第121話 北方支隊とノースグラードの戦い、緒戦
先日、自分の小説を読み返してみたら、意外と面白かった。まあ、同じ知能指数と思考回路持ってる人間と対話しているようなものだから、当然と言えば当然だけど。しかし終わりの方で矛盾点がボロボロ発見して同時に頭を抱える……。追々修正します。
それから更新遅れて申し訳ないです。これからも本作をよろしくお願いいたします。
歩兵第3師団と第1~4独立野戦重砲連隊からなる北方支隊は、帝国歴1799年7月10日にノースグラードを占領後、戦後処理に追われていた。住民の慰撫、ノルトラント地方の各都市、城、砦の接収。そしてノースグラード陥落後に侵攻してきたタイハン国への占領地の4分の1の譲渡、旧式武器の売却。歩兵第3師団の師団長であり、北方支隊の指揮官でもあるモーズリー中将は軍事畑の貴族であったが、貴族としてある程度行政経験もあったため、苦労しながらも職務に励んでいた。
しかし、主力が各地を転戦し、勝利を重ねている中、配属地の都合でノルトラント方面を任されたものの、疎外感を感じている事も確かであった。現実に、北方支隊の将兵は味方の勝利を祝いながらも、士気は落ちていた。規律の乱れによる将兵の犯罪が時たま報告される。皇帝中島隼人の華々しい勝利。その列に加われない事に誰もが不満を燻ぶらせていた。
だが、幸か不幸か、半年後にはそんな気分も吹っ飛んでしまった。帝国歴1799年12月24日、タイハン国が不可侵協定を無視して越境したのである。
その日の朝から境界線付近の都市、城、砦から悲鳴のような電文が届いては通信が途絶する。元々ノースグラード以外には多くとも中隊規模の兵力しか駐屯していなかったので、早々に陥落に追い込まれたようだった。モーズリー中将は即座にノルトラント地域の全部隊にノースグラードへの集結を命じる。タイハン国の攻撃とはほぼ遊牧民族の民族大移動と同義である。数の暴力に耐えるには、こちらも戦力を集中させるしかない。それでも北方支隊だけでは戦力不足なので、マリブールにも電文で救援を請う。
25日朝、モーズリー中将が見たのは、四方八方から続々と押し寄せる難民の群れと、それを警護する北方支隊の姿だった。
タイハン国は、恭順した者には寛大であるが、抵抗した者には容赦しない事で知られている。タイハン国に恭順して交易で栄えた都市もあれば、破壊の限りを尽くされた都市もある。そしてノルトラント帝国は長年タイハン国に抵抗してきた。避難民が恐れるのも当然であろう。
しかしこれでは確実に部隊の集結が遅れるし、籠城に備えての食糧の備蓄にも影響が出る。遊牧民の機動力であれば、今日にでも包囲されてもおかしくない。モーズリー中将は頭を抱えたが、だからと言って難民を追い返すわけにもいかない。そうしたら今までの宣撫活動が水の泡だ。
そしてモーズリー中将は北側の城壁を見やる。7月10日の砲撃で見るも無残な有様だ。今までは柵で応急処置をしてそのままだったが、現在は急ピッチで独立野戦重砲連隊の砲兵陣地その他を構築している。
城壁の中からは野戦重砲は使えないので、好都合ではあるのだが、やはりにわか作りの陣地では不安は否めない。敵の攻撃もここに集中するだろう。
幸いなのは、ノースグラード住民が我も我もと工事に参加してくれている事か。自前の武器を持って志願兵となる住民も多い。住民もノースグラードが陥落した時の運命を分かっているのだろう。若者には余剰兵器を貸与して訓練を行っており、中高年、子供には陣地構築、食事関係を手伝ってもらっている。おかげで城壁の外にも二重の防衛線を構築できた。もっとも、単なる塹壕線ではあるが……。
モーズリー中将は今日も事務処理や訓練、陣地構築の視察に飛び回るのだった。
24日の昼、北方支隊がノースグラードで籠城するとの報告を電信で受け取ったマリブールでも、ハチの巣をつついたような騒ぎだった。タイハン国の協定破りは、現在隼人が南にいるため、対処が難しい。戦略に綻びが出たのだ。まだ工事中ではあるが、基本機能は備わってきた新マリブール城の政庁で緊急会議が行われる。
宰相のローネイン公爵が隼人に代わって会議を進める。この席には珍しく引退した熊三郎も、国防大臣補佐の肩書で参加している。
「さて、タイハン国が協定を破って通告もなく我々に攻撃してきたわけだが、皆さんの意見を聞きたい」
