第104話 政変後の混乱とマリブール遷都令
今回は第103話と2話同時更新です。ご注意ください。今回も第103話同様、短くなっております。
帝国歴1796年12月10日、隼人は第2ロマーニ帝国で初めての閣僚を選定した。とはいえ新帝国は発足間もなく、内紛も継続しているので、あくまでこれは臨時の閣僚である。その人選の内、重要な者は以下の通り
皇帝 中島隼人
宰相 ローネイン伯爵(のちに公爵に昇爵)
総理大臣 中島マチルダ
財務大臣兼産業大臣 スミス・セオドア
内務大臣兼情報大臣 中島梅子
情報省宣伝局局長 シュタイナー・パウル
国防大臣 近衛熊三郎
科学技術大臣兼教育大臣 フランコ・アントニオ
外務大臣 フェルトン公爵
法務大臣兼憲法準備特別大臣 中島セレーヌ
農林水産大臣 フランコ・エレナ
宮内大臣 エモン子爵
非常時ということもあって、身内に偏った人選ではあったが、内紛が治まるとともに副大臣として多数の貴族が補任される事でこの体制は長く続く事になる。ちなみにエーリカが国防大臣に入っていない理由は、「俺は軍政(軍の編制、教育、装備の調達、人事などを所管する)は苦手だ。戦場で先陣を切りたい」と、就任要請を蹴ったからである。
さらに宰相と総理大臣が両立している理由は、将来議院内閣制で総理大臣を選出する事を目指しているからである。現在は皇帝を宰相が輔弼し、宰相を総理大臣が補佐し、各国務大臣が総理大臣の監督を受ける仕組みになっている。いずれは皇帝と宰相には権威だけを残し、総理大臣に権力を集中させるつもりだ。どれだけ時間がかかるかは分からないが。
だが組織の上では総理大臣は宰相の下だが、総理大臣にはマチルダが、つまりは皇妃が就任している。現在の閣僚では宰相は皇帝と総理大臣の間の緩衝材、あるいは名誉職に過ぎない事は明らかだ。それでもローネイン伯爵は嫌な顔をせずに笑って引き受けてくれた。これはローネイン伯爵に対する大きな借りとなったが、彼は器の大きい人物で、度々貴族達から集約した意見を隼人に提言し、諌言をしてくれる、隠れた名宰相となるのである。
閣僚の選定が終われば、次に私戦の停止の徹底と信賞必罰だ。まず足元を固めない事には他国に付け入る隙を与えるし、今後の改革にも支障が出る。ひとまずの基準としては、実際に中島家と干戈を交えた旧貴族、そして停戦命令に従わなかったルブラン方貴族は全て改易。停戦命令に従ったルブラン方貴族と、停戦命令に従わなかった中島家方貴族は領地の一部召し上げ、あるいは爵位を下げる。そして中島家に従い、停戦命令にも従った貴族には代官領の加増と昇爵を与える。もちろん各地の私戦で領地が変動している場合は、政変前の勢力圏に復帰させるように命令した。
それと同時に、国内の領地争いは全て司法で解決するように通達を出すとともに、アントニオに命じて国内全ての測量と検地の開始を命じた。大規模な人員の教育からのスタートとなるが、これをやらないと領地の境目が不明瞭となり、国内の小競り合いの火種が燻ぶり続けるからだ。もちろん測量による正確な地図は軍事面でも最重要な資料となる。
そしていまだに意地を張って中島家に抵抗を続ける貴族達に対して討伐軍を編成、順次送り出していった。この残存抵抗勢力の鎮圧には3カ月の時を要する事になる。
時は遡って帝国歴1796年12月14日、この日はロリアンの復興について会議が行われていた。
「ロリアンの主要な道路の瓦礫の除去と、大方の遺体の火葬、埋葬は終了しました。しかし瓦礫の完全な除去には1年近くはかかる見込みです。奴隷を大量動員すれば多少は短縮できますが、肝心の奴隷用家屋すら事欠くありさまで、ロリアンでもマリブールでも凍死者が出始めています。幸い、ロリアンの被災民には凍死者は出ていないようですが」
「そうか……、奴隷が死んだ事は残念だが、マチルダ達は何とかやってくれているらしいな」
