表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/135

第113話 嵐の前の対策

 皆さまお久しぶりです。体調が復活したので投稿も再開いたします。ご心配をおかけしました。


 前回は戦争の始まりで盛り上げておきながら今回はその直前の会議……。見せ場までもう少し引っ張ります。

 帝国歴1799年3月、内政と軍拡に精を出していた隼人達だったが、この頃になって不吉な情報が届き始める。


 「ノルトラント帝国、アーリア王国の一部、コンキエスタ教皇領、タラント王国で兵糧、武具の集積が始まっている。さらにコンキエスタ教皇領とバクー王国が停戦条約を結んだ。これは我々にとって良い知らせではないだろう。国内でも教会領などが同じく戦の準備を始めている。我々は外と内に両方敵を抱え込む危険性が高まったわけだ」


 定例会議の席で内務大臣と情報大臣を兼ねる梅子が第2ロマーニ帝国の危機を知らせる。


 「さすがにコンキエスタ教皇領との決裂は厳しいものがありますな」


 「タラント王国を先の戦で、人材不足を理由に中途半端な叩き方をした事もまずかったな」


 外務大臣のフェルトン公爵とエーリカも隼人の失敗を指摘する。


 「過ぎた事を気にしても仕方があるまい。今はこの危機をどう乗り越えるかだ」


 総理大臣のマチルダが責任の追及よりも、これからの方策を策定すべきと会議を誘導する。事が重大すぎるため、責任の追及より先に対応策の議論の方が重要であるとの認識からである。

 もっとも、責任を追及するとどうしても隼人の教皇庁との敵対宣言を避けて通れない。故に皇帝の権威を棄損し、建国間もない第2ロマーニ帝国の統制に支障をきたしかねないとの危惧から、責任自体をうやむやにするしかないとの打算もある。隼人への追及は家族会議で査問し、猛省を促す事で済ませるしかあるまい。

 皇帝の失態の責任を誰も負えない事態は不健全で、なおかつ国内貴族などの不満を呼ぶが、これはもうアメとムチで誤魔化すしか手がなさそうだ。ブラックな独裁政治になりかかっているが、今は隼人の指導力に期待するしかない。矯正は事態が終息してからだ。

 この意識はこれまでの会議で全員が共有しているため、場の空気が陰鬱となる。隼人も、見る者が見れば、居心地悪そうに見える。まだまだ反省は足りないが、これでも家族会議で矯正した結果だ。


 そんな空気の中、エーリカがあっけらかんと言い放つ。


 「方針自体は選択肢がなく、単純明快だ。勝利か死か。これだけだ。我々には政治面で後退する余地は存在しない。問題はどのように戦うかだ」


 「国防大臣としては国内の統制強化をお願いしたいところです」


 「俺も同意見だ。背中から斬られては戦はできん。不満分子をおとなしくさせるか、撲滅しないと戦に支障が出る」


 国防大臣のゴラール公爵の発言に、エーリカが露骨な表現で賛意を示す。


 「……内務大臣としては遺憾ながら、穏便に反体制勢力を鎮める方策はもはやない。もうすでに連中は腹を決めているようだ。内戦……、それしかないだろうな。外国勢力の侵攻時期を考えると間に合うかどうか怪しいが……」


 梅子が落胆の声で、国内の統制が破綻しかけている事を告げる。


 「この際、味方のフリをした敵は刈り取ってしまうべきだろう。幸い、反体制派の軍備は旧式だ。同時蜂起されても各個撃破は可能だろう。やるならば早い方がいい。どうする、隼人?」


 エーリカの問いかけに隼人は思案する。


 「軍役を課す……、は最後まで擬態を続けられると困るな。じゃあ軍税を課す……、といっても味方まで逃げかねんか……。となると……、戦時国債の割り当てを強制するか?」


 「戦時国債、とは?」


 金の話になったのでセオドアが疑問を代表して質問する。


 「戦費を賄うための国の借金だ。戦争が終われば利息を付けて債権者に返す。まあ、単なる借金の言いかえだな。返済は戦争に勝てば敵の国庫が期待できる。戦時国債を割り当てられた者は戦功がなくとも多少の利益は保証されるわけだ。同時に敵にはこの割り当てを増やして暴発を誘う。連中は敵に賭けているわけだから、暴発はさせやすいだろう。それに最悪、引き分けになったとしても今の財政には余裕があるし、暴発した連中の戦時国債は無効としたら返済には困らんだろう」