ローネイン公爵の言葉で会議が始まる。これに情報大臣代理を務めていた、情報省宣伝局局長のパウルが真っ先に手を上げる。
「ここにお集まりの方々には既に承知の事と思いますが、タイハン国は先月、分裂をもって混乱が終息しました。我々に牙をむいたのは、我々が武器を供与した勢力です。今はザーバトヌイ・ハン国を名乗っています。我々は敵を育ててしまった事になります」
懐柔策が裏目に出た事に皆押し黙る。
「まあ、過ぎてしまった事は仕方あるまいて。敵が協定違反をするほどの愚か者だったというだけじゃ。今はどうにかノースグラードを守り、隼人殿の来援を待つ方策を練らねばならん。既に隼人殿には電文を発しておるのじゃろう?必ず隼人殿は援軍に来る。それまでの辛抱じゃ」
熊三郎がそう結論づけて、国防大臣のゴラール公爵に目線を送る。
「今我が軍で動かせるのは、訓練未了の兵がマリブール周辺に3万強だけです。一応ケルンから3万の軍勢の内いくらかは引き抜けるかもしれませんが……」
ゴラール公爵は申し訳なさそうに報告する。
「仕方ないさ。武器の製造も、兵の育成も、馬の育成も時間がかかる。金だけでは解決できないさ。それに、ケルンはアーリア王国への牽制で動かせないし、そもそも分割できるほどの統制もとれないと聞いている。マリブールの3万で当面しのぐしかあるまい」
総理大臣のマチルダがゴラール公爵の苦しい案を退ける。
「……わしが3万を率いて救援に行こう。牽制程度にしかならんと思うが……。ゴラール公爵は引き続き新兵の教育を頼む」
熊三郎が援軍の指揮官に立候補する。だがこれに皇后として会議に加わっていた桜が異を唱える。
「熊三郎!あなたは引退したはずです!それに、熊三郎がいなくなれば子供達が悲しみます!」
「なに、わしも敷島国ではもっと大軍を率いていましたぞ。心配せんでも、生きて帰るつもりじゃ。それに、なにより年甲斐もなく血がたぎりましてな。わしの最後の大戦にはちょうど良い。どうか行かせてはもらえんか?」
熊三郎の生きて帰る決意と武人の矜持、これに全員が反対できなくなる。そして桜が口を開いた。
「……わかりました。熊三郎出陣には反対しません。ですが、条件があります。私を連れて行きなさい。自分を守る事くらいはできますし、負傷者の治癒もできます」
桜の条件に場がどよめく。
「桜様!それは危険ですぞ!戦場では何が起こるか分からん!確実に御守りできるとは断言できん!」
熊三郎が断固として拒否する。
「あら、私を鍛えたのは熊三郎ではありませんか。私の武術の心得は知っているでしょう?それに、私は隼人さんが恋しいのです。もう長らく会っていませんからね。ですから、拒否するなら皇后として命令しますよ?」
この桜の言葉に熊三郎は絶句し、他の妻達は恨めしそうに桜を見る。妻達は皆仕事を割り振られていて、桜ほど簡単には仕事を放りだせないのだ。
「……では決まりですね。私は軍医長として従軍します。熊三郎、頼みましたよ」
「……わかりました。しかし、無理はしないで下され。わしの心臓の心配もして欲しいところじゃ」
「ふふ、わかりました」
桜のいい笑顔に熊三郎達は敗北する。これで特設歩兵第11~13師団が編成され、熊三郎軍団として桜とともにノースグラードに援軍に向かう事が決まるのだった。
ノースグラードへの援軍の知らせは、27日の朝にモーズリー中将に届いた。その頃には、予想よりもはるかに遅かったが、タイハン国の軍勢が地平線に見え、ノースグラードを包囲しようとしていた。モーズリー中将はすぐにこの情報を全軍に通達する。これで少しは士気が上がるだろう。だが、相手の数が多い。ざっと20万といったところか。騎兵が少ない事が不可解だが、厳しい戦いになる事には間違いはない。
実際にはザーバトヌイ・ハン国には騎馬民族が少なく、多くが降伏した都市、国からの軍勢で、さらに付近から強制徴募した農民兵も混じっていた。なので士気は高くないし、統制も乱れていた。それに対して北方支隊は常備軍で精鋭であったし、装備にも優れていた。さらに住民からの志願兵ですら士気が高い。不利ではあっても、絶望的な差ではなかった。ちなみに、北方支隊はおよそ2万、志願兵と現地採用の警備隊の合計は5万。武器の不足で志願兵をこれ以上増やす事は出来なかったが、志願者はノースグラードの住民の大半になる。あとはにわか作りの陣地をどう守るかだ。モーズリー中将は城壁外北側の指揮所で敵を眺め、気を引き締めていた。
