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第23話 ロマーニ文化

 コンキエスタからウェル河沿いに下流へ下ってタラント王国の国境都市、カルリーノを目指す。カルリーノもコンキエスタ同様、ウェル河沿いの都市で、こちらは河口部の西側に位置している。ロマーニ半島とバクー地方により形成されるロマーニ湾の奥にあり、穏やかな港町だ。都市から少し上流ではウェル河にポー河が合流しており、コンキエスタ教皇領との勢力圏の境目となっている。

 ポー河は、カルリーノの北西にそびえる、ガリア地方とロマーニ地方を隔てるアルプス山脈に水源を持っている。このアルプス山脈の通行は困難ではあるものの、不可能ではないため、ガリア王国とタラント王国が争っている現在、それなりの緊張状態にある。

 また、カルリーノはロマーニ地方とコンキエスタ教皇領の国境に立地し、バクー地方とも近いため、何度も戦乱を経験しており、その主を何度も替えてきた都市でもある。



 隼人達はこの街で3日間の休息をとり、その合間にタラント王国の情報を収集することにする。酒が飲めるメンバー、つまり隼人、熊三郎、梅子、カテリーナ、セオドア、パウル、アントニオ、エレナで酒場へ繰り出す。とはいえパウルは詩を歌い、客寄せとおひねりを稼ぐのが役目だ。




 これまでの旅や、カルリーノの酒場の店主などからのタラント王国の情報を収集すると、以下のようになる。



 タラント王国は大陸南西部に位置するイベリア地方とロマーニ地方を統治する国家だ。イベリア地方もロマーニ地方も東と西で別々に、南北にのびる半島を形成している。現在ガリア王国と交戦中である他、コンキエスタ教皇領を支援しているため、バクー王国とも緊張状態にある。

 以前はロマーニ地方は群雄割拠の状態だったのだが、およそ100年前、イベリア王国とガリア王国の侵略を受けた際、北ロマーニの小国、タラント王国が周辺国を糾合してできた国だ。侵略を乗り切った後、当時の王がそのままの勢いで南ロマーニ地方を征服。さらにはイベリア王国さえ滅ぼし、現在のタラント王国を形成した。

 ちなみにその王はその後のガリア王国との戦役で戦死した。その時はそれを契機に和議が結ばれたが、現在は再びガリア王国と交戦状態に入り、戦争は今年で5年目だという。双方決定打に欠いており、近く決戦か講和がなされるのではないかとの噂だ。



 一方で国内に目を向けると、ロマーニ地方でも北と南で民族が違い、さらにはイベリアという異民族を抱えている。特に北ロマーニ地方では、もともと小国寄せ集めだったために独立の気風が強く、現在のタラント王国の権威では統制しきれていない。実際に王国の方針に反し、独自にコンキエスタ教皇領に赴き、バクー王国と戦っている領主もいる。

 現在のタラント王国の首都は南ロマーニ地方のロマーニである。この都市は旧ロマーニ帝国の首都であり、また発祥の地でもあるため南ロマーニ人にはよそ者扱いされ、評判が悪い。さらには北ロマーニ人と南ロマーニ人は差別しあっており、仲が悪い。そこへ古代からの都市国家同士の対立も引き継いでいるため、北同士、南同士ですら仲たがいしている。

 その一方で文化、技術的にはロマーニ地方全体で統一されており、外から見ればほぼ同じだ。まさに隼人の前世の地球でのイタリアを思わせる国家である。

 ロマーニ地方を南北に走る、アルプス山脈から南に派生したロマーニ山脈に盗賊が多い以外は比較的治安はいい。そのため陸上交通が盛んである。しかし海賊の活動は活発であるため、他に比べれば景気がいいとはいえ、まだまだ安定しているとは言えないようだ。




 そんなところで情報の分析を終える。夜も更けてきて、酒もすすんでいる。ふとパウルの方を見れば、酔っ払い達相手に大盛況である。どうやら今は、ノースグラードでの隼人と梅子の闘技場での戦いと、その後の桜と梅子との出会いを題材にした詩を歌っているようだった。しかしずいぶん脚色が入っている。熊三郎は面白がっているが、隼人と梅子は座りが非常に悪い。さらにはセオドア、アントニオ、エレナは聞き入りながら、ところどころ隼人達に質問を入れてくるので居心地が悪かった。




