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第17話 王女の脱出行

 セダンを出て3日後、隼人達はガリア王国の前線都市、ヴェルダンに到着した。ヴェルダンはウェル河の河沿いに立地する要塞都市で、西にある、ガリア王国中央部とを結ぶ森林の中を通る街道を守る役目を担っている。もちろん、ノルトランド帝国と戦争となれば、セダンを攻略する時の前線基地としても使われるだろう。そのため、ヴェルダンの都市はかなり大きい。

 ヴェルダンの街で、マリブールからの交易品を売買して、休暇を2日とる。



 ヴェルダンを出ると西に向かい、森林地帯を突破する。セダンから少しでも離れるためだ。今や隼人達は大規模キャラバンなので、襲ってくる盗賊団はそう多くない。それでも道中、数度襲撃を受けたあたり、ここらの治安もあまりよくないのだろう。

 隼人達は2週間と少しをかけて途中の街や村に立ち寄りつつ、ガリア王国首都、ロリアンに到着した。隼人にとってはほぼ1年ぶりである。ここで大きく休暇をとると同時に、荷馬車の整備と、追加の荷馬車3台を発注する予定だ。

 隼人は交易品を売却すると、荷馬車の交渉に入る。


 「荷馬車を3台ですか、ちょっと待ってください…っと、工房にはまだ余裕がありますから、すぐに発注できますよ。納期は1週間ほど見てもらえれば助かります。整備もそれだけあれば大丈夫でしょう」


 「この時期は注文が多いのですか?」


 「いえ、ただ5日後に闘技場で王家主催の大会が行われるので、貴族の馬車の整備の注文が多いのですよ。どうです、あなた方も観戦…と、あなた方なら参戦の方がいいですかね」


 「ははは、大会の形式はどんなもんですか?」


 「練習用の模擬武器を使用する形式ですね。それほかは王家主催であること以外、普通の大会と変わりませんよ」


 「だ、そうだが、カテリーナ、梅子、熊三郎、どうする?」


 「わしは歳ですからな。栄誉は若い者に譲りましょうぞ」


 「私は隊長が出場するならぜひ手合わせしたいです」


 「大会はノースグラード以来だな。一度拙者の腕を確かめてみるか」


 「じゃあ3人で参加するか」


 「賭けはほどほどにの」


 「兄さん達、怪我はしないでくださいよ」


 「今回の大会は楽しくなりそうですな。登録はもう始まっているようなのでいつでも登録しに行ってください。宿の手配もしておきますよ」


 「ありがとうございます。では明日にも登録してきますよ」


 「では私は『闘技場の殺し屋』さんに賭けてひと儲けさせていただきますかな」


 「おいおい、確実に勝てるとは限りませんよ」


 「いえいえ、隼人さんの勝利、確信してますぞ」


 そんな会話を商業ギルドでギルド長と話す。大規模キャラバンなので最近は偉い人が担当してくれるようになってきている。最初は気疲れしたが、今ではもう慣れている。

 手配された宿に部隊を分宿させる手はずを整え、部下達に1週間の休暇を通達すると、歓声があがる。大きな休暇は約3週間ぶりだ。かなりホワイトであるが、これからはしばらく荷馬車を増勢する予定はないので、以後はブラックに働いてもらうことになるだろう。

 しかし隼人達幹部はそれなりに忙しい。交易品の手配に、捕虜の売却、部下の訓練もある。酒場での情報収集も半ば娯楽ではあるが、重要な仕事だ。初日は宿の手配と捕虜の売却をしたところで日が暮れてきたので、闘技場への登録は明日とし、酒場での情報収集を行う。




 酒場の店主にここ最近の景気や治安情報、大会の出場者などの情報を聞き出す。どうやら大会では多くの貴族が観戦に訪れるだけでなく、大会へ参戦する貴族もいるようだ。貴族が大勢集まってくるため、大会後は優勝者を招いての祝賀会が開かれるようだ。それらのために、食料品をはじめとした多くの物資が必要とされており、景気はいいが、少し物価が高くなっているらしい。これも、祝賀会が終わって貴族が所領に帰れば自然に落ち着くだろうとのことだ。

 また、集まってくる貴族達の安全確保のために盗賊狩りがここしばらく奨励されており、捕虜の値段に報奨金が上乗せされるようだ。どうりで捕虜の値段が高かったわけだ。ロリアン周辺ではそもそも盗賊団に遭遇すらしていない。酒場の中では、羽振りが良さそうな盗賊狩りの傭兵団が楽しげに談笑している。


