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第54話 結婚への道

 序盤、月曜日の朝から少々刺激の強い内容が含まれます。閲覧の際は周りにご注意ください。















 帝国歴1792年2月13日朝、隼人はまどろみの中にいた。何か柔らかで、暖かいものに包まれている。隼人は気だるげに目を開ける。目の前に美人の寝顔があった。マチルダの顔だ。

 なぜここにマチルダがいるのだろう?そう疑問に思い、昨日の記憶を引っ張り出す。


 隼人は顔を青ざめさせる。昨日、抵抗するマチルダを無理やり押し倒したのだ。急激に冴えた頭が現在の状況を把握する。隼人とマチルダはベッドの上で全裸で抱き合っている。下半身が暖かいものにくるまれている感触がする。その正体を確認すべく視線を下半身に向ける。……アウトだ。状況を認識したとたんゲンキンな下半身が血液を集め始める。

 とにかくマチルダから一旦離れるべきだ。混乱した頭でそう判断するが、マチルダにガッチリと抱きしめられ、とてもマチルダを起こさずには離れられそうもない。

 もがいているとマチルダの美しい眉が動く。どうやら起こしてしまったらしい。


 「……おはよう、隼人」


 マチルダはそう言って隼人に唇を重ね、強く抱きしめる。

 長い接吻の後、マチルダは自身の下半身の違和感に気づく。


 「……朝から元気だな。もう1回、するか?」


 マチルダが期待を込めた目で隼人を見つめる。隼人は自身の欲望を抑えることができず、マチルダに唇を重ねた。




 「隼人殿!無事か!」


 マチルダとの情事が終わったちょうどその瞬間、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。全裸の隼人とマチルダが驚いて視線を向ける。そこには血相を変えた梅子が立っており、さらにそこにカテリーナと桜が駆け込んでくる。

 朝食の時間になっても姿を現さない隼人を心配し、マチルダの部屋に行ったきり帰ってきていないと聞くや、マチルダに刺されでもしたかと心配して駆けてきたのである。


 5人は奇妙な沈黙に包まれる。



 「いやーーーーーー」


 桜が悲鳴を上げて泣き崩れる。

 カテリーナは肩を落としてその場を立ち去る。

 梅子は隼人にずんずんと近づき、隼人の頬に張り手を見舞う。それから桜の肩を抱えて扉を閉めた。



 「謝りに行ってくる!」


 しばらく固まっていた隼人だったが、顔を青ざめさせて服を着始める。


 「あ、ああ。その方がいい。私も後で行く。今は少し動けそうにない」


 マチルダは顔を赤らめ、布団で裸体を隠しながら自分も謝罪に向かうと言う。マチルダも抜け駆けをしたことに罪悪感があるのだ。


 隼人は慌てて服を着ていたが、途中で重大な事を忘れていたことに気づく。隼人はサッとマチルダの前で土下座する。


 「昨夜は申し訳ございませんでした」


 マチルダは目を白黒させるが、昨日の状況を思い出して納得する。


 「あ、ああ。昨日の事なら気にしていない。……途中からは私も受け入れて楽しんだしな。まあ無理やり、というのはこれっきりにしてくれればそれでいい」


 「はい、2度と無理強いはしません」


 隼人は床にこすりつけそうなくらい頭を下げる。

 隼人は残りの衣服を着終えると慌てて部屋を出ていく。1人残されたマチルダは伸びをする。


 「……手籠めにされてしまったか……。相手が隼人で良かった。……このまま結婚ということになるのかな?」


 マチルダは愛しい人と結ばれたことに感謝した。




 桜、梅子、カテリーナの下へ一通り隼人が土下座を済ますと、5人はマチルダの部屋に集まった。テーブルの一端には桜達3人が座り、もう一端にはマチルダが座る。隼人はマチルダの隣で床に正座だ。まるで査問会である。いや、まさに隼人に対する査問会そのものだが。


 「さて、どうしてこのような事をしたのか、教えてもらいましょうか」


 査問委員長の桜が査問会の開廷を宣言する。


 「……こうなった以上、マチルダにはもうノルトラント帝国には居場所がないんだ。そうなればマチルダがどんな目に遭うか分からない。だからマチルダを俺のものにするしかないと思って、無理やり押し倒したんだ。責任は全て俺にある」