 翌朝、幹部連中と情報の共有を行う。この先の交易路は、ロマーニ山脈を迂回しながら南ロマーニ地方を経由してイベリア地方に向かうことで決定する。安全をとったという理由もあるが、より多くの地域を回ってみたいという、半ば観光目当ての理由も含まれている。

 会議が終わると、隼人達は乗用馬の購入に向かった。休憩の合間に部下達の訓練をしてきたため、馬さえ与えれば騎兵になれる部下達が増えてきているからだ。ここでもナターシャが掘り出し物を見つけてくれた。その後武具店に向かい、戦利品の売却と武具の補充を行う。ここまではこれまでの街で毎回やってきたことだから慣れたものだ。午前中に仕事を終えた一行はそのまま昼食に向かう。



 隼人達はそこそこ上等な店でスパゲッティを食べていた。ロマーニ地方は大陸でも有数の食事が美味しい地域だ。食事は南北問わず、ロマーニ人達の誇りとなっている。隼人達が食べている料理も、その誇りに恥じないものだった。隼人達はそんな料理に舌鼓を打ちながら午後の予定を話し合う。仕事は午前中に終わったので、午後は観光でもしようということになった。




 カルリーノも古い都市だ。旧ロマーニ帝国がいまだ共和国であった頃、国境都市として築かれた都市だ。さらには河川交通と海運、そして街道が交わる交通の要衝として発展した。今でこそ、海賊の跳梁跋扈で海運は衰退しているが、それを河川交通と陸運の発展が補ってかつての繁栄を維持している。開発の進んだレンガ造りの建物と、いまだ健在な旧ロマーニ帝国時代の巨大建造物のコントラストが見る者の目を楽しませる。もっとも、ロマーニ帝国時代の建物の一部は稼働しなくなって久しいが。


 「ロリアンほど趣はありませんが、活気のあるいい街ですわね」


 セレーヌがそんな感想を漏らす。


 「人々の目も活気がありますし、商品もあふれて景気もいい。まったくいい街です」


 セオドアは商業ギルドの取引が良い結果だったので上機嫌だ。


 「しかし闘技大会の時期を外したのは残念だったな」


 「梅子さん、順調にいけばロマーニの大会には間に合います。その時は一緒に隊長を打ち負かしましょう」


 「あら、そうしたらカテリーナさんも礼儀作法の練習をしなければなりませんね。貴族の宴に出ても侮られない作法を身につけていただかなくては」


 「うっ、お手柔らかにお願いします」


 梅子とカテリーナの会話に桜が課題を突き付ける。ロリアンでの隼人の失態を桜はまだ気にしているようだった。ちなみに梅子は桜の乳母姉妹だけあってその方面の教育も万全である。


 「そうだ!これからみなさんの晴れ着を買いに行きましょう。隼人さんの晴れ着は必ず必要になりますし」


 桜の発案で全員が晴れ着を買うことになった。




 一行は高級服飾店に入った。なかなか上等な品揃えだ。ロマーニ地方は大陸西側の文化の中心地を自称しているが、それに恥じない上品さときらびやかさを兼ね備えた店だった。

 アントニオとエレナはいい雰囲気で互いの服を選んでいる。熊三郎とパウルは手早く服を選び、パウルは他の品を冷やかしている。熊三郎の方は高級服がよくわからないナターシャ、カチューシャ、カテリーナ達に助言を与えている。その一方で、


 「隼人さん!これなんかどうですか?」


 「いや、隼人殿にはこちらの方が似合いそうだが…」


 「隼人!これなんかいいんじゃない?」


 桜、梅子、セレーヌが隼人を着せ替え人形にしていた。すでに上等な服を自前で持っているセレーヌはともかく、桜と梅子は自分の分はそっちのけである。特に桜はロリアンでの失態を繰り返すまいと、真剣さが違う。