 「それで蜂起が起きなかったら?」


 「2次、3次と戦時国債の割り当てを増やすだけだ。まあ、他の貴族達が厳しくなれば、そういう連中は軍役を免除すればよかろう」


 「それで、軍役を徐々に軍税に置き換えて国軍強化の布石にするわけか……」


 「そんなところだな」


 セオドアの質問に答えた隼人に対してマチルダが確認をとる。隼人はこの機会でも中央集権化を図るつもりだ。近いうちに貴族達の私兵は領地の警備任務が手一杯になるだろう。




 「とりあえず背中の脅威は目途が立ったわけだが、外国との決戦はどうする?」


 エーリカの発言で今度は包囲網に対する対処に議題が移る。


 「そこはもう戦力を集中して各個撃破の内線戦略しかないだろう。順番は弱い順にノルトラント帝国、タラント王国、アーリア王国、コンキエスタ教皇領、といった順が無難か。これらを撃破するまで攻撃にさらされる領地には避難勧告と復興資金が必要だな」


 「……隼人の案に異議はないが、1つ面倒な知らせが来ている」


 エーリカはそう言って1通の手紙を隼人に渡す。


 「俺の後見人だったバウアー・フォン・クルト伯爵らが、西進派が暴発した際にはうちの国に加わりたいと言ってきている。俺の縁でそれなりに経済面での繋がりができているからな。で、彼らが有事にはケルンに籠城したいそうだ。ケルンは直轄地だし、最先端技術も投じている。ケルンを死守するためにアーリア王国への攻撃の順序を繰り上げてもらえないか?」


 「……そうだな、ノルトラント帝国からタラント王国へは距離がある。先にアーリア王国を叩いても問題はないか。野戦軍さえ撃破してしまえばけりがつくまで現地部隊のみでの防衛も可能だろうからな」


 「ありがとう」


 「バウアー伯爵らがこちらに来てくれる事はありがたいからな。目下の人材不足を補える。うちの国に来たらこき使うとでも返事を出しておいてくれ」


 「わかった」


 エーリカは自分の親しい人が救えると決まって安堵した顔になる。




 「しかし勝利までの策を考える事は簡単だ。成功するかどうかは脇に置いてな。戦争で1番問題になるのは戦後処理だ。先のタラント王国との戦では人材不足ゆえにここでしくじった。やはり敵は完全に粉砕するか、名誉を与えるべきだったな。中途半端な戦後処理になった事は反省している。故に今回は全てを平らげる。人材の育成状況はどうだ?」


 隼人の宣言に、教育を統括しているアントニオが報告する。


 「最低限の事はこなせる下級官吏は何とか揃えました。とはいえ、言われた事を辛うじてできるくらいまで要求水準を下げている事を留意してください。貴族や騎士を代官に据え、その指揮下に下級官吏を送り込む事で統治は辛うじて何とかなるでしょう。中級官吏の育成は間に合わないので、その職務は貴族や騎士に任せざるを得ません。忠誠、という点では怪しいですが、敗戦国からの登用も積極的に行う必要があるでしょう」


 「敵国を征服するとなれば、そこは未知の土地です。その土地に住む人、民族もそうですが、農地の土壌が全く異なる可能性が高いです。下手な農地改革をやるとかえって農業生産に害を及ぼす事を周知徹底させる必要があります。先のタラント王国との戦で得た土地も、未だ最適な農法を実験農場で探っている状態である事をお忘れなく」