 「無理やり?それはマチルダさんの合意を取らずにあんな事をしたという意味か?」


 隼人の証言に梅子が目を吊り上げる。


 「……そうだ。大変申し訳なく思っている」


 「申し訳ないで済むか!無理やりだと!女性を貴様は何だと思っているんだ!」


 梅子が雷を落とす。


 「無理やりだなんて……。マチルダさんへの思いは嘘なのですか?愛しい人に無理やり関係を迫るだなんて、何て恥さらしなんですか!」


 桜も珍しく怒気を発する。


 「隊長……、見損ないましたよ」


 カテリーナも汚物を見るような目で見てくる。


 「ま、待ってくれ!あれも隼人なりに私を思ってくれての行動だったんだ!……それに、途中からは私も隼人を受け入れて、嬉しかったし……」


 マチルダがあまりにも隼人が憐れなので擁護する。最後は赤面して声は小さくなっていたが。


 「しかし隼人さんがマチルダさんの体を無理やり奪ったのは事実ですね?それは許される事ではありません」


 桜の宣告に梅子がおおいに頷く。2人は辛い旅をしてきたといっても基本お嬢様育ちなのでこういう問題については潔癖である。カテリーナは2人に比べれば寛容な方だが、正義感が強い。それに、そもそも3人は隼人に裏切られたという感情を持っている。結果として隼人を弁護するのは被害者であるマチルダのみとなる。


 「途中からは私も合意の上でしたのだし、少しは大目に見てやってはくれないか」


 「大目に見れる範囲を超えています。それに、仮にマチルダさんが許したとしても私達が許しません」


 マチルダの嘆願を桜がにべもなく却下する。被害者の意向を無視するあたり、少々横暴で桜らしくないが、頭に血が上っている3人は疑問に思わない。それどころか隼人へのつるし上げを一層強化する。


 「無理やりだなんて、女性にとっては一生ものの傷だぞ!本当に反省しているのか!」


 「昔は守ってくれたこともあったのに、隊長は変わってしまったのですか?」


 矢継ぎ早の罵声に隼人はひたすら土下座して、申し訳ありません、反省しています、と謝罪の言葉を口にする。


 「待て待て、その件は私が許すのだからその辺にしておいてくれ。そもそも今回の集まりの理由は何だ?」


 「隼人さんがマチルダさんに無理強いした事を懲らしめるために決まっているではないですか。マチルダさんが許しても私たちが許さないと言いましたよ」


 なおも隼人をかばうマチルダを桜が一刀両断する。しかしマチルダはその言葉を待っていたようで、反撃に移る。


 「それは違うな。桜達が隼人が無理強いした事を知ったのはついさっきではないか。今回集まったのは隼人が私と行為におよんだから、つまり嫉妬したんだろう?」


 マチルダの言葉に3人が顔を真っ赤にする。


 「な、何てことを言い出すのですか!私達はマチルダさんのために隼人さんを懲らしめているのに、その言い方はないでしょう!」


 「そ、そうだ!拙者達は隼人殿の横暴を懲らしめているのであって、断じて嫉妬しているのではない!」


 「そ、そうです!隊長は罪を償うべきです!」


 3人は反論するが、顔が図星を指されたと言っている。


 「落ち着け。私にも気持ちは分かる。私だって隼人が他の女を抱いたら間違いなく嫉妬する。だから、隼人には責任をとってもらおうじゃないか」


 「責任?」


 マチルダの言葉に桜が代表して問い返す。


 「そうだ。隼人には責任をとって私達全員と結婚してもらおうじゃないか」


 「「「け、結婚……」」」


 3人はマチルダの提案に目線で議論しながら黙りこくる。一方の隼人は話の急転換についていけず、ぼんやりとマチルダを眺めている。



 しばらくして3人が口を開く。もはや3人の表情には怒りはなく、別の理由で顔を赤くしている。


 「そ、そうですね。そろそろ結婚してもいい頃かもしれません」


 「隼人殿も領地をもらうのだし、拙者達も腰を落ち着けてもいい時期かもしれん」


 「隊長もマチルダさんへの責任をとらねばならないなら、ちょうどいい機会かもしれませんね」


 3人の反応に気をよくしたマチルダが隼人の肩を叩く。


 「良かったな、隼人。責任をとるなら今回の事は不問にしてくれるそうだ。もちろん、責任はとるよな?」


 マチルダはすごくいい笑顔をしているが、拒否は許さないと顔に書いてある。


 「も、もちろんとらせていただきます。ふつつかものですが、よろしくお願いします」


 隼人はマチルダと桜達に土下座する。後の中島家の家庭内序列を象徴するような光景となった。




 隼人は桜達4人の指導の下、今回の査問会の件と結婚のプロポーズの手紙をナターシャ、カチューシャ、エーリカに書いた。そのままセオドア達にもマリブールへ参集するように手紙を書く。アンリ王にもマチルダとの件を報告する手紙を書いた。