 「いや、俺はともかく、お前達は自分の分はどうなんだ?」


 「わたくしはすでにありますからいいのです」


 「私の分は後で隼人さんにも見てもらいます。先に隼人さんの分です」


 「拙者も、隼人殿には恥をかいてもらいたくはないぞ」


 隼人が問うとこれである。とはいえ、隼人はこれまで人生で服飾に興味を示したことがなかったから、渡りに舟ではあった。もっとも、その性格が長い旅の中で仲間達に知れ渡っていたが故の結果だったが。



 隼人は勧められるがままに数着の晴れ着を購入した後、桜と梅子の服選びに付き合うことになった。とはいえ隼人にはファッションセンスがないので良い助言ができない。そんな隼人であったが、桜と梅子は気にせずに着替えては隼人に意見を求めてくる。どちらもスタイルがいいので何を着てもだいたい似合うのでここはもう隼人の好みを言うくらいしかない。


 「隼人さん。こんなのはどうでしょう?」


 桜が嬉しそうに赤いドレスを着て聞いてくる。その姿にまぶしいものを感じながら隼人は評論する。


 「華やかでいいな。似合ってる。でも前の白いドレスの方が清楚な感じがして好みかな」


 「隼人殿。これはどうだろうか?」


 青いドレスを着た梅子が少し恥ずかしげに聞いてくる。


 「凛々しい感じがしていい。似合うな。しかしもっと濃い色の方が落ち着いた感じがするかもしれないな。明るい色でも清楚な感じがしていいかもしれない。悩むな」


 隼人もセンスがあまりないこと気にしながらも懸命に付き合う。それに2人は気を良くしたのかさらに何着か試着した。そこへナターシャ達も試着して意見を求めてきた。結局それは閉店間際まで続き、みんな何着も買って店を後にした。




 「楽しかったけど、なんだか疲れたな」


 夕食の席でミネストローネを口に運びながら隼人がぼやく。すでに夕食の時間には遅く、宿の食堂はどちらかと言えば飲みに来ている客が多くなっている。パウルは夕食もそこそこに詩を歌っており、アントニオとエレナは2人だけの席で親しげに話している。


 「すみません。隼人さんを連れまわしてしまって」


 「いや、いいんだ。必要な物だったし、美人さんの着飾った姿を見れたんだから、文句を言ったら罰が当たる」


 桜の言葉に隼人が上機嫌で返し、白ワインを口に含む。


 「いえ、そんな、美人だなんて…」


 桜が顔を赤くしてうつむく。梅子は照れを誤魔化すように赤ワインを飲むが、赤い顔は酒によるものだけではないことは明らかだ。他の女性陣も直球の褒め言葉に挙動不審気味だ。


 「隼人隊長も色男ですねぇ」


 セオドアがしみじみと言う。


 「昔に比べれば大分良くなったものじゃ。お主はモテるんじゃから、女性にちゃんと接しないといかんぞ」


 「はあ、まあ悲しませないようにはするさ」


 今度は隼人が顔を赤くする番だった。



 「ところでセオドアはどうなのじゃ?お主もいい歳じゃろう?」


 「私は今の仕事が楽しいんですよ。女性が目に入らなくなるくらいには。まあ隼人隊長が結婚したら考えますよ」


 セオドアの発言に隼人と女性陣がむせる。


 「青春してるわねぇ。いったい隼人のどこに惹かれたのかしら?」


 セレーヌが女性陣に問いかける。ここは空気を読むべきだろう。


 「ごちそうさま。俺は先に部屋で休むよ。何かあったらすぐに知らせてくれ」


 そう言って隼人は宿の部屋に向かう。その後ろでは熊三郎とセオドアがパウルの詩を聞きに酒を片手に席を立ち、女性陣は隼人との出会いや隼人の性格などを肴に女子会が始めていた。




 翌朝、英気を養った隼人達はカルリーノ城門前に集合する。今日も遅刻者なしだ。


 「出発!」


 隊商は隼人を先頭に南西に進む。目標はタラント王国首都、ロマーニだ。ロマーニ帝国時代の街道がかろうじて残っているので、1週間もあれば到着するだろう。隼人の心は早くも闘技大会と歴史的建造物の威容に向いていた。


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