第27話 タラント王国脱出戦
隼人達のタラントを出立してからの予定は、ロマーニ山脈とクローチェ河を横断して、アルプス山脈の南端に沿って西進し、そのまま街に立ち寄らずにコンキエスタ教皇領に入る。そこから北上して、ガリア王国とコンキエスタ教皇領の国境付近にあるガリア王国の都市、マザメに入る予定だ。途中険しい道のりや、道なき道を行くことを考慮し、1カ月の期間を想定している。その間の補給は警備がおろそかな村での交易に頼るつもりだ。
最初の2日間は何事もなかった。今や200人弱に膨れ上がった隊商を襲撃しようなどという無謀な盗賊もおらず、タラントでは混乱が続いており、討伐隊を出せる状況でなかったからだ。それでも騎馬100騎のみによる討伐隊が3日目の昼頃に接触してきたのはさすがは軍国都市の面目躍如だろう。
「歩兵隊!後方に集結してテルシオを組め!騎兵は歩兵の両翼後方に分かれて集結!左翼騎兵は俺が直率する!歩兵指揮はカテリーナ、右翼騎兵は熊三郎が指揮をとれ!荷馬車は歩兵の後方で待機!」
隼人の指示で素早く戦闘態勢が整えられる。中央では長槍の穂先がそろえられ、両翼では騎兵が緊張感をもって待機する。
敵はこれに驚いたようで足を止める。そしてしばらく後に傘型の突撃隊形をとり始める。どうやら敵の指揮官はそれほど優秀でないようだ。槍に守られた歩兵隊にまともに突撃する気らしい。
「カテリーナ!正面から突撃が来るぞ!注意しろ!」
隼人がカテリーナに注意を促す。そうしているうちに敵が速足で接近してくる。どうやら重騎兵を先頭に、軽騎兵を後方に置いた混成部隊らしい。
150メートルほどに接近した時点でカテリーナが弓と弩を構えさせ始める。それと同時に弓の技量に自信のある隼人と桜が射撃を開始する。
隼人と桜が何騎か倒したところで敵が襲歩に切り替える。距離が50メートルに迫り、カテリーナの指揮で弓と弩が一斉に放たれる。射撃が終わればすぐさま槍兵の後ろに射撃兵が退避する。
歩兵のパイクと重騎兵のランスの激突。分はパイクにある。馬が槍に貫かれ、騎兵が落馬する。後方の騎兵は動揺して足を緩める。
「今だ!左翼騎兵!俺に続け!突撃する!」
隼人は直率する騎兵を率いて足を緩めた敵軽騎兵めがけて突撃する。右翼でも熊三郎が先頭に立って突撃し、歩兵隊もカテリーナが突撃を命じている。
もはや一方的であった。落馬した者は歩兵に首をかかれ、戸惑っている者は騎兵突撃の餌食となった。敵は嫌がらせに徹するか、後続の歩兵を待つべきだったのに、隼人隊の最も強いところを攻撃してしまったのだ。いや、隼人隊の撃滅を厳命されており、歩兵自体間に合わないために用意がなかったのかもしれない。何にせよ、敵は一撃のもとに壊滅した。敵は騎兵ばかりのため追撃は困難だったが、それでも4割が壊滅して敵は敗走したのだった。
この戦闘でパイクが何本か折れたが、代わりに上等な武具と数頭の軍馬を入手できた。捕虜は足手まといになるため、その場で解放し、タラントに向かわせた。友軍と合流できなければ盗賊の餌食だろうが、そこまで面倒を見る義理も余裕もない。戦利品を漁ると戦場掃除もそこそこに隼人達は再び西進を始めた。
その後も何度かタラント王国軍と遭遇したが、こちらが知らんぷりをすると相手も気づかずにすれ違ってしまっていた。どうやら情報が十分拡散していないらしかった。それを幸いに隼人達はロマーニ山脈に急ぐ。