 それから、ほとんど関係ないが、ガリア王国の王家の話も聞けた。

 なんでも、近年代替わりしたそうだが、先王はタラント王国との交戦中、状況不明のまま戦死したそうだ。先王には男児が3人いたが、先王の戦死後に立て続けに事故や、原因不明の病で、戴冠する前に世を去った。

 こうして先王の血筋は1人の王女のみ残されることになった。先王の法律ではその王女こそがガリア王として戴冠すべきだったのだが、王弟と宰相が、戦時に年若い王女では不安だと主張し、そのまま王弟が戴冠してしまったらしい。

 市井では王弟と宰相の陰謀だとささやかれているが、証拠もなく、また彼らの主張にも一理あり、しかも庶民の生活には良くも悪くも影響がなかったので、文句を言うものはほとんどいないらしい。その件の王女は、しばらくは表舞台に出てこなかったが、今回の大会と祝賀会で久々に姿を現すとのことで、話題になっている。


 ついでに、まったく関係がないが、ノルトランド帝国の都市、セダンで反乱が起こって領主一族が族滅され、無政府状態に陥ったそうだ。この事態にガリア王国はセダンを乗っ取ろうとしたが、ノルトランド帝国が一足先に鎮圧したらしい。隼人達には関係ない。全くもって関係ない。



 隼人達は大会までに兵の訓練をしたり、ロリアンを散策したりして楽しんだ。ロリアンはロマーニ帝国時代からこの地方の中心的な都市であったため、歴史的な建造物が多い。見学するわけにはいかないが、ガリア王国の王城の一部など、元はこの地方に派遣されたロマーニ帝国の軍団の隊舎だったものがある。

 ここの大聖堂も、ロマーニ帝国時代の中期に建てられたもので、代々のこの地方の支配者が地方の安全と繁栄を誓ってきた、重要な建物である。もっとも、宗教自体はロマーニ帝国古来の多神教から一神教のソラシス教へ、そしてソラシス教の教皇派から清教派に変化していっているが。

 街の西側にはウェル河の支流であるロー河が流れている。この河は大きく、この時代の船ならば外航船でも溯上できるため、ガリア王国海軍の重要な基地として敷地がとられている。もちろん一般の商船の往来や、一般市民の利用を妨げるものではないので、隼人達の隊の中には釣りをしたり、河に入って遊ぶ者の姿も見受けられた。




 そして迎えた大会当日、隼人達は早速ノースグラードとの違いを目の当たりにすることになった。大会の形式そのものはノースグラードと変わらない。ただ参加者が多いので、トーナメントの予選であるチーム戦が4戦になっているだけだ。これでベスト8を決める。通常の大会の場合、後半での盛り上がりのため、有名な強者が優遇される。しかし今回は王家主催で、貴族の武芸大会としての側面を持つため、貴族が優遇されていた。

 具体的に言えば、闘技場では有名人であり、優勝の有力候補である隼人と梅子は同じチームにいたが、他のチームメンバーは全て貴族であった。もちろん貴族の中でも腕がある人物達だったが、これにより他の強者は分断されることになった。無名のカテリーナが貴族の中でも腕や家柄が悪い者達が集まったチームに編入され、1回戦で隼人達と対決、あっけなく敗退したことが例に挙げられるだろう。

 ベスト8が決まった時、梅子とは同じチームにいたから良かったものの、他の6人は見事に腕にも家柄にも、そして運にも恵まれた貴族達だった。彼らよりも実力のある平民は全て予選でつぶし合ったことになる。その隼人と梅子も、トーナメント1回戦でいきなりぶつかり、隼人が薄氷の勝利を収めたことで、ベスト4は隼人の他には貴族達で独占されることになった。

 隼人自身は予選と梅子戦しか不安材料がなかったので、自信と余裕をもって準決勝と決勝にのぞみ、危なげなく勝利した。別に貴族達のやり口が気に入らなかったからではない。トーナメント前に関係者から助言を得ていたからだ。

 曰く、これから先も手加減は無用だと。これから先に戦う貴族達はむしろ手加減を嫌う性質であり、手加減を認識できるだけの腕前を持つらしい。それに、祝賀会では平民の優勝者を迎え、勧誘したり、田舎臭さを嘲笑ったりするのが慣例になっているらしい。それに、貴族の多くも隼人に賭けているので、その面でも手加減するのはまずいらしかった。隼人自身も少額ながら自身に賭けているので、小遣いが惜しかった。