28日朝、北から東にかけて布陣したザーバトヌイ・ハン国の軍勢が攻撃を開始した。投石器、トレバシェットが唸り、第2ロマーニ帝国から購入した旧式砲が火を噴く。
これに対して野戦重砲連隊は直ちに応射、志願兵部隊も城壁のバリスタや投石器で反撃する。野戦重砲連隊の火力は絶大で、30分もしないうちにザーバトヌイ・ハン国軍の攻城兵器の7割を破壊し、兵員にも大打撃を与える事に成功する。
ザーバトヌイ・ハン国はこの事態に士気の低下を危惧し、歩兵による強襲に切り替える。無論、騎馬民族は最後尾で、先鋒は農民兵だ。農民兵の後に続く属国軍には逃亡兵は斬り捨てるように命じてある。完全に人間の盾だ。
進むも死、退くも死の農民兵は、追われるように突撃を強要される。だが、死は彼らにも、後方にいる者にも平等に降り注いだ。農民兵にはライフル銃の射撃や、弓、弩による攻撃が襲い掛かり、属国兵には歩兵第3師団の、そして騎馬民族には野戦重砲連隊からの死の卵が降り注ぐ。後年、生き残った騎馬民族は、「火の暴風だった」と述懐している。
北方支隊は数こそ少ないものの、野戦重砲連隊により、その火力は当時世界一であった。20万のザーバトヌイ・ハン国軍は未知の攻撃に大混乱に陥る。混乱に陥った大軍の統制の回復は容易ではない。
だが、指揮官はザーバトヌイ・ハン国の王だ。伊達に権力抗争や紛争を勝ち抜いてきたわけではない。幸運にも砲弾の攻撃を免れた彼は状況不利を悟って後退を決断。即座に攻囲陣地も後方に下げる事を決める。これにより士気の高い騎馬民族部隊は統制を回復、整然と、そして素早く後退した。
属国軍も命令を受け取り、這う這うの体で戦場を離脱する事に成功する。
だが哀れなのは農民兵だ。前方からは死が突き刺さり、後方からは何の命令も来ない。ただ、督戦の属国軍の部隊が自分達を追い立てているだけだ。
最終的に彼らは督戦部隊とともに蒸発した。最後には逃げ散ってしまったが、それまでに死んだ農民の数は後世になっても想像の域を出ない。しかし事実として、ザーバトヌイ・ハン国軍の兵力は騎馬民族と属国軍のみとなり、兵力も16万までに減少していた事は事実である。
この手痛い損害に、ザーバトヌイ・ハン国軍は作戦方針を変える。兵糧攻めによる持久戦だ。防衛線から約8キロの距離を置いて、包囲の陣地を広げつつ、食糧の確保に周辺の無人の村々から収奪する。その巨大な包囲陣が完成したのは年をまたいで帝国歴1800年1月4日の事だった。
一方でノースグラードでは緒戦の大勝に住民と北方支隊が湧きかえっていた。士気は天を衝くばかりで、反撃の提案が各所から寄せられていた。
だが、モーズリー中将は素直に喜べなかった。倒した敵はほとんどが農民兵。正規軍にも大打撃を与えた事も事実ではあるが、優勢になったとはとても言えない。しかも野戦重砲連隊の砲弾は曳火榴弾、曳火榴散弾ともに残弾なし。実体弾も残りわずかで、近距離用の散弾が使用されずに少数が眠っているだけだったからだ。歩兵第3師団の砲兵連隊に至っては残弾無しだ。食糧も難民の大量受け入れにより、半年持つはずが、3カ月分がせいぜいだ。それも節約して。中島隼人皇帝の軍ははるか南。モーズリー中将は笑顔を浮かべながらも、腹の中では不安が渦巻いていた。
そこへ帝国歴12月31日、隼人からの電文が届いた。
『皇帝自ら主力を率い、ノースグラードを救援する。ノースグラード守備部隊は救援到着まで義務を果たす事を期待する』
現実に食糧の配給が減り、現実が見え始めた将兵、住民はこの報に再び湧きかえった。この時ばかりはモーズリー中将も心底喜んだ。中島隼人皇帝は百戦錬磨の名将として大陸西部に名高い。モーズリー中将は隼人とエーリカの書く戦争論文も読んでいたため、援軍さえ間に合えば確実に勝てる。そんな確信を抱けた。
だが、北方支隊とノースグラードの試練はまだ始まったばかりだ。この籠城戦は後世に長く伝えられる事になる。
私事ですが、自分にとって全くの新ジャンルのスマホゲームに手を出し、不安からチャットで発言しまくってたら、チームの副リーダーにされてしまった。
その上リーダーが突然引退してリーダーのお鉢が自分のところへ……どうしてくれよう。
そんなわけで、しょうもない事情で忙しくなったので、更新が遅れるかもしれません。申し訳ないです。