ロマーニ山脈にも横断するように街道が敷かれているが、大きな街道は通らないようにし、小規模な側道を迂回するように進む。ロマーニ山脈も半ばを過ぎたころから隼人達の情報はお尋ね者として周知されるようになったようだ。というのも、途中何度か各地の砦に向かうタラント王国軍の補給隊とすれ違ったが、峠を越したくらいから警戒されるようになったからだ。
とはいえ規模はこちらが格段に多く、こちらから仕掛ける理由もなければ、相手から仕掛けても勝算がない。そのためお互い警戒しながらすれ違っていったため、戦闘は発生していない。盗賊もこちらの規模が大きいせいで手を出してこない。このため緊張感ある平和な旅が続いた。
ロマーニ山脈を越え、クローチェ河を渡るとアルプス山脈南端の森林地帯の林道を進む。険しい道だが平原に出てタラント王国軍に捕捉されるよりよほどいい。こちらは大規模とはいえ所詮隊商。正規軍に比べれば規模も練度も劣る。それゆえ、コソコソと林道を進むのだ。長く険しい旅に部下から不満が出るが、そこは酒の割り当てを増やすなどして我慢させる。
林道の途中ではいくつか盗賊のアジトが発見された。いずれも小規模なもので、隼人達を見るとほとんどが逃亡してしまい、もぬけの殻ではあった。一部の盗賊は隠れたつもりになっていたり、無謀な抵抗を試みたために隼人達に撲滅され、隼人隊の士気高揚の助けになっている。盗賊からの戦利品もなかなか馬鹿にならない。
森林が途切れるとそんな険しいが穏やかな旅も終わる。今度はタラント王国軍の攻撃におびえながらコンキエスタ教皇領に逃げ込まなければならない。緊張感をもってできるだけ目立たないように行軍するが、あと一息というところでタラント王国軍に捕捉されてしまった。
300ほどの軍勢から騎乗の軍使が駆け寄ってくる。
「中島隼人の隊商と見受ける!中島隼人、セネカ・アエミリア、フィッシャー・アルフレッドの出頭を要求する!受け入れなければ攻撃も辞さず!」
ここで出頭してしまえば多くは助かるだろうが、自分たちは帰ってこれない。そもそもこれまでコソコソしてきた意味がない。そう判断した隼人は大声で返す。
「我々は自己の信念と正義に基づいて行動したのみである!我々はタラント王国より退去する!手出し無用に願いたい!」
「出頭は拒否するということか!」
「そうだ!」
隼人の返事を聞くと軍使は帰っていく。
「全員傾注!これよりタラント王国軍と交戦する可能性大である!総員戦闘準備!右前方の丘の頂上に向かって駆け足!」
隼人は戦闘に備えて有利な地形を先取すべく命令を発する。原則として不利な場所で元気でいるより、有利な場所で疲れている方がいいからだ。
この動きにタラント王国軍も軍使の帰還を待たずに戦闘展開を始める。中央に歩兵を置き、両翼前方に騎兵を置く、逆V字型の陣形だ。ざっと見たところ、歩兵は230、騎兵は70といったところか。騎兵はともかく、歩兵の装備の質、練度はこちらが上のようだ。歩兵は鎧のない者も多いし、槍の長さも統一されていない。陣形をつくるのも騎兵に比べて大きくもたついている。どうやら徴集兵らしい。それに対して騎兵はベテランらしく、手早く陣形を組んでいる。鎖帷子もいきわたっていて装備も良好だ。
それに対して隼人達は歩兵が120に騎兵が60だ。ちょこちょこ募兵を行っているし、訓練の結果、騎乗できるようになった者もそれなりにいる。ただし、軍馬として訓練を受けた馬は少ないので、騎兵では劣勢と言っていいだろう。歩兵は何とか質でカバーできるか?
