼む」
隼人はそう言って2人を抱き寄せる。これで隼人は7人の女性と結婚することが決まったのであった。
来週は隼人達の結婚式までいく予定です。