 そんなわけで隼人は手加減なしで優勝した。梅子を始めとした強者達の無念は翌日の祝賀会で晴らすことにする。とりあえずは桜先生相手に礼儀作法の特訓だ。嘲笑れないレベルに到達するかどうかは怪しかったが、レッスンは夜中まで続いた。




 祝賀会には自前の上等な革鎧姿で登城した。桜先生との速成教育の結果、祝賀会に出るような服を調達する時間がなかったのだ。桜先生は隼人が既にそういう服を持っていると思っていたようで、持ってないと聞くと、隼人に激怒し、悲嘆にくれた。慌てて関係者に泣きつくと、大会優勝者は普段の防具姿でも良いようだ。さすがに武装は駄目だが。

 これに安心して桜に報告すると。


 「それ、きっと田舎者を嘲笑うための特例制度です……。これで私の教育の大半が無駄になりました」


 と言って灰になった。どうやら駄目だったらしい。


 「じゃあ振る舞いだけはせめて上品にしてくるよ。桜の教育は無駄になってないから」


 そう慰めて準備していると、復活して目を血走らした桜がこう言った。


 「次の大型休暇には必ずそれなりの服を作ってもらいますからね!」


 桜の迫力に隼人はただうなずくしかできなかった。




 祝賀会会場内に案内されると、一気に注目を浴びた。ただ意外だったのは、全てが否定的な視線ではなかったことだ。むしろ大会で上位に入った貴族達からは好意的な視線を受けている。

 隼人はこの貴族達の視線にガチガチに緊張したが、考えてみれば、マチルダ子爵とはそれなりに親しいし、王女様である桜にはタメ口を通り越して命令までしている。さらにはノルトランドで貴族を少なくとも2人殺している。それを思えば貴族の視線もそれほど負担にならなくなった。基本的に、部下達の視線とそれほど変わることはない。貴族といっても全員が立派な人物とは限らないのだ。

 隼人はそう思ってガリア王、レンヌ・アンリの前に案内される。けっこうカリスマがあって緊張が戻って来た。さすがは無茶してガリア王の地位に昇りつめたにもかかわらず、大して不満を感じさせないだけのことはある。初対面にもかかわらず、そんなことを考えさせられてしまうほどの威厳だった。

 ほどよい位置で跪き、頭を垂れる。


 「面を上げよ」


 アンリ王の言葉に立ち上がり、頭を上げる。


 「優勝者よ、よく来た。これはそなたの優勝を祝う宴だ。存分に楽しんでくれ」


 「この身に余る幸せにございます」


 返答し、丁寧なお辞儀を返す。内心、貴族連中の政治パーティだろうが、と思うが、口には出さない。


 「若いのに礼儀がなっているな。剣だけでなく、礼儀にも良い師を持ったようだな」


 「はい、おかげで今この場に立っております」


 剣は独学なのだが、桜を間接的にとはいえ褒められたのはうれしい。


 「そなたは行商人でもあったな。このロリアン、どう思う」


 「はっ、これだけの宴を開きながら、市民生活への影響が少ないのは、このご時世ではさすがと思います」


 実際、これだけ貴族が集まると物資不足が起こってもおかしくないのだが、物価の高騰程度で済んでいる。よほど物資を備蓄していたか、あるいは治安の改善や行商人の呼び込みなど、なかなかの苦労があったはずだ。

 アンリ王は隼人の目を見つめる。隼人の言葉に嘘や媚がないことを確認すると、大きくうなずいた。


 「行商人としても優秀なようだな。どうだ、余に仕えぬか。余に仕えるなら男爵位を与えよう」


 これに場がざわめく。前例がないわけではないが、大会の優勝者をそのまま貴族にすることはあまりない。勧誘自体は慣例で、断っても問題はないが、普通提示されるのは近衛兵や騎士位である。


 「…せっかくのお言葉でございますが、私はまだ行商人として生きていきたいと思います」


 「ほう、『まだ』と申すか。それではいずれはいずこかの国に仕えるということかな?」


 アンリ王の言葉に隼人ははっとする。自分でも無意識に『まだ』をつけたが、それは無意味ではないように感じた。自分の中に何か野心があるのかもしれない。その正体はすぐにはつかめなかった。


