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第127話 凱旋と法と神と

 皆さま、大変長らくお待たせしました。長らく書けずに申し訳ないです。そして今回はかなり短めです。これからも頑張りますのでよろしくお付き合いお願いします。

 帝国歴1800年10月1日。ついに隼人以下第2ロマーニ帝国軍主力が首都マリブールに凱旋した。第2ロマーニ帝国の名に恥じぬ歴史的勝利と版図をもたらした皇帝と軍の凱旋に市民は歓呼した。名も知れぬ女性が名も知れぬ兵士を抱擁し、子供達が花を持って兵士達に駆け寄る。

 街の広場に到達した凱旋の列の先頭の隼人は兵士達に1カ月の休暇を約束した。兵士達の歓呼の叫びが街に響く。

 だが隼人は知らない。その約束は明日には撤回され、休暇が4カ月に延びる事を。


 2日、久しぶりの休暇を楽しんだ隼人に待っていたのは執務室の書類の山だった。


 「……これは?」


 「1年以上の間に洗い出された制度の不具合の改善案、地方領主の人事案、諸改革の進捗報告にアーリア王国などからの情報だ」


 隼人の不安げな質問をマチルダが笑顔で一蹴する。怯んだ隼人は一番上の書類を、最も分厚い書類を手元に寄せる。

 それをパラパラめくる。

 …………

 …………

 …………


 「これを1カ月で決裁するのか?」


 「少なくとも3カ月はかかると私は見ている。そうでないと決裁する前に隼人が理解する時間がない。軍の動員も長引いている。休養と再編に時間が必要だと思うが?」


 「……アーリア王国の情勢は?」


 「泥沼だが武力でちょっかいをかけて来ることはなくなっている。小康状態だ。隼人の腕前次第では外交によって統合も可能だろう」


 怯えて戦場への逃亡を図ろうとする隼人だがマチルダに阻止される。


 「……どうやら俺の休暇は無さそうだ」


 あまりに重要な内政案件の数々に隼人は降伏して天を仰ぐ。ナターシャに紅茶を頼んで気合を入れて仕事に取り掛かった。




 「……国防省の権力が大きくなりすぎる、か」


 官僚制度の資料を粗方読み終えた隼人がぼやく。政府制度の試案は複数あるが、大方2つに別けられた。権力が大きすぎる国防省を分割するか、国防省並みの権力を持つ官僚組織を別個に立てるかだ。

 現状の国防省は人員が飛びぬけて多く、これまでの勝利とこれからの勝利で権威が増す事は間違いがなかった。内閣府の下部組織なので総理大臣の管理下にはあるものの、権力と権威が大きければゴー・ストップ事件や満州事変のような大小の軍部の暴走を防げるかは未知数だ。


 「懸念は俺も理解した。妥当な見解だ。しかし国防省の分割はできないな。陸海軍の統合運用には不可欠だし、陸海軍で組織対立が起こりかねん」


 「そう言うとは思っていたよ。で、最高意思決定者である皇帝陛下のお考えは?」


 「そうだな……。まず財務省に財政、金融の権限を集中させよう。それから情報省は解体、秘密警察を保安局として内務省に移管、対外諜報は中央情報局として内閣府に移管する。これで内務省は刑事、秘密警察、地方統制の権限を持たせる。これで国防省、財務省、内務省でバランスをとってもらう。ただ、これらを統制する内閣府の権限もいま少し強化しておきたいな。大臣の指名権は総理大臣に持ってもらうが、まだたりんかな……」


 「ならば官僚の人事を管轄する人事局を内閣府に入れるのはいかが?法解釈を行う法制局も付けておきましょう」


 「経済省と財務省で取り合いになりそうな公正取引局を内閣府に入れましょう」


 「ふむ、セレーヌとセオドアの案も取り入れよう。マチルダ、どうだ?」


 「ふむ……。4つともバランスがとれそうだ。これで運用してみて不具合は後で潰していこう」


 「なら、決まりだな。法案の作成を頼むよ」


 政府制度は細部の制定と関係各所への調整で隼人の出陣直前まで折衝が続けられ、出陣後もポスト争いや貴族派閥の調整が続けられ、政府制度諸法は帝国歴1801年3月初頭になってようやく成立。4月頭から施行された。なお、各省庁が仮庁舎から本庁舎に移って本格稼働するのは3年後の事である。