そんなことを隼人は丘の上でつらつらと考える。部下たちも周囲に集結しつつある。
「熊三郎!騎兵20を率いて右翼へ!何とか敵騎兵の攻撃をしのいでくれ!アエミリア!槍兵10を率いて右翼で熊三郎を支援せよ!梅子!騎兵25を率いて左翼へ!敵騎兵と接敵後は左翼後方へ偽退却せよ!そこを予備隊で叩く!残りの騎兵は俺が直率する予備隊としてここに残れ!アルフレッド!海兵を率いて予備隊としてここに残れ!カテリーナ!他の歩兵を率いて中央にてテルシオを組め!敵の突破を許すな!」
隼人は矢継ぎ早に指示を下す。部下たちが足早に持ち場に駆けて行く。
敵情を観察すると、変化が現れた。どうやらこちらの右翼騎兵が少ないのを見て取って左翼騎兵を増強するらしい。左翼に40騎、右翼に30騎といったところか。熊三郎とアエミリアには耐えてもらうしかない。中央の歩兵がようやく陣形を組み、弓兵や弩兵を前に出して前進してくる。
「カテリーナ!俺と桜は遠距離から射撃を開始するがお前は自分の判断で射撃を開始しろ!」
「了解!」
カテリーナに先に一言ことわりを入れておく。
「桜、お前も自分の判断で射撃を始めてくれ。できるだけ騎兵を狙ってくれ」
「わかりました」
隣の桜にもそう言って指示を与えておく。
ふと気が付くと桜の表情が固い。心なしか震えているようにも見える。
「桜、不安か?」
「いえ、別に……。いや、少し不安です。正規軍との戦いはこういった形では初めてですし、数の上で不利ですから。それに、少し怖い」
「大丈夫だ。勝機はある。仲間を信じろ。怖がるな、とは言わんが、気を楽にしろ。俺が守るから、勝った後は治療を頼むぞ」
隼人は馬を寄せて桜の肩を親し気に叩く。
「ありがとうございます。じゃあ隼人さんに守ってもらおうかな」
桜が固い表情のまま笑顔で冗談めかして言う。
「ああ、任せろ」
そう言って桜から適当に距離ととって敵情観察に移る。敵は前進を始めていた。
敵が120メートルほどに迫ったとき、隼人は桜と目線で合図する。桜は敵左翼騎兵を、隼人は敵右翼騎兵を狙って弓を引き絞る。狙いは先頭。2人はほぼ同時に矢を放ち、すぐさま次の矢をつがえる。放たれた矢はあやまたず先頭の騎兵に命中、落馬する。鎖帷子は射撃武器に弱いので簡単に貫通する。これに一瞬敵騎兵の足が止まる。戦闘が今、始まった。
まずは射撃戦が始まる。60メートルの距離に達したところで、カテリーナの指揮により隼人隊歩兵による射撃が開始される。一方タラント王国軍も弓兵と弩兵が駆け出していく。しかしタラント王国軍歩兵隊全体がカテリーナ隊の射程内に入っているので損害が続出する。だがあまり射撃部隊との間隙が開くと、隼人隊騎兵の襲撃を射撃部隊が受ける可能性があるため、うかつに距離をとれない。そうこうしているうちに、まともな防具のないタラント王国軍歩兵隊を中心に損害が蓄積していく。
タラント王国軍射撃部隊も30メートルまで接近して射撃を開始するが、地形的不利と練度の差により数の有利を生かせないでいる。
このままでは損害が一方的に増えるばかりだと考えたタラント王国軍指揮官は部隊全体に突撃を命じる。これに呼応して隼人も両翼の騎兵とアエミリアの支援部隊に突撃を下令する。中央に先じて両翼が激しく激突する。両軍で落馬する者が続出する。とはいえかなり押されている状況だ。右翼は熊三郎とアエミリアを信じ、左翼に注目する。梅子は苦労しているようだが、徐々に左翼方向に後退し、敵右翼騎兵がわき腹を隼人達にさらしつつある。
はやる心を抑えつつ最適なタイミングを計る。敵右翼騎兵が梅子達につられて中央歩兵隊から分離した瞬間、隼人は号令を出した。