 「よい、よい、気まぐれじゃ。しかし仕官したいと思ったらぜひガリアを訪ねるのだぞ。少なくとも、敵にならぬことを祈ろう」


 そう言ってアンリ王は隼人を下がらせた。その間、隼人は一言も発することができなかった。




 「平民から男爵は大出世だぞ!なぜ断った」


 隼人は早速大会に出場した武闘派貴族に囲まれた。彼らは純粋に隼人を思って言っている。その外周ではそうでない貴族が、「アンリ王の気まぐれか」、「あのような無粋な男が男爵になど」、「王の言葉を断るとは無礼な」とささやいている。


 「…わかりません。ただ、今はまだ行商を続けたいのは確かです」


 「行商がそんなに楽しいのか…。俺にはわからんが、まあ好きに生きればいい。しかし惜しい機会だったぞ。お前と同僚になれるならこれ以上心強いことはなかったのだが」


 そんな言葉とともに1人の貴族が酒を勧めてくる。


 「いただきます。…自分でもわからないんです。自分が何をしたいのか。どう生きていきたいのか。それを陛下に気づかせていただきました」


 「そうか…。まあ人生なるようになる。すべては神のお導きだ。どうだろう。俺の領地に来て兵達を訓練してやってくれないか」


 「それは…行商で伺う機会があれば必ず」


 「おい、ずるいぞ。陛下が欲しがった奴を一人占めするなど。俺のところにもぜひ来てくれ」


 こんなふうにしばらく武闘派貴族にもみくちゃにされていたが、彼らも重要な話を貴族同士でしなければならないので1人、また1人と隼人から離れていった。




 武闘派貴族以外の貴族は隼人にはそれほど興味はないようで、貴族同士の話し合いに忙しく、隼人は1人になった。せっかくだからと料理をつまんでいると、不意に声をかけられた。


 「あなた、行商人なの?」


 勝気な感じのする少女の声だった。


 「ええ、そうです。それなりに大きな規模の隊商を率いております」


 隼人は丁寧な返事をして相手を見返す。

 相手は15歳くらいの少女だった。アンリ王に似た茶色い髪を背中までサラサラと流している。背はやや低く、体つきは年相応のものと見える、上品な美少女だ。


 「ふーん。じゃあこの国から出ていくの?」


 「そうですね。東のアーリア王国や、そこを経由してタラント王国に向かおうかと考えています」


 「あなた達、強いの?」


 「ええ、まあ。腕利きが何人かおりますし、総勢100人近くになりますから、盗賊どもには遅れをとりません。まあ、タイハン国やバクー王国の盗賊とはやりあいたくはありませんが」


 「タイハン国やバクー王国の盗賊は強いの?」


 「騎乗の盗賊が多いそうですからね。強いというより厄介、と言う方が正しいですね」


 その後も少女は隊商や仲間、旅の様子についてしきりに聞いてきた。


 「ふーん。隊商って面白いのね。気に入ったわ。またお話しましょう。わたくしはレンヌ・セレーヌよ」


 レンヌ・セレーヌ。どこかで聞いた覚えがある。そうだ、酒場で店主が言っていた、王位を奪われた王女だ。


 「これは王女様でしたか。御無礼を」


 隼人は頭を下げる。


 「いいわ。話を聞きたかっただけですし。それではごきげんよう」


 セレーヌはそのまま去っていった。

 その行方を目で追ってゆくと、セレーヌに親子と思われる、2人の男が近づいてきた。どちらも肥満気味だ。彼らの顔を見て名前を思い出す。彼らは宰相のルブラン・ポールとその息子、ピエールだ。

 2人はその能力こそ万人が認めるところだが、アンリ王よりもかなり評判が悪い。アンリ王と違って人望やカリスマがないらしかった。そんな2人がセレーヌにしきりに話しかけていた。セレーヌは露骨とはいかないまでも、かなり嫌がっている。王位を簒奪した主犯格なのだから当然だろう。

 とはいえ、手出しできることではないし、隼人はそれほどお人よしでもないので、放置だ。隼人はたまに関心を示す貴族の相手をしながら料理を楽しんだ。




 1週間が過ぎ、荷馬車と交易品の用意が整った。いよいよ出発である。一行は東に来た道を戻り、そのままアーリア王国を目指すことにする。ガリア王国領の西のブリタニア地方に行っても、ガリア王国とタラント王国が交戦中で、そこから直接タラント王国支配地域である南のイベリア地方に行くのは危険だから、結局ガリア地方に戻らなくてはならない。その点、東のアーリア王国であれば、交戦中のノルトランド帝国領に行くのでなければ、他の地域に安全に移動できる。