 アントニオの言葉にエレナが続く。農産物の試験は時間がかかるので、品種改良も新農法の普及も道半ばだ。


 「アントニオ、俺が言うのも何だが、若い者は急進的な人間が多い。その点、官吏達によく叩き込んでおいてくれ」


 「もちろんです。それから、陛下もお気を付けなさるようお願いします」


 「あ、ああ。善処する」


 隼人が分かっていて投げたブーメランが綺麗に突き刺さり、会議室に失笑が漏れる。




 「次は外交だな。敵国を征服するとなると、どうしてもタイハン国とバクー王国と国境を接する。出来れば穏便に済ませたいところだが……」


 隼人の言葉に外務大臣のフェルトン公爵が朗報をもたらす。


 「陛下、1つだけ朗報があります。タイハン国の西部を実効支配する有力者から打診がありました。彼らはノルトラント帝国を我が国と分割したいようです。それから、国境を接した暁には武器支援を求めています。彼らはノルトラント帝国と不戦協定を結ぶ腹積もりのようですが、反故にする気のようですな」


 「2枚舌外交のくせに強気だな。まあ背に腹は代えられん。我が国が攻撃を受けた直後に動くなら3分の1を、我々がノルトラント帝国軍主力を撃破した後で動くなら4分の1をくれてやると伝えてくれ。出来れば割譲地域は我が国で占領した上で引き渡し、恩を売っておきたいところだな。武器支援に関しては……倉庫に眠っている旧式武器を捨て値で売ってやるか」


 ちなみにタイハン国の情報を得たのは梅子の情報省ではなく、外務省の諜報部門である。隼人は敢えて情報部門を情報省に統合しなかった。なぜなら情報を探す目線によって見えてくるものが違ってくるからだ。そのため、情報省の他、国防省、外務省、産業省、科学技術省、経済省、内務省などが独自の諜報網を整備している。

 もちろんこれだけなら単なる非効率なので、毎週各級担当者が情報省に集まって得た情報資料と分析を共有、整合し、その結果を梅子が隼人に報告している。


 「バクー王国の方はどうか?」


 宰相のローネイン公爵(最近昇爵した)がもう1つの国に関して質問する。


 「バクー王国の方は完全に敵方と結託しています。おそらく、コンキエスタ教皇領を降した後に1戦を交える事は避けられないでしょう」


 「1つ楽観的な情報があるとすれば、バクー王国はコンキエスタ教皇領との休戦で軍備よりも国力の回復を優先しています。戦になるとしても初動が遅れる可能性が高いです」


 ローネイン公爵の暗い報告に、セオドアが物流から得た情報で場を励ます。


 「国防省からも、バクー王国軍は各領地に帰還、タイハン国に備えるなど、軍の再編成と休養、訓練など、軍事力の回復と領主の負担軽減に動いていると報告が来ています」


 セオドアの情報に国防大臣のゴラール公爵が付け加える。


 「ただし、バクー王国は我々が勝つとは思っていないようだ。今から交渉する事は困難だな。交渉は勝利して、1戦交えてからになるだろう」


 最後に梅子が締めくくる。


 「何はともあれ、まずは勝利が必要になるわけだな。すぐに戦時体制に移行しよう。セオドアは戦時国債の準備を、ゴラール公爵とエーリカは内戦の準備を、パウルはこちらが都合のいい時に連中が暴発するように宣伝を頼む。さて、前哨戦は手早く済ませるぞ」


 隼人の宣言で会議が終わる。後は各々が仕事を果たすだけだ。




 その後、2カ月半の間に敵対する宗教勢力及び貴族は戦時国債の負担に耐えられなくなったところからバラバラに蜂起し、鎮圧され、我慢強く戦時国債の割り当てに耐えた領地も軍資金が枯渇し、兵を動かせる状態ではなくなった。

 そして内乱を鎮圧し、来たるべき決戦に備えて各地に散った兵力を呼び戻し、再編成を行っている最中に運命の日、帝国歴1799年6月2日が訪れた。この日からこの年の終わりまで、大陸西部全域で激震が走る事になる。だが、どちらが勝とうとも、長期の混乱は避けられないだろう事は間違いがなかった。

 次回は戦闘シーンの予定。出来るだけ早めに投稿できるように頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