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第46話 レ・ソル砦の戦い 2

 今回はちょっと書く元気がありませんでした


 「ボッシ子爵は何をしている!」


 司令部にポリーニ元帥の罵声が響く。司令部はレ・ソル砦よりも低い丘の上にあるため状況を十全に得られているわけではないが、ボッシ子爵が敵の簡易陣地の前で苦戦していたことはわかる。しかし小勢の敵の逆襲を受け、追い払われるとは予想だにしていなかった。


 「ザッカルド伯爵は昨日も先陣を務めていました。そのため兵の疲労が蓄積しているのやも」


 「将を失ったことで兵が動揺し、指揮統制を失ったのかもしれません」


 ザッカルド伯爵と親しい貴族がボッシ子爵を擁護する。しかし弱点と見た馬出こそが最大の障害であったことには気づいていない。


 「ふん!ボッシ子爵はその程度で敗北するような男ではない。すぐにボッシ子爵を召還しろ!話を聞く!第1波を後方に下げて第2波のフゼール伯爵軍と交代させろ!」


 ポリーニ元帥もボッシ子爵が有能で勇敢な男であることを知っている。そこで敗因を調査するために司令部に出頭させることにする。その一方でレ・ソル砦への攻撃は緩めない。敵を休ませないことが戦術方針だからだ。




 敵の攻撃が失敗に終わり、カテリーナ達が凱旋すると、隼人はすぐに兵に矢玉の補充と、次の戦闘の邪魔になる戦死体の片づけ、そして戦場に散らばる矢玉の回収を命じる。まだまだ先は長い。太陽は天頂にすら昇っていない。隼人も馬出の視察を兼ねて戦死体の片づけに参加する。


 「思ったよりも損害は少ないようだな」


 隼人は隣で作業を監督している熊三郎に話しかけた。


 「ああ、敵は門に集中していたからの。射撃で身動きがとれない状態でしたからな。騎兵の投入の判断、見事でしたぞ」


 隼人の判断を熊三郎が褒める。ちょうどこちらの射撃により敵の動きが止まった瞬間だったので最大の戦果を挙げ、さらには敵が態勢を立て直す前に撤収できたので損害もほとんどない。

 とはいえ、馬出に詰めている人員を中心に多少の死傷者が出ており、矢玉も想定以上に射耗していたことは不安材料であったが。


 隼人達は放置された敵の遺体を片付けるかたわら、取り残された敵の負傷者も収容する。負傷者は武装解除の後野戦病院に送り、桜やエレナの治療をうけたのちに地下牢に収容される。この手間がかなりかかる。

 一時休戦を申し込んでも良かったのだが、負傷者が敵方の治癒魔法で回復されて戦力として復帰されることを嫌ったので隼人達で収容している。その結果として隼人達には休む暇がない。これは隼人達の疲労を狙うタラント王国軍にとって好ましい事態であった。



 「隼人殿!敵は部隊を交代しているようじゃぞ!」


 あらかた死傷者の片づけが終わったところで熊三郎が隼人に呼びかける。隼人は敵に目を向け、攻撃再興が近いことを知り、片づけに出ている兵に撤収を命じる。隼人も馬出に戻る。集中攻撃を受けた馬出は柵がゆがんでいる所もあったが、すでに補修して直してあった。

 隼人はもう一度敵情を確認し、熊三郎と梅子に「しっかり頼む」と声をかけて城門の上に戻った。




 3000いたザッカルド伯爵軍はその数を2500まで減らしていた。その内ザッカルド伯爵、モルラッキ子爵以下400は負傷している。しばらくは戦闘不能であった。

 ボッシ子爵は、治癒魔法で応急処置を受けたザッカルド伯爵とともに司令部に出頭する。ザッカルド伯爵は負傷を考慮されて出頭は命じられていなかったが、責任があるとして自ら出頭することにしたのだ。ザッカルド伯爵は胸に負傷していた。


 「ザッカルド伯爵、その胸の傷は大丈夫なのか?養生しておいた方が良いぞ」


 「いえ、戦闘はしばらく無理ですが、報告くらいはできます。今回の失態の責任は私にあります。どうか部下にはご容赦を」


 ザッカルド伯爵はポリーニ元帥の負傷を気づかう言葉に部下を擁護する発言を返す。


 「責任問題はあの砦を落としてからだ。ボッシ子爵、なぜお前ほどの者があれほど苦戦し、追い払われたのだ?」


 「……あの簡易陣地は悪魔の罠です。門にとりついたところで十字砲火を浴びました。あれでは兵は進めません。さらに敵は騎士などを優先して狙っているようで、指揮統率する者が多く討たれました。そうして動きが止まったところで逆襲を受けたのです。面目次第もございません。しかしながら、あの悪魔の陣地を狙うことは愚策と考えます。はしごで城壁に直接とりつく方が良いでしょう」