「予備隊!俺に続け!敵右翼騎兵を粉砕する!」
隼人以下15騎にアルフレッド以下21人が続く。敵右翼指揮官は直前に気づいたようだが、もう遅い。隼人達は一気に敵右翼騎兵を食い破った。
一挙に10騎程度まで討ち減らされた敵右翼騎兵が敗走していく。隼人は追撃を止め、部下の損害を確認する。軽傷の者はいるようだが、戦闘不能になった者はいないようだ。そこへ梅子隊が戻ってくる。
「梅子!無事か!」
18騎にまで討ち減らされていたが、梅子は返り血を浴びただけで無傷だった。
「はい!我々はまだ戦えます!」
梅子が元気な声を返す。どうやら戦意も衰えていないらしい。
「よし!これより右翼の熊三郎隊の救援に向かう!アルフレッドはこのまま敵中央へ進出し、味方歩兵隊を援護せよ!」
すでに敵を追っていたことで敵の後方に出ていた隼人達は、そのまま敵後方を迂回して熊三郎隊を攻める敵左翼騎兵の後方から討ちかかる。熊三郎隊を押しに押して勢いに乗っていた敵左翼騎兵も前後から挟撃されたことでたちまち窮地に陥る。
「今こそ決戦だ!1人残らず討ち取れい!」
隼人が部下たちを鼓舞する。敵からも鼓舞する声が聞こえる。隼人はちらりと中央を見やる。どうやら中央の敵の士気はだいぶん落ちているらしい。攻撃に勢いがなくなっている。とはいえ早く救援に向かった方がいいのは間違いない。隼人は少しでも早く敵左翼を崩壊させるべく剣を振るった。
タラント王国男爵、カルカーニ・ティツィアーノは焦っていた。有利に進むはずの戦闘で明らかに窮地に陥っている。こんなはずではなかったと思いながら、目の前の敵めがけて突き進む。もはや目の前の敵を倒したところでどうにかなる段階ではなかったが、進むも退くもとにかく眼前の敵をどうにかするしかなかった。
ティツィアーノは盗賊狩りにタラント王国西部を哨戒中、タラントでの代官殺しの報に接し、中島隼人らの討伐が命じられていたため、大規模な隊商に対しても警戒していた。とはいえ、タラントからはここは遠い。誰かが手柄を立てるだろうと考えていた。そこへちょうど大規模な隊商が現れたものだから驚いたものだ。
隼人達の隊商は通常の隊商の倍近い規模なので、ほとんど間違いがない。早速使者を送って投降を促すが、相手はすぐさま戦闘態勢を取り始めた。これを見たティツィアーノもすぐに戦闘態勢をとる。この時ティツィアーノが油断していたのも無理もないことだ。隊商は正規軍に比べて練度が劣る。それに数の上でもティツィアーノが優勢だ。負けるとは少しも考えなかった。
しかし現実はどうだ。中央は攻めあぐね、自身が直率する左翼の攻撃も上手くいかない。右翼にいたっては敵に打ち破られている。おまけに今自分たちはまさに挟撃をうけていた。進退窮まっている。何かがおかしい。ティツィアーノはこの現実を受け入れかねた。
思えば最初からおかしかった。いきなり遠方から矢が飛んできて、代々カルカーニ家に仕えてきた荒武者が射倒された。あんな距離から矢を放ち、鎧を貫通するだけの威力を保ちながら命中させる。よほどの訓練を受けた者でなければできるはずのない芸当だ。たかが隊商が立派な鎧を着こみ、軍隊のように整然と戦列を組む姿も、普通の隊商とはかけ離れている。
こんなはずはない、何かが間違っている。そんな思いが何度も頭を駆け巡る。本能も、自身の命が危険にさらされていることを訴えかけてくる。どうにかしなければならない。自分はこんなところで終わる人間ではないはずだ。