 憲法を含めた諸法律の議論、制定もこの時期に行われた。


 「まずは商法の制定だな。次に刑法、民法、憲法の順番だ」


 「憲法の草案作りから随分経つが、憲法は後回しでいいのか?」


 「憲法は法律の上位で、しかも国家や俺の権力を制限するものだ。しかも俺が上から国民に与える形になるから欽定憲法になる。国民の人権意識が芽生えないと憲法の力が十全に発揮されない。悪法を許して権力者の国民への弾圧を許すような法治主義にしてはいかん。国民一人一人の権利を守る法の支配の考え方を啓蒙してもらわないと」


 マチルダの疑問に隼人は小難しく答える。憲法の概念もないのに欽定憲法だの法治主義だの法の支配だの言われても困る。


 「……つまり、現状では良い憲法は作れないと?」


 「ああ、国民の権利意識がないとダメだ。それに、大陸を統一するまで自分の権力を制限したくないしな。反面、商法、刑法、民法は古代ロマーニ帝国のものを踏襲しつつ既存の習慣を明文化する程度で済む。まあそれなりに時間はかかるが。それに商法は喫緊だ。商売のトラブルは内外に問題を多発させるからな」


 「ふーむ……。隼人が言うなら間違いはないだろうが……。地域別の商習慣の違いで問題が発生しているのも事実だしな。確かに優先順位はそれでいいだろう。これらも時間はかかるができるだけ早く仕上げよう。隼人も時間をとってくれよ」


 「う……うむ。疑わしきは罰せず、疑わしきは被告人の利益に、罪刑法定主義も基本概念として必要だから頑張るか」


 「ん?罪人に情けをかけるのか?」


 「いや、刑を科すには十分な証拠を必要とする、という事だよ。罪人と確定したら容赦はしない。それに法の下の平等も必要だな。法の下では階級は平等。貴族も平民もなしだ。罪刑法定主義は法律がない限り罰せられないし、罰も法律の範囲内で科すという事だ。つまるところ、為政者が好き勝手に刑罰を科す事を防ぐ事が目的だ」


 「それは貴族階級に反感を買いません?」


 「セレーヌ、その程度で反感を持つ貴族はこれからの時代には不要だよ。むしろ将来の不穏分子を処分する好機だ。それに貴族を味方につけるよりも民衆を味方につけた方が心強い。貴族や我々統治者の基盤は民衆だからな。常に民衆を味方につける事こそが国を保つ秘訣だ。これは俺の子孫によく伝えておかないとな」


 この頃から中島家は「国民の第一人者」をモットーとするようになる。中島家が権力の座か退き、第2ロマーニ帝国が立憲君主制に移行した後も常に国民に寄り添う姿勢を続けた。


 「つまるところ、憲法にこれらの国民の権利を保障させたいんだ。商法、民法、刑法はその意識を芽生えさせるきっかけにしたい。どうしても欽定憲法になってしまうが、後々には議会で柔軟に改憲できる軟性憲法にしたいな」


 「わかった。ではそれら諸法案も隼人に協力してもらうぞ」


 マチルダのカウンターに隼人は自分で仕事を増やしてしまった事に後悔する。だが早めに整備しなければならないので手を抜くつもりはなかった。

 これら法整備の合間に地方領主を知事として任命する(後にこの権限は内務省に移管、さらに後の時代になってから知事選挙が行われる事になる)など、休暇返上で忙しく働く事になった。




 こうして隼人達が忙しく内政に励んでいる一方で、親第2ロマーニ帝国派で占められたコンキエスタの教皇庁では怪し気な動きが始まっていた。それは信者の獲得と隼人へのおもねりを企んだものだった。

 この時期に三位一体がソラシス教で広まり始める。始まりは隼人に忖度した司祭が唱えはじめたものだったが、すでに教皇庁では主流になりつつあった。つまり、創造主である神、救世主、そして神の再来(中島隼人をさす)は本質としては同一であるという、異端もいいところの教えであった。

 だがこの教えは正当であると帝国歴1800年11月の枢機卿会議で決定され、ソラシス教が皇帝教に変化し始める。


 この動きはソラシス教だけでなく他の地域の宗教にも広まり、隼人が大陸を統一する頃には隼人は神、ないし聖人、預言者として宗教的にあがめられる事態になっていた。そして隼人没後150年ほどでこの大陸の宗教は隼人教としてまとめられ、大陸の宗教的統一に寄与する事になるのだった。

 そしてこの動きは急速だったために隼人の意思とは関係なく進み、隼人は心の中では迷惑そうに、しかし大陸の統一のために現人神扱いを受ける事になるのであった。


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