 司令部に詰めている貴族達から「何と弱気な」と声が上がる。ポリーニ元帥は沈黙していたが、しばらくして重い口を開く。


 「はしごはいつ到着する?投石器はいつ到着する?」


 「はしごは明日になるかと。投石器は後方で分解移送中ですので展開、組み立てまで考えると1週間ほどかかるかと。攻城塔も同様です」


 攻城兵器担当の貴族が答える。攻城兵器はアストン攻めを想定して行軍しているのではるか後方だ。


 「時間がかかりすぎるな……。このまま攻撃を続ける。門の突破よりも簡易陣地の破壊を優先するようにフゼール伯爵に伝令をだせ」


 「閣下!それでは損害が大きすぎます!」


 「ボッシ子爵、我々は敵の主力が来る前にできるだけ多くの砦を落とし、士気を上げねばならん。こんなところでつまずいていては傭兵どもが戦ってくれるか分からん」


 「……」


 実際にタラント王国軍の戦意はそれほど高くない。それは金目当ての傭兵はもちろん、貴族軍にも当てはまる。貴族達のタラント王への忠誠は実はそれほど高くない。よく言えば独立独歩の気風が強いのだ。ゆえにポリーニ元帥は口にこそ出していないが、貴族軍の戦意にすら疑いをかけている。勇敢で忠誠の厚いザッカルド伯爵などは例外的な存在なのだ。彼らには目に見えるニンジンと勝利が必要だった。

 それに補給の問題もある。一般的に包囲戦では1カ所に留まるために現地調達による補給は期待できない。周辺の村々の在庫がすぐに底をついてしまうからだ。進軍を続ければ新しい村で現地調達ができるのでこの問題は解決される。

 ただし、戦闘が続いたアンドラ高原では軍の「現地調達」により廃村に追い込まれた村々が多く、食料などは後方から運んでこなければならない。それだけなら1カ所に留まる包囲戦は有利に思えるが、馬車では積載量が足りない。後方からの補給だけではとても6万の軍勢は養えないのだ。この場合、各軍手持ちの食料に頼るしかなくなる。そのためにできるだけ速やかにアストンまで攻略する必要があった。



 しかしここで小さな齟齬が生じる。伝令を受け取ったフゼール伯爵は簡易陣地そのものを破壊するという命令を無視したのだ。彼は第1波の攻撃が失敗した原因をザッカルド伯爵の不手際であると判断していた。彼は簡易陣地を突破して城門を破壊する、ようするにザッカルド伯爵軍が失敗した方針をそのままとることにしたのだ。

 ザッカルド伯爵軍と違いがあるとすれば、ザッカルド伯爵は常に自ら先頭に立って戦う猛将であったのに対して、フゼール伯爵は部隊の後方で指揮を執っていたことであろう。指揮官が先頭に立たないことにより士気は振るわないが、指揮官の被弾のリスクは下がる。

 タラント王国軍第2波の戦いが今、始まった。




 隼人はいつも通り距離150で射撃を開始する。今回は桜は戦闘に参加しない。負傷者の救護で疲労していたからだ。桜の戦闘員としての扱いを見直すべきだった。そんな反省をしながら隼人はできるだけ上等な鎧を着た敵を狙い撃つ。

 そして前回同様、距離100で鉄砲隊に射撃を命じ、50で弓と弩に射撃を命じる。敵も前回同様、馬出の門に殺到し、身動きが取れなくなっている。そこに射撃を集中する。前回ほど大きくはないが、混乱が広がっているように見て取れた。


 そろそろ騎兵隊の出番かな、と隼人が思い始めた頃、馬出の門が突如開く。熊三郎が逆襲を命じたのだ。敵の混乱が一気に広がる。


 「騎兵隊!突撃!」


 隼人はカテリーナ達騎兵隊に命じる。城門が再び開かれ、騎兵隊が姿を現す。熊三郎が作った好機を最大限に生かすのだ。



 敵の前衛が一気に壊乱する。しかし壊乱したのは前衛だけだ。他は統制を保っている。隼人は味方に損害が出ないうちに撤収を命じた。


 その後はひたすら射撃戦になった。双方の被害が急増するが、もちろん遮蔽物のないタラント王国軍の方が損害が大きい。

 ひとしきり射撃戦が終わると、矢玉が尽きたのか、タラント王国軍はあっさりと後退していく。隼人も味方部隊の射撃を中止させ、矢玉の補充を命じる。

 この戦いでレ・ソル砦は12名が戦死し、34名が負傷した。タラント王国軍は130余名が戦死、負傷者はその倍以上に上った。

 戦闘が終わったのは正午もだいぶん過ぎた頃だった。隼人は敵の動きを注視しつつ昼食を命じる。昼食はパンと簡単なスープだ。少し物足らないが、炊事部隊がすぐに準備してくれたあたり、あらかじめ調理していてくれたのだろう。炊事部隊に感謝しつつ昼食を腹に収めた。




 「死傷者が350、新貴族も何名か討ち死に……か」


 フゼール伯爵から報告を受けたポリーニ元帥は渋い顔をする。敵を見ればすでに矢やボルトの回収を始めている。敵にはずいぶん余力がありそうだった。司令部には活気が失われている。


 「……第3波攻撃は中止して、はしごを待った方がよさそうですな」


 司令部に詰めている伯爵がうめくように言う。


 「……やむをえんか。軍使を出せ。一時休戦を申し込む。わが軍の遺体を回収せねばならない。それから投石器部隊に急ぐように伝えろ」



 ポリーニ元帥の休戦提案は受け入れられた。休戦期間は日没まで。こうしてレ・ソル砦の戦い1日目は終わった。


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