「ええ、マチルダ殿下の手腕がなければ被災民にも死者が出ていたでしょう」
アントニオとのやり取りに、隼人は安堵とも残念ともとれるため息を漏らす。ちなみに総理大臣のマチルダはいまだマリブールに留まっている。被災民の受け入れと家屋の建設の指揮で手一杯だからだ。
「……アントニオ、先に内示した案だが、ロリアンの復興と、どちらが早い?」
「……どうとも言えませんね。ただ、内示された案の方が都市計画の自由度が高く、魅力的である事は事実です」
「アントニオ殿、陛下が内示された案とは何なのだ?お聞きしても?」
隼人が内示した案が気になってアントニオに説明を求める宰相のローネイン伯爵。内示していたのはアントニオだけなので、他の出席者も説明を求める顔をしている。
「ふむ、どうせだから私が答えよう。ロリアンが首都機能をほぼ喪失している以上、首都機能を一時はマリブールに移転せざるを得ない。そこで、ついでだからマリブールとブレスト港の間に新たな首都を建設するとともに、マリブールとブレスト港を完全につなげてしまおうと思ってな。その見積もりをアントニオに頼んでいたんだ」
近年、マリブールとブレスト港は拡張を続け、両者の間隔が狭まっていた事は確かだが、それにしても野心的な計画である。
「……陛下、マリブールの勢いが凄まじい事は知っておりますが、それでは貴族の反発を生むのでは?それに、交通の便の問題もあります」
隼人の遷都案にローネイン伯爵が苦言を呈する。
「交通については、船便が使えるからそれほど問題にはならないだろう。少々移動時間が延びる事は認めるが。貴族の反発については、この程度で反発する連中なら今のうちに武力で片付けておいた方が後々楽だ。これから先、大きな改革をするつもりだからな」
「陛下、一応その改革の概要を説明していただいても?」
隼人の過激な発言に不安を持ったローネイン伯爵が再び尋ねる。
「うむ。先日の第2ロマーニ帝国の建国から分かると思うが、私の目的は大陸の統一だ。そのためには軍制改革と政治改革が不可欠だ。具体的には貴族と騎士を武官と文官に分け、軍事力を皇帝、つまりは私の下に集中させたい。貴族の私兵を皇帝の直轄に移すという事だな。もちろん、あまり急速に進めて国を割る事態は避けたいが」
隼人の封建制度脱却宣言に息を飲む一同。平然としているのは先に計画を知らされていた桜やエーリカ、梅子にセレーヌといった妻達くらいだ。隼人は具体的な話を続ける。
「軍事での才覚を持っていても内政手腕を持たない者、あるいはその逆の者に天職を与える事ができるし、土地を持つ貴族から軍事力を取り上げる事で今日のような内紛を避ける事ができる。もちろん、土地や武力を手放したくない貴族ばかりであろうから、慎重に進める必要があるがな」
隼人はこの時はこう言ったが、後に帝国を揺るがす大乱の余波でこの改革は一気に進むことになる。
「まあ、今はこの話は先の事だ。遷都に関しての反対意見はないか?」
隼人の問いに一同は顔を見合わせる。どうやら反対意見は無いようだ。
この後の会議ではロリアンの復興計画が討議された。ロリアンは当面はマリブールへの中継地点として用いられるが、将来は広大な道路を中心地から放射線状に伸ばし、さらに同心円状にも広い道路がめぐらされる重工業都市兼港湾都市としての都市計画が策定される事になる。
そして翌年の帝国歴1797年1月1日、マリブールに帰還した隼人はマリブール遷都令を出す事になる。同時にマリブールとブレストの間のマリ河の畔の小高い丘に新たな首都の政庁となる新たな城の建設が始まるのであった。
第104話は少し慌てて執筆したので、話が荒いかもしれません。誤字、脱字報告、あるいは厳しい意見があればよろしくお願いします。
第3章のあらすじ、人物紹介はもう少しお待ちください。筆者の時間が空き次第執筆します。最新話の更新を優先するのでこちらは少し遅れるかもしれません。