 それが終わると熊三郎達に婚約を知らせる。みんな口々に祝いの言葉をくれるが、熊三郎は黙って隼人に歩み寄り、隼人の頬を殴った。張り手ではなく拳だ。隼人は突然のことに踏ん張りがきかずに吹っ飛ばされる。


 「わしから孫を2人も奪ったのじゃからこれくらいは受け入れることじゃ。梅子、桜様、おめでとう」


 熊三郎は涙を流して梅子と桜を抱きしめる。両方ともかわいい孫だ。いつかはこうなると分かっていても、心構えはできていなかったらしい。


 「必ず、幸せにします」


 隼人が熊三郎に誓うように言う。


 「当たり前じゃ。もし不幸にするようなら地の果てまで追いつめてくれる」


 その後も仲間達が口々に祝ってくれる。みんな揃ってようやくか、という感想だ。どうやらずいぶん焦らしてしまっていたらしい。




 その夜、再び5人はマチルダの部屋に集まった。


 「まず、隼人さんには今日は床で寝て反省してもらうとして、明日から誰の部屋で寝てもらうか決めましょうか」


 桜がそう切り出す。ナターシャ達に手紙を送ったといえども、向こうの出発準備を考慮するとマリブールへ到着するまで1カ月ほどかかる。エーリカからの返事も同様だろう。その間何もしないのも寂しいので、絆を深めてしまおうというわけだ。女性陣は異存なくうなずく。

 隼人はナターシャ達に少し悪いと思ったが、それを口にできる雰囲気になかった。


 「私は先にいただいたから最後だな。ここは隼人に決めてもらうと角が立つし、3人は平等にくじで決めたらどうだ」


 「そうだな。それが一番だろう」


 マチルダの気楽な提案に梅子が同意し、カテリーナが即席でくじを作る。


 「……よし、これでどんな順番になっても恨みっこなしですよ」


 カテリーナがくじを握って2人に差し出す。


 順番は桜、カテリーナ、梅子、マチルダの順に決まった。やはり桜はこういうところで運がある。こうして婚約者生活が始まった。




 ナターシャ達を待つ間も甘い婚約者生活だけでなく、マリブールの政務、軍務の引継ぎなど、多くの仕事がある。当初はマチルダ以外の文官、兵士は非協力的だったものの、隼人とマチルダの婚約が発表されるや、とたんに協力的になった。みなマチルダのことを敬愛していたし、隼人も地元ではちょっとした英雄だったからだ。マチルダが信頼できる隼人の下に嫁ぐとなれば安心できる。

 これにともなって隼人がうちだしていた文官と兵士の継続雇用の方針(なにせ中島男爵家は新興なので人手が足りない)も現実味を帯びてきた。彼らの忠誠の多くはマチルダとマリブールにあった。忠誠の対象を変えずに移行できるのだから、雇う側も雇われる側も安心だ。



 政軍両面での再編成に忙しく働いていると、2月16日、アンリ王の下に派遣した伝令が帰ってきた。マリブールが開城した2日後の2月14日にセダンが落城したらしい。ノルトラント帝国軍はセダンを捨ててさらに北方に撤退しており、セダンはほとんど抵抗できなかったらしい。ガリア王国軍はこの機を逃さず北上し、ノースグラードを目指すようだ。

 その情報とともにアンリ王からマチルダとの婚姻を認めるとの採決も届けられた。子爵への叙爵も確定らしい。そしてしばらくはマリブール周辺の統治に励むように命じられた。実際のところ、再編成のために軍勢を出したくとも出せない状態なのでこれは助かった。

 この命令は、旧貴族の隼人の戦功が大きくなりすぎる事による序列の乱れを警戒する動きとも無関係ではなかったが。


 ともあれ、1カ月後の結婚式までに様々な準備を整えるべく隼人達は働くのであった。

 体調不良で終盤力尽きました……。皆様も体調にはご注意を。

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