 異変が起きたのはロリアンが小さくなり、時間は昼ごろになろうかという頃であった。


 「何者だ!」


 「無礼者!離しなさい!」


 隊商で言い争う声がする。隼人は隊商を止めると、問題の発生地点に向かう。

 そこでは、なぜかセレーヌが革鎧姿で部下達と揉めていた。なぜ王女がこんなところにこんな格好でいるのか理解不能だが、とりあえず話を聞くことにする。


 「何事だ!」


 「ああ、隼人。ちょうど良かった。わたくしを隊商に参加させなさい」


 そんなことを突然命じる。


 「そんなことを突然言われましても…。城にお戻りになった方がいいのでは?」


 「いやよ。あのまま城にいればルブランの嫁にされるわ。そんなの死んだっていやよ。そこにあなたが現れた。あなたは強いし、信頼できる。だから城を抜け出してきたの」


 「城を抜け出してきたって…」


 隼人は絶句する。これは確実に厄介事だ。


 「隼人殿、どうした?」


 梅子達幹部連中が集まって来た。


 「ガリア王国の王女様が隊商に入りたいってさ」


 「は?」


 「ちゃんと説明なさい!」


 セレーヌがみなに自身の状況を説明する。

 なんでも、王位簒奪の時にルブランに嫁に出されることが密約されていたらしい。しかし、王位を簒奪した主犯格であるし、おそらく、親兄弟の仇でもある。ついでに言うと、親子そろって顔も性根も歪んでいるらしい。そんなところになど絶対に嫁になど行きたくない。

 ところが幸運なことに、アンリ王がルブラン家に王家の血が入ることを警戒したらしい。ついでに言うと、すでに王と宰相の路線対立は少しずつ始まっており、近く顕在化するだろうとのことだ。そのため、結婚は16歳の成人を待つべきと、凍結されているらしい。しかし期限まで後1年を切っており、そこで好機とばかりに軟禁から逃げ出してきた、というのが真相らしい。



 ここで初めてセレーヌが頭を下げた。


 「どうかわたくしを隊商に入れてください」


 この言葉に隼人は周囲を見渡し、どうする、と聞く。心情的には助けてやりたいが、確実に厄介なことになる。


 「…私は、セレーヌさんを助けてあげたいです」


 「拙者も姫様と同意見だ」


 桜と梅子の意見に女性陣が次々同調する。


 「わしとしては危険な橋は渡って欲しくないのじゃが…まあガリア王国から出てしまえばそう問題にはならんでしょう」


 熊三郎は消極的反対のようだ。


 「じゃあ決まりかな。ただし、隊商に参加していただくには条件があります」


 「条件?」


 「ええ、まず身分を偽ること。これは当然ですね。それと、指揮官は私であると認めること。つまり、私の部下になるということですね」


 「そうね。当然ね。わかったわ。その条件、全部呑むわ」


 そう言うとセレーヌはナイフを取り出し、背中まで伸びていた美しい髪をつかみ、それを肩口のあたりで思い切って切った。


 「これでわたくしがレンヌ・セレーヌであるとわかる人はかなり少なくなるはずよ。これからはただのセレーヌ。よろしく頼むわね」


 「あ、ああ。ところでセレーヌ、お前はどんな技能がある?」


 「い、いきなりですわね。武芸はそれなりにやってきましたから、騎兵としてはそれなりの腕がありますわ。あと、頭は人よりいいですわよ。なんたって城を抜け出したくらいですもの」


 「そうか。では次の街で乗馬を与える。それまでは歩兵として従軍するように」


 「!?わたくしを歩かせるとは…、本気なのですね。了解しましたわ。ところで、先ほどの方が「姫様」とおっしゃっていましたが、わたくしの他にも高貴な方がいらっしゃるの?」


 この言葉に自己紹介が始まる。



 「へぇ。農民の子から国を追われた王女様まで、いろいろいるのね。そこに国から逃げたもう1人王女が加わるわけですわね。これからよろしくお願いしますわ」


 隼人達に新たな仲間が加わった。


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