ティツィアーノは焦りながら周囲を観察する。すると眼前の、激を飛ばしている老将が目に入った。きっとあれが敵の指揮官だ。あれさえ倒せば戦局は好転するはずだ。幸いにも自分は多少は武芸の心得があるし、敵の指揮官は元気ではあるが、しょせんは老人だ。神はまだ自分を見捨ててはいない。
「我こそはタラント王国男爵、カルカーニ・ティツィアーノ!指揮官と見受ける!いざ勝負!」
ティツィアーノは敵の老将、近衛熊三郎に向けて突撃する。熊三郎も黙って槍を向けてくる。ティツィアーノはこの時になっても己の力量と、相手の力量を計ることができなかった。その結果、ティツィアーノの槍は熊三郎に弾き飛ばされ、自身は槍の石突きで馬から叩き落される。そのまま味方の援護を受ける前に熊三郎の槍が胸に突き立てられた。
「敵将!この熊三郎が討ち取った!」
激戦の向こう側で熊三郎の太い大きな声が戦場に響く。どうやら熊三郎もまだ健在なようで安堵する。隼人も声を張り上げる。
「敵将は討ち取られた!今こそ好機!押せ押せい!」
敵はこれに士気が崩壊したようで、一気に逃げ腰となり、次々と討ち取られていく。この動揺は中央にも伝播したようで、エカテリーナとアルフレッドの突撃を命じる声が聞こえてくる。戦いはすでに決着がつき、最終局面、追撃戦に入っていた。
戦闘の損害は戦死16名、負傷が38名だった。なかなか痛い損害だ。これからの募兵と訓練で穴埋めしていくしかない。桜とエレナを中心に医術の心得がある者が駆け回る。捕虜の治療は後回しにせざるを得ない。捕虜の数は歩兵を中心に150名弱にも上った。戦死体を数えると100体ほどが遺棄されていた。
隼人は治療の終わった負傷者に声をかけ、次いで元気な者にもその勇戦を称える。今回はなかなか厳しい戦いだったが、本当にみんなよく戦ってくれた。隼人はその感謝の念を伝えていく。桜とエレナにも、治療が一段落したところで「お疲れさま」、と声をかける。特に桜は矢合戦でも活躍していたため、特に肩を抱いて手を取り「よくやった」と声をかける。
別に他意はなかったのだが、やった後で急に気恥ずかしくなってお互いにそそくさと距離をとる。そのまま気恥ずかしい空気に沈黙が流れるが、その沈黙に耐えられず、隼人は一言、「今回は本当によくやってくれた、ありがとう」と言い、指揮をとるためにその場を離れた。
隼人は戦利品の回収中、最も立派な装束を身に着けていた中年の戦死体に近づく。すでに熊三郎が戦利品をあらかた剥いでいた。
「カルカーニ・ティツィアーノ男爵だそうじゃ」
熊三郎がつぶやくように言う。
「特に取り立てるところはなさそうじゃが、性根のしっかりした若武者じゃったな」
しみじみと熊三郎が、若武者とは言い難い歳の敵を評価する。
「そうか……」
熊三郎の言葉に隼人は何とも言えずにそんな返事を返す。
「まあ、敬意をもって埋葬するだけの価値がある敵じゃったな。戦乱の世じゃから敵は悪人ばかりとは限らん。こればかりは戦人の宿命じゃ。慣れるしかあるまい」
熊三郎がそう、隼人に諭すように、あるいは自身に言い聞かせるように言う。熊三郎も普通の戦からは退いて何年にもなる。戦場に立つ者の覚悟を今一度言い聞かせているようだ。
「そうだな…。何はともあれ、とりあえず埋めてやるか」
隼人の言葉に熊三郎が頷き、2人でつるはしを取りに荷馬車へ向かった。戦場掃除が終わり、隼人達がその場を離れたのはもう夕刻の近い時間だった。
あの戦闘の2日後、隼人達はマルニジオという村に到着した。ここでタラント王国での最後の補給と交易、募兵を行う。タラント王国の勢力圏はここまでだ。
その後は特に何事もなくガリア王国の都市、マザメに入場する。時に帝国歴1791年3月12日。偶然にも近衛梅子の誕